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第48話 一度男女関係で生じた誤解を解くのはなかなか難しいものだ


「よし……これで最後だ。ほら、あーん」


「あーん…………あむ……むぐむぐ……むぐむぐ…………ごちそうさま」


「ん。お粗末様でした」


理性と本能が戦いを繰り広げる事、約20分。どちらが勝ってもおかしくない大接戦の末、理性が僅差で競り勝った。



ふー…………本気でやばかった。

気を紛らわす為にも予定を前倒しして、買い物に行こう。うん、そうしよう。

ここにこれ以上留まるのは色々まずい。



「じゃあ、俺は晩ご飯の買い物に行って来る。ちゃんと薬を飲んで寝るんだぞ」


そう言い残して、足早に和の部屋から出ようとした俺であったが––––


「なあ……冬夢。ちょっと待ってくれないか?」


––––和に服をつかまれ、それは妨げられてしまった。



「な、何だ?」


「…………そ、そのだな……やって欲しい…………こ、事があるのだ……」


先ほどと同じようにそこで口ごもる和。


…………もう嫌な予感しかしない。

俺の中の虫が「和の手を振り払ってこの部屋から脱出しろ!」と知らせてくる。


予想が正しければ、この後和が俺にさせようとしている事は俺の理性を軽く20回は木っ端微塵にできるぐらいの破壊力を持っているはずだ。


逃げないと…………死ぬ!



しかしそうはわかっていても、女の子––––それも熱を出している––––の手を乱暴に振り払えるほど、俺は肝が据わってはいない訳で。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


これまた先ほどと同じように、和が再び口を開くのをただひたすら待つのであった。









「…………」


「…………」


和が俺にして欲しい事があると言ってから、一体どれだけの時間が経っただろうか?

多分まだ2分も経っていないのであろうが、俺には何十分も経っているように感じられた。


…………死刑宣告を待つ犯罪者もきっとこんな感じなんだろうな……。



「…………」


「…………」


「…………そ、そのだな……」


「…………あ、ああ」


ついにきた!

俺はごくっと生唾を飲み込む。


「…………せ、背中を……その……濡れタオルで拭いてくれないか……? 汗が気持ち悪いのだ……他の所は自分でできるが…………背中は自分では拭きにくいからな……頼めるか……」


「え…………あ、ああ」


や、やっぱりだ。きた。本当にきてしまった。 “体拭き” が。

ある程度は予想はしていたものの、やはり本人の口から聞くと物凄い衝撃が身体中に走るな……。


せめて物の救いは背中だけで良いという点だ。


もし身体全体拭く事になっていたら、俺はその言葉だけで理性を保てなくなっていたに違いない。


しかし、ここで安心してはいけない。

今から用意して拭かないといけないからだ……。拭き終わるまでは決して気を抜く事はできない。


まさに戦場。そして、言うまでもなく相手は “本能” 。一瞬でも気を抜けばあっという間に殺られてしまう。はっきりいって、こちら側–––– “理性” ––––の方が圧倒的不利だ。


それでも俺は……俺はこの戦いに勝ってみせる!



「ち、ちょっと待っててくれ。用意してくるからさ」


そう心に決め、俺は和の部屋から出た。












「な、和……お待たせ」


「……ああ」


お湯に濡らしその後軽く絞ったタオルを何枚か用意しお盆にのせて、和の部屋に戻ってきた訳なのだが…………


何だ! 何なんだ! この気まずい雰囲気は!


まるで今から俺が和に悪い事を仕掛けるみたいじゃないか。

いや、まあ邪な感情がないといえば嘘になってしまうのだが……俺だって健全な高校二年生だ。その辺はもうどうしようもない。



「じゃあ……ベッドから降りてここに座ってくれないか?」


そう言って、俺は持ってきた背もたれのない椅子を指差す。

和には負担をかけるかもしれないが、これは仕方ない。

ベッドの上だとどうしても拭きにくいからだ。それにあそこは本能の本拠地みたいなもの。あそこにいるだけで本能が刺激されてしまう。




「…………わかった……」


和は俺の言葉に従い、椅子に座る。


さあ、ここからは気を引き締めていかないとな。


俺は大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。



「よ、よし……じゃあ……その…………背中を……」


「…………ああ……」


和は躊躇いつつもパジャマをたくし上げ、背中を露わにした。

やっぱりと言うか何と言うかそこに下着の姿は見受けられなかった。


響レベル––––––––とまではいかないが、白くシミ一つない和の背中を見て、顔が赤くなるのを感じた。


和のチャームポイントである黒髪が白い背中によっていつも以上に魅力的に見える。

何だか物凄くエロくて…………って、ヤバイ! これは本当にヤバイ! 本能に徐々にではあるが、理性が圧されていっているのがはっきりとわかる。


もう素早く終わらせてしまおう!



お盆から一枚タオルを取り、まだ温かい事を確認する。


「…………じゃあ、いくぞ?」


「ああ……」


そして俺は和の背中にタオルを当てて––––


「ふひゃあっ!」


「!」


––––そのまま慌てて手を引っ込めた。


何だ! 今の和らしからぬ可愛い声は!


「……ど、どうしたんだ?」


「…………す、すまない。ちょっとびっくりしてしまってな…………もう大丈夫だ」


「そうか……じゃあ、いくぞ?」


「……ああ」


俺はドキドキし過ぎて破裂しそうな胸を深呼吸で少し落ち着かせ、もう一度タオルを背中に当てる。


「…………んっ……」


体をピクッと震わせ、色っぽい声をもらす和。


くそっ……! 無心だ! 無心になるんだ! 煩悩を捨て去れ! 本能を理性で以て抑え込め! 仏陀になりきるんだ!


頭の中で自分に落ち着け! と言い聞かせながら、和の背中を拭いていく。


「…………ど、どうだ?」


「……ああ、気持ちいいぞ…………すまないな冬夢」


色っぽい声音で言われた “気持ちいい” というフレーズにドキリとしながらも、俺はただひたすらに背中を拭き続けていった。



「…………よし……こんなものか?」


和が女の子であり背中が狭かった事、そして何より服を脱がずにたくし上げた為、胸を意識せずに済んだ事が幸いし、和を本能の赴くままに––––––––という事態は回避する事ができた。


「…………ん……すまなかったな」


ただ、精神的にもそして常時緊張状態だった為、身体的にもどっと疲れてしまった。


買い物に行かないといけないのだが…………今はそんな体力も気力もない。


自分の部屋に戻って休憩しよう。

確か冷蔵庫にオロ○ミンC があったはずだ。


「後は自分でやれるよな? 俺は自分の部屋に戻るけど、何かあったら遠慮なく言いに…………あー、あまり体を動かすのはよくないよな。メールで知らせてくれたらすぐに駆けつけるから」


「何から何まですまないな」


「いいっていいって。このぐらいはやって当然だよ。じゃあ」


そう言い残して、俺は和の部屋を後にした。








「あー…………疲れた……」


俺は椅子に深くもたれかかり、大きく息を吐いた。


本当ならベッドに倒れこみたい所だが、そんな事をしてしまうとそのまま明日の朝まで寝てしまいそうなので、そこはぐっと我慢する。


「んぐっ……んぐっ……んぐっ……ぷはーっ。…………」


オロナ○ンCを一気に飲み干し、一息つく。

炭酸が疲れた体に染み渡り、少しではあるが体力が回復したような気がした。



「あ、そう言えば桐生ののろけメールに返信するのをすっかり忘れていたな。このまま無視するのは流石にかわいそうだし、返してやるか」


ちなみに桐生からののろけメールは普段から頻繁に送られてきていたりする。


小さい事から大きい事まで。

とにかく萩原とのイチャイチャイベントが起きたらすぐさま俺に報告してくるのだ。


…………俺に報告する義務なんてないってのに……絶対面白がってやってるよ、あいつ。



いつもは悔し紛れに皮肉ったり茶化したメールを送ったりするのだが、今はそんな事をする気が起きない。

とりあえず当たり障りのない内容を簡潔に書き、送信した。


「ふぅ……そろそろ買い物に行かないと……でもしんどいし……もう今日は宅配ピザでいいかな……」


再び椅子に深くもたれかかり、今後の予定をぼんやりとながら決めていると––––


「ん?」


––––手に持ったままであった携帯が震え、誰かからメールが届いた事を伝える。


桐生か? こんなに早く返信してくるとは珍しいな。またのろけ話なんだろうな…………くそっ。


少しイラつきながらも携帯を開き、メールをチェックする俺。


「…………ってあれ?」


しかしメールの送り主は桐生ではなく和だった。


題名はなく本文には手短に『すまないが今から来てもらえるか?』とだけ書かれてある。


何の用事かはわからないが、とりあえず行ってみるか。


「…………また本能との全面戦争にならなきゃいいけど……」



体力と気力をこれ以上消耗しない事を祈りつつ、俺は和の部屋へ向かった。









「おーい、何の用なんだー? ……って、和?」


「…………」


部屋に入るや否や俺の目に飛び込んできたのは、ベッドの上でこっちを向いて正座している和の姿だった。


「えーっと…………どうしたんだ?」


そんな異様な光景に若干気圧されながらも、和に俺を呼び出した理由を尋ねる。


ポ○リはまだあるみたいだし、まさか薬を飲んでちょっと元気になったから唐揚げが食べたいとか言い出すんじゃないだろうか?




「…………私には年の離れた兄がいる」


「え?」


しかししばらくの沈黙の後、和の口から放たれたのはそんな言葉だった。


急にどうしたんだ? もしかして熱で頭がおかしくなってしまったのか?


混乱する俺をよそに和は話を続けていく。



「身内である私が言うのも何だが、兄は頭も運動神経もよく顔も整っている方なのだ……しかし性格に難があってだな。私に甘えてばかりのシスコンなのだ。もうそれは目を覆いたくなる程のな」


「…………はあ……」


「私は兄が嫌いだった。私のやる事なす事全てに関わってこようとするからな。兄が仕事の関係で家を出て遠くで一人暮らしをすると知った時は、あまりの嬉しさに友達を家に呼んでパーティーを開いた程だ」


「…………なるほど……」


「しかしそんなはた迷惑で情けないな兄も私が病気になると別人みたいに頼もしくなってな。学校や仕事があってもそれを休んで付きっ切りで看病してくれたのだ。冬夢がやってくれたようにご飯を食べさせてくれたり、背中を拭いてくれたり。何より嬉しかったのは私が寝付くまで横で一緒に寝てくれた事だ。熱が出るとなかなか寝付けないのだが、兄が横にいると不思議と寝付けたのだ。それでだな…………その…………」


ああ、なるほど。ようやく和の言いたい事がわかった。回りくどい言い方をしやがって……全く変な所で素直じゃないな。


「わかったわかった。俺が和のお兄さんの代わりを務めるからさ。そんな格好してないで早く寝るぞ」


俺はそう言って、ベッドに横になった。


「…………ああ!」


嬉しそうに顔を輝かせ、俺と同じようにベッドに横になり、俺と自分に布団をかぶせる和。


ちょっと恥ずかしい気もするが、さっきの背中拭きやお粥を食べさせるのに比べたら全然マシだ。まるで穂乃佳を相手にしているかのような気分である。

和のお兄さんの話を聞いたせいなのかもしれないな。


「そう言えば、和のご両親ってどんな感じの方々なんだ?」


和の家族の話を聞いた事がないなと思い、そんな事を尋ねてみた俺であったが––––


「…………んん……」


––––和はもう既に夢の中だった。こっちを向いて、幸せそうな寝顔を浮かべている。



「本当にあっという間だな……。…………これ、俺がいなくても寝れたんじゃないのか?」


あまりの寝つきの良さに苦笑しつつ、そのまましばらく和の寝顔をぼんやりと眺める。


「あー……やばい…………何だか和の寝顔を……見てたら俺も…………」


俺は和と向き合ったまま眠ってしまった。









「ただいま〜…………だぁ〜、疲れたー」


オレ、善家 響は買ってきた物を玄関に置きリビングに向かう。今は5時。晩ご飯までに余裕を持って帰ってこれた。


いやー、疲れた……。やっぱり電車は苦手だ。男と近づく機会がどうしても多くなってしまうからな。やっぱり軽度とはいえ男性恐怖症持ちの身としてはキツイ。


でも今日はそれを補ってあまりある程の買い物ができた。

手芸に必要な道具に音々華オススメのぬいぐるみ専門店で買ったオオカミとパンダのデフォルメぬいぐるみ。

ついでに和には唐揚げのぬいぐるみキーホルダー。冬夢にはキツネのぬいぐるみキーホルダーをお土産として買ってきた。


ああ、和と冬夢が喜ぶ顔を早く見てーな。



「って、あれ……誰もいねーな」


和も冬夢も電話に出なかったし……多分あれだな。和はまだ寝ていて、冬夢は買い物にでも行っているんだろう。


あれだけ人に電話しろと言っておきながらケータイを忘れて出かけるとは、冬夢らしいと言うか何と言うか。


「とりあえず荷物を自分の部屋に運んでしまうか」


オレは玄関に置いた荷物を持ち、自分の部屋がある二階へ上がった。






「お、やっぱりまだ寝てるんだな」


自分の部屋に向かう途中に和の部屋を覗いてみると、寝息に合わせて布団が上下に動いているのが見て取れた。


そのまま自分の部屋に行こうとしたオレであったが––––


「あ、そーいや」


––––とある事を思い出して、足を止めた。


そうだ。あれはGW初日の朝。

和の奴、ぐっすり眠っていたオレにいたずらしやがったんだ! あの時の和の楽しそうな顔といったら––––くうっ! だんだん腹が立ってきた!


ここで思い出したのも何かの縁だ。仕返ししてやる!



荷物をその場に置いて、和を起こさないように忍び足でベッドへと近づく。


どうやって起こしてやろーか?

流石に耳元で叫ぶのは危ねーから……耳に息を吹きかけてやるか? それともくすぐってやろうか? それとも––––––––お! そうだ! あの醜い一対の脂肪の塊を揉みしだいてやれ! それも大声を出しながら!




「…………よし」


入口からベッドまではたいして距離もなく、あっという間に和のすぐ側まで近づけた。



布団を顔の所までまでかぶってるから寝顔は確認できねーけど、後は布団を引っ剥がして…………ふふふ。


「うおりゃー! 起きろーなご…………へ?」


冬夢が一緒に寝てる…………? しかも向かい合って…………?



プツンと頭の奥で何かが切れる音がしたような気がした。









「おいコラ冬夢! 起きやがれ!」


「なっ、何だ⁈」


耳元で突然自分の名前を叫ばれて、俺は飛び起きた。


な、何だ? 何が起きたんだ?


慌てて周りを見渡すと目の前に響が仁王立ちで突っ立っていた。いつの間にか帰って来ていたようだ。


「ああ、響か。ふぁ〜あ……おかえり」


「お か え り じゃねーよ!」


いつも以上に激しい口調で怒鳴りつけてくる響。

…………相当頭にきているみたいだが、一体どうしたのだろうか?


「えーっと、どうしたんだ響? そんなにイライラして」


「あ? 何だそれ? 冬夢、それ本気で言ってるのか?」


「ん? 何がだ?」


「冬夢にとって和と一緒に寝るのは別に不思議でも何でもない事なのかよ! オレの知らない所でそこまで仲が深まっていたって事か! せめて二人はそういう仲だと教えてくれていたら––––」


「!」


俺は全身の血の気がスーッと引いていくのを感じた。

そうだ。思い出した。和の寝顔をぼんやりと眺めてそのまま俺も…………。


やばい。これは本気でやばい。


響は和が熱を出していた事を知らない訳だし…………色々と勘違いされてもおかしくはない。

一刻でも早く誤解を解かなければ!



「違うんだ響。これには深い訳があってだな––––」


「うるせー! この期に及んで言い訳かよ! そんなもん聞きたきゃねーよ! くそっ! 失望したぞ冬夢! お前はそんなコソコソしたきたねー人間じゃねーと信じていたのによ!」



ダメだ。誤解を解くどころか、更に怒らせてしまった。


響を落ち着かせて誤解を解くにはどうすれば…………そ、そうだ! 和がいるじゃないか!

お粥を作った跡や薬を飲んだ形跡だって残っている!


和に響をなだめて貰って、その間に俺が物的証拠を持ってこれば万事解決だ!



「ちょ、ちょっと和起きて…………って、和?」


さっきまで横にいた和はいつの間にかベッドから抜け出し、机の前で竹刀を握りしめながら立っていた。


「くっ…………私とした事が……。ね、熱で思考が正常でなかったとはいえ…………冬夢にあんな事やこんな事を要求するとは……は、恥ずかしい。恥ずかしすぎる」


それに何か小さい声で呟いているし……はっきり言って怖すぎる。もしかして俺が風前の灯火である事に気づいていないんじゃないか? ……って、和の姿に臆している場合じゃない。


俺はベッドから降り、勇気を振り絞って和に話しかけた(響が何か怒鳴っているが今は無視だ)。



「なあ、和––––」


「忘れろっ!」


「え?」


和は俺の言葉を遮って竹刀を眼前に突きつけてきた。


あまりにも唐突過ぎる行動に俺は間抜けな声をあげる他なかった。


「だから忘れろと言っているのだ! お前のやったせな、背中…………って、そんな恥ずかしい事言えるか! とにかく冬夢のやったあんな事やこんな事、全部だ! いいな? でないと、恥ずかしすぎてお前と目を見て話ができん!」


「ちょ……」


その発言はまずいって! どこからどう聞いても “俺が和にいやらしい事をした” ようにしか聞こえないから!


やっぱりと言うか何と言うか、背後から感じていた殺気がより一層強まった。


ああ……もう清々しいぐらいの火に油状態じゃないか。



「おい、聞いているのか冬夢! おい!」


「…………コロス……」



どうあがいても絶望。にっちにもさっちにも動けない、完全に詰んでしまった状況に俺は––––


「さらばっ!」


––––一瞬の隙をついて和の部屋を抜け出した。


自分の部屋に戻り携帯と財布と家の鍵を取る。そして急いで階段を駆け下り、家の外に出た。



本当ならあそこでどんな手を使ってでも響の誤解を解くのが一番いいのだろうが、いくら何でも危なすぎる。

竹刀を持った和に半狂人化した響だぞ? そんなの、俺の命がいくつあったって抑えきれる訳がない。


情けない話だが二人が落ち着くまで––––少なくとも日付が変わるあたりまで、可能なら翌朝までは家に近づかない方がいいだろう。




「さて、どうしたものかな」


これからの方針は決めたものの 0時までにはまだまだ時間がある。

まさか外をぶらぶらとうろつく訳にもいかないし……。近くのネカフェで時間を潰すという選択肢もあるが、あそこは無駄にコスパが悪いからあまり行きたくない。

向かいの天照の家には須佐之男さんがいるから近寄り難い。



「仕方ない。あいつの家にお邪魔させて貰うとするか」


俺は携帯を開き、そいつに電話をかける。

待つ事7コール。ようやく電話にそいつは出た。




『もしもし』


「あ、桐生? 今家か?」


『ああ。そうだけど、それがどうかしたの?』


「悪いが今からそっちに行っていいか? できればそのまま一日泊めてくれると嬉しい」


『別に俺はいいけどさ……どうしたの? 音尾と善家とケンカでもしたの?』


「あー、まあそんな感じ。慌てて家を出たから財布と家の鍵と携帯しか持ってきていなかったりする」


『オッケーオッケー。着替えの服は用意しておくからパンツだけコンビニかどっかで買って来てくれ』


「ありがとうな」


『いやいや、いいって事よ。そういや冬夢が泊まるのって久しぶりだよな。何かテンション上がってきたわ』


「ははは。実は俺も。今、家の前だから20分ぐらいでそっちに着くと思う」


『りょーかい。じゃ、また後でな』


「ああ。じゃなあ」



やっぱり持つべき者は友達だな。


俺は逸る気持ちを抑えながら、近くのコンビニへ足を向けるのであった。






吾妻 深千流(以下深)「深千流と」


吾妻 弥千流(以下弥)「弥千流の」


深・弥「かみるーらじお!」


深「こんにちは。鳳凰学園高校3年、放送部部長をやらせて頂いている吾妻 深千流です」


弥「はろ~! 鳳凰学園高校2年の吾妻 弥千流だよ~。ちなみに、わたしは放送部副部長やらせて貰ってま~す」


深「“かみるーらじお!”とはもっと読者様に“神√”を知って頂きたい! という思いから生まれたラジオです」


弥「ゲストを呼んでフリートークをしたり、リスナーの皆からのお便りを読んだり、質問に答えたりしちゃうよ~」


深「さて “第48話 一度男女関係で生じた誤解を解くのはなかなか難しいものだ” いかがでしたでしょうか?」


弥「いや〜、今回はカオスだったね〜。もう少しで血が流れるところだったよ〜」


深「修羅場に片足を突っ込んでる感じでしたもんね。あれを上手く切り抜けた一ノ瀬君はやはり主人公といった感じですね」


弥「そうだね〜。あのとっさの判断力は見習いたいところだね〜」


深「次回からは役所くんの家でのお泊まり回ですね」


弥「ついに! ついにきたね〜! 主人公と男の親友のくんずほぐれつ回が!」


深「いえ、それはありませんから絶対に」


弥「え〜? 面白くな〜い。せっかく雀部さんやあのガチムチオカマ野郎とハーレムを築き上げかけて––––」


深「弥千流!」


弥「も〜……ちょっとぐらい語らせてくれてもいいのに〜」


深「いけません!」


弥「はぁ……そ〜いや新しいキャラが出てくるんだってね」


深「ええ。私も詳しい事は知りませんが、何でも神√ に不足していた属性を補うキャラらしいですよ」


弥「ん! もしかして……男の娘!」


深「ち が い ま す! 全く……もう」


弥「いいと思うんだけどな〜、男の娘。リスナーのみんなもそう思うよね〜?」


深「リスナーの皆様に同意を求めたってダメなものはダメなんです! 閉めますよ、もう! “神√” を読んでいて疑問に思った事や、このキャラとこんなトークをして欲しいという要望があれば、感想やメッセージ、活動報告のコメント欄からお知らせ下さい。また、誤字脱字や矛盾点などがありましたら、ご報告よろしくお願いします。他にも感想や評価、レビューなどもお待ちしております」


弥「みんな、男の娘キャラが見たかったら感想欄に見たいと書いてね〜。じゃあばいば〜い!」



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