第43話 いたずらが上手い人はだいたい頭が良い
どうして月読さんを初めとする神様達に脅かし役を依頼したか? それは私達一般人とは違い様々な能力を使えるからだ。
当初は月読さんに依頼しようと思っていたのだが、彼らに会うとなると彼らの住んでいる家まで行かないといけない。すると必然的に天照ちゃんや須佐之男さんとも会う事になる訳で。
天照ちゃんも須佐之男さんもいい人には違いないのだが、2人ともなかなかどうしてクセが強い。
天照ちゃんは見た目相応に幼い反応をするかと思えば、急に物凄く大人びた反応をしたりもする。幼い反応をする時は別にいいのだが大人びた反応の時は正直、対応が難しい。
須佐之男さんは異常なまでにシスコン(ロリコンも若干含む)で、須佐之男さんからみれば天照ちゃんに近づく男は全員敵という物凄く極端な物の見方をしている。もちろん冬夢も須佐之男さんから見れば敵であり、冬夢と会わせれば暴走するのは間違いない。
最初は2人を脅かし役に加えるか(天照ちゃんは当然のごとくやりたがり、須佐之男さんは天照ちゃんが一生懸命人を驚かす姿でも想像したのか、鼻血を垂らしながらやりたがった)悩んだ私であったが、月読さんが「大丈夫ですよ。僕を信用して下さい」と言ったので加える事にした。それでも不安である事には変わりないので、メインは月読さんにし、他は控えに回したのだが。
控えに回っている後一人の神様は倉稲魂ちゃんだ。
私が天照ちゃんの家で3人とリビングで作戦を話し合っているところに倉稲魂ちゃんの秘書であるという朧さんと一緒にやって来たのだ。何でも倉稲魂ちゃんは3人の妹にあたるらしい。
家に上がり込んで来てしばらくは、何をするでもなく私の横に座りボーッとしていたが、私が「冬夢」という単語を発した途端、急に「…………私もやる……」と私達の話し合いに割り込んで来たのだ。
話し合いが終わってから朧さんに聞いた話によると、どうやら冬夢はGWの前半(大雨が降った日だ)に倉稲魂ちゃんと知り合ったらしい。
詳しい話は知らないが、そこでも冬夢は天然フラグ一級建築士の才能を遺憾なく発揮したようで、倉稲魂ちゃんは冬夢の事を気に入ってしまったそうだ。
天照ちゃんと同じで恋愛感情にまで至っていないのが不幸中の幸いといえば幸いである。
これ以上ライバルが増えるのは、いくら私に「幼馴染」というアドバンテージがあるとはいえやはりキツイ。
「幼馴染」というアドバンテージも和と響の「同居人」という強力なアドバンテージの前で霞みかけつつあるのだが…………今は関係ない事だ。月読さんの話を続きを聞かなければ。
ちなみに妖怪屋敷の入口で私達に話しかけて来たスタッフが朧さんだ。結んでいた髪をほどき、メガネを外しただけであんなに雰囲気が変わるとは……。あの時はテンションが上がっていて、たいして気にならなかったが、今思い返してみると物凄い変化である。
「実はですね……。榎本さんがお帰りになった後、僕たちだけでもう一度作戦を練り直したんですよ」
「はあ…………またどうしてですか?」
「いえ、僕たち三貴神は榎本さんと一緒にたてた作戦で満足していたんですけどね、榎本さんがお帰りになってからしばらくして、突然倉稲魂がその作戦では詰めが甘いと言い出したんですよ」
「はあ…………」
「彼女曰く『…………それでは失敗する可能性がとても高い……。…………逃げ道があるし体力も有り余っている……。…………一ノ瀬 冬夢の性格から鑑みるに抱きつかずに逃走するはず……』との事で。榎本さんは知らないかもしれませんが、倉稲魂はいたずらのプロでしてね。その手の事に関しては私達なんかよりも遥かに詳しいんですよ。なので榎本さんには悪いですが倉稲魂指揮のもと、勝手に作戦を変更させて頂きました。本当なら榎本さんに作戦変更の連絡をしなければなりませんが、生憎榎本さんの連絡先を知りませんでしたので…………すいません」
そう言って深々と頭を下げる月読さん。
いやー、倉稲魂ちゃんがいたずら好きだったとは……。とても意外だ。てっきり、自分の身の回りの事は全然興味ありません(ただし冬夢は除く) ––––––––みたいな性格だと思っていたのに。
でもまあ、狐って狸と並んでいたずら好きだと昔から言い伝えられてるし、わからなくもない。もしかしたら昔話に出てくる狐って倉稲魂ちゃんなのかも……。
そんな事をぼんやりと考えながら、私も頭を下げる。
「そんな! 謝らないで下さいよ、月読さん。倉稲魂ちゃんにそんな一面があったのは少し驚きましたけど、むしろ私がお礼を言わなきゃいけませんよ。私の為にここまで考えて下さってありがとうございます」
「そう言って頂けるとこちらとしてもありがたいです。それで変更した作戦の内容なのですが、大まかに説明しますと…………ああ、自分の目で見て頂いた方が早いですね。これを。倉稲魂が書いた作戦表です」
月読さんは私に一枚の紙切れを差し出す。私はそれを受け取り、目を通した。
“一ノ瀬 冬夢と榎本 美都をくっ付けてしまおう作戦”
① 赤い部屋に気を取られている間に、後ろから軽く脅かして一ノ瀬 冬夢を全力で走らせる(この時点で一ノ瀬 冬夢が榎本 美都に抱きつけば作戦はそこで終了) 。
② 一ノ瀬 冬夢が歩き始めたら、隙を見計らい真正面から脅かし、走って来た道を帰らせる。また脅かし役は脅かした後、一ノ瀬 冬夢を2〜3m の距離を保ったまま追いかける(一ノ瀬 冬夢を途中で止まらせない為) 事。
なおこの際、一ノ瀬 冬夢が正面突破をしないように気をつける事。
③ 一ノ瀬 冬夢を榎本 美都のいる場所––––すなわち、最初に一ノ瀬 冬夢を脅かした場所まで走らせたら、榎本 美都は一ノ瀬 冬夢のすぐ側に寄る事。この時「大丈夫?」などと声をかけて、一ノ瀬 冬夢を一旦落ち着かせ、心に隙を生ませる事ができればなお良し。
また、一ノ瀬 冬夢が榎本 美都を無視して走り抜けそうになったら待機している脅かし役が脅かして足を止める事。
④ 榎本 美都が一ノ瀬 冬夢の側に寄ったのが確認でき次第、一ノ瀬 冬夢を挟み込んで逃げ場を塞ぎ思い切り脅かす。
ただし、脅かし役も一ノ瀬 冬夢にできる限り近づく事(距離があると、隙をついて逃げられる可能性がある)。
以上
「…………はぇ〜……す、凄い……」
倉稲魂ちゃんが書いたという作戦表(とても綺麗な字で書かれていた)を全部読み切った私は思わず感嘆の声をあげていた。
なるほど…………これが本当の作戦というものなのか。
細かい事を一切決めずに完璧な作戦を練り上げたと思っていた先ほどまでの自分が恥ずかしい。
「ん…………そろそろ一ノ瀬君がやって来ますね。一応、心の準備をしておいて下さい。僕は脅かしに備えて隠れていますので」
そう言って、月読は赤い部屋を出て行ってしまった。
当然、赤い部屋にいるのは私一人だけである。
…………冬夢に近寄って「大丈夫?」などと声をかけ、落ち着かせる事……冬夢に近寄って「大丈夫?」などと声をかけ、落ち着かせる事……。
などと、頭の中で自分のするべき事柄を反芻していると––––––––
「………うわ………わぁぁ……」
「…………てやコラ! ……ざけるなよ!」
––––––––向こうから微かに冬夢の叫び声と男性の怒鳴り声が聞こえて来た。
ついに来た!
私はぐっと目を凝らし、声が聞こえてきた方を見る。
するとぼんやりではあるが、冬夢が物凄い勢いでこちらに向かって来るのが確認できた。距離にして10mぐらいだろうか。冬夢の後ろから誰かが走って来ているのも確認できる。冬夢より一回り背が高いところから考えるに須佐之男さんだろう。
「おいコラ待てや冬夢! 天姉の究極プリティーな幽霊姿を見て怖がるたぁ何事だ! 天姉の素晴らしさがわからない不躾な、生きる価値もない輩は俺が粛清してくれる!」
「ば、馬鹿者! そんな小っ恥ずかしい事を大声で言うでないとさっきから繰り返してるであろう! いくら赤の他人がいないとはいえ、耐えられん! 今すぐやめるのじゃ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁあ! たすけてぇぇぇぇぇぇぇえ!」
………………何このカオス。
全力で走る冬夢に、阿修羅の如く顔を歪ませ刀(偽物である事を信じたい)を振り回す普段着姿の須佐之男さん。更に須佐之男さんの横にはなぜかちびっ子用自転車をこいでいる幽霊の衣装を着た天照ちゃん。
余りにも異様な光景に私は唖然としてしまう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあっ! みとちゃぁぁぁぁぁぁぁぁあん! たすけてぇぇぇぇぇぇぇえ!」
「なっ⁈」
ぼーっとしていた私の元へあろう事か冬夢は飛び込んで来た。
「うわっ………………っつー……痛いっ」
当然、何の対策も取る事ができず、私は冬夢を受け止めた勢いでそのまま背中から床に倒れこんでしまい、お尻を嫌と言うほど強く打ち付けてしまう。
作戦の手順とは少し違うが、抱きついてきてくれた事自体は嬉しい。しかしこれは流石に素直に喜べない。
「もう冬夢! 何すんのよ! 痛いじゃない…………の」
大声で冬夢に文句を言おうとした私であったが、私の上に乗っている冬夢の姿を見て、苛立ちや怒りと言った感情はあっという間に消し飛んでしまった。
「ううう…………こわいよ…………みとちゃん」
か、可愛い! ふるふると震えながら私にぎゅっと抱きついてくる冬夢可愛い!
しかもどことなく口調が幼いし! 私の事を“みとちゃん” なんて呼んでるし! もしかしてあれ? 漫画とかで見かける幼児退行ってやつ?
ヤバイ! 全体的に細いながらも男らしい体と幼い言動のギャップがヤバイ! もうこのまま食べちゃい…………いやいや、ペットとして飼っちゃ…………ああもう! 本音を隠しきれない!
私は片腕を冬夢の背中に回し、もう片方の腕を頭の方に持っていき頭を優しくなでてあげる。
「よしよし。もう大丈夫だからね〜」
「…………んん。みとちゃんのなでなでとってもきもちいい。もっとなでなでして?」
気持ち良さそうに目を細めてそんな事を言う冬夢。
ああ! どうしていちいち仕草がこんなにも可愛いのかしら!
理性が吹き飛びそうになるのを、麗奈達の顔を思い浮かべる事で何とか押さえつけ、私は冬夢の頭を優しくなでる。
「…………私の想像していたのとは少し違うのじゃが、これで良いのかの?」
「いいのではないでしょうか。榎本さんも嬉しそうですし。…………それより須佐之男」
「な、何だよ月兄?」
「さっき振り回していたのは天叢雲剣ですね? あれは持ち出し厳禁のはずですよ?」
「いや…………それはだな…………」
「帰ったらお仕置きする必要がありそうですね。覚悟しておいて下さい」
「わ、悪かった! 反省してるからお仕置きだけは許してくれ! 頼むっ!」
「…………私も一ノ瀬 冬夢をおどかしたかった……残念……」
何だか周りが騒がしい気がしないでもないが、そんな事は知った事ではない。
私は冬夢の髪をなで続けるのであった。
吾妻 深千流(以下深)「深千流と」
吾妻 弥千流(以下弥)「弥千流の」
深・弥「かみるーらじお!」
深「こんにちは。鳳凰学園高校3年、放送部部長をやらせて頂いている吾妻 深千流です」
弥「はろ~! 鳳凰学園高校2年の吾妻 弥千流だよ~。ちなみに、わたしは放送部副部長やらせて貰ってま~す」
深「“かみるーらじお!”とはもっと読者様に“神√”を知って頂きたい! という思いから生まれたラジオです」
弥「ゲストを呼んでフリートークをしたり、リスナーの皆からのお便りを読んだり、質問に答えたりしちゃうよ~」
深「それにしても暑い日がまだまだ続きますね」
弥「だね〜。何でもここ一週間で熱中症で病院に運ばれた人が一万人近くに及んだらしいよ〜」
深「私達の学校でも先日、女子陸上部で数人熱中症で運ばれていきましたね」
弥「ここ数日はまだマシだけど、夜も暑いよね〜」
深「俗に言う熱帯夜というやつですね」
弥「そうそう。この前、クーラーつけずに寝ちゃったんだけど、朝起きたら汗びっしょりでびっくりしちゃったよ〜」
深「夏ってろくな事がないですよね……肌のお手入れは欠かさずしなくてはいけませんし、空調管理もしなくてはいけませんし……」
弥「でもお姉ちゃん、暑いからこそ冷たいものがより一層美味しく感じるんだよ〜」
深「まあ、言われてみればそうですね」
弥「でしょ〜? ど〜せ日本に住んでる限り暑い夏は必ずやって来るんだし、何でもプラスに考えないとやっていけないよ?」
深「弥千流にしては珍しくいい事言いますね……明日は大雨でもふるんでしょうかね?」
弥「ちょっ! いくら何でもそれはひどくない? いつもお姉ちゃんは私の事、どう見てるのさ?」
深「………………さて “第43話 いたずらが上手い人はだいたい頭が良い” いかがでしたでしょうか?」
弥「ま、まさかのスル〜! もしかして前回わたしがスルーした事、根に持ってたりする?」
深「まさか、そんな訳ないじゃないですか。私が器の浅い人間とでもお思いで?」
弥「一個しかないプリンをわたしが食べたら『それは私が食べるつもりだったのに〜』とか言って1時間以上ふてくされてたのはどこの誰だったかな〜?」
深「…………弥千流、何か言いましたか?」
弥「い、いや〜? な〜んにも言ってないよ〜、うん。そ、そんな事よりもさ〜、美都の願いが叶ってよかったよね〜」
深「そうですね。ちょっと想像していたのとは違いましたが、美都ちゃんが喜んでいるのならそれで良しです」
弥「第三者が見たらちょっとひく光景かもしれないけどね〜」
深「……ま、まあその辺はそっとしておきましょう」
弥「そういえばさ〜、お姉ちゃん」
深「どうしたんですか? 弥千流」
弥「いや、質問がきてるから読んで欲しいな〜と思って」
深「あ、これですね? えーっと…………ペンネーム “水面出” さんからのお便りです。ありがとうございます」
弥「ありがと〜!」
深「『吾妻姉妹の男性のタイプが知りたいです。よろしくお願いします』との事です………………って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ! そんな事、話せる訳ないじゃないですか! ラジオですよラ・ジ・オ! 幾人もの人が聞いてるんですよ! そんなの恥ずかしすぎます!」
弥「はいは〜い! わたしは言えるよ〜」
深「や、弥千流? 正気ですか?」
弥「うん、正気だよ〜。えっとね〜、まず年上がいいかな〜」
深「はあ…………それで?」
弥「身長は180前半がベストだね〜」
深「はいはい」
弥「もちろん、ヨーロッパ系と日本人のハーフで〜髪の毛は綺麗な金髪で〜」
深「………………ん?」
弥「筋肉質じゃなくてすらっとしたモデル体型がいいね〜」
深「………………それって……」
弥「それでそれで〜、中世の王子みたいな格好と白馬が似合––––––––」
深「うわぁぁぁぁぁぁぁあ! やめてぇぇぇぇぇぇぇえっ! 恥ずかしいよぉぉおっ!」
弥「リスナーのみんな〜、お姉ちゃんのリアクションからもわかる通り、実はこれ、お姉ちゃんの理想の男性像なんだよね〜。中2の時の。しかもお姉ちゃん、自分はどこかの国に囚われているお姫様という設定で、さっき言ってたような白馬の王子様に助けられて恋に落ちる––––なんて小っ恥ずかしい小説なんか書いちゃってるんだよね〜」
深「ど、どうしてそこまで知ってるのよぉ…………絶対に見つからないであろう場所に隠してたのにぃ…………」
弥「ふっふっふ〜。甘いな〜、お姉ちゃん。わたしの前に隠し事なんて無駄無駄〜!」
深「………………やる……」
弥「ん?」
深「死んでやるぅ〜!」
弥「え?」
深「弥千流を殺して、その後私も死んでやるぅ〜!」
弥「えっ? ちょっ?」
深「大丈夫よ、弥千流。一瞬で決めてあげるから」
弥「め、目が座ってる⁈ も、もしかしてやりすぎちゃったかな?」
深「ふふふふふふふふふふふふふふ」
弥「こ、こういう時は逃走一択! リスナーのみんなには悪いけど、今回はこれで終わり! じゃーねー!」
深「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。待て〜!」