第36話 あなたは知っているだろうか? ツンデレにも種類があるという事を
「ーー本当にありがとうございました……送信っと。……ふぅ~」
ミス アビゲイルへアドバイスのお礼のメールを送った俺は、ソファーにだらっと寝転がる。
それにしても……穂乃佳がツンツンしていた理由はアドバイスと少し違った気がしないでもないが、ミス アビゲイルの予言通りに穂乃佳がデレたのは凄いと思う。また今度、何か料理でも作ってお礼に渡すとするか。
そんな事を考えながら、ぼーっとテレビの天気予報を眺める俺。
今日の夕方から早朝にかけて豪雨の恐れ。土砂災害に注意か……洗濯物、取り込んでおかなくちゃな。
ちなみに穂乃佳は「部屋着に着替えてくる」と言って3階の自分の部屋に行ってしまった。
「ふあぁ~あ……疲れたな…」
確かにデレ穂乃佳のおかげである程度心は癒されたが…いくら何でもたった半日で色々な事がありすぎた。
和と響が俺の家に住んでいるという証拠隠滅作業から始まり、穂乃佳救出作戦、それとツン穂乃佳の暴言による精神攻撃。
本当によくやったよ俺。よくこんなハードスケジュールをこなせたよ。
でもやる事はまだまだ残っている訳で。
「あ……いけね…昼ご飯作らなきゃ。それに晩ご飯の材料も買ってこないと……。今日は……穂乃佳の好きな……」
疲れが溜まりに溜まり切っていた俺はそのままソファーで寝てしまった。
「ねえ冬にぃ~。この後の予定どうする?」
アタシ、高階 穂乃佳はリビングに入りながらソファーで寝転がってテレビを見ている冬にぃに声をかける。
冬にぃと自由に過ごせる時間は今日を含めて、後3日しかないもんね。時間を有効に使わなきゃ。
「………」
「ねえ冬にぃ? 聞いてる?」
「………」
でも冬にぃは返事をしてくれない。
もしかしていじわるしてるのかな?
「もう! 冬にぃ! アタシの話、ちゃんと聞い……」
わざと強い口調で冬にぃに詰め寄るアタシであったが、ある程度冬にぃに近づいたところで、冬にぃがいじわるで無視してるんじゃない事に気づき、声を落とす。
「………」
「冬にぃ、寝てるんだ…」
冬にぃは気持ちよさそうに寝息をたてて寝ていた。
「ううっ……冬にぃの寝顔、めちゃくちゃ可愛い……」
思わずケータイを取り出しパシャパシャと冬にぃの寝顔を2・3枚写真に収める。
今までに色々と可愛いものを見てきたけど……そんなの比べ物にならないぐらいに冬にぃの寝顔は可愛かった。
「それにしても……やっぱり冬にぃ、疲れちゃってるのかな?」
冬にぃが昔と変わってないか試す為とはいえ、あんなにひどい事を言っちゃった訳だし…。
それに冬にぃは中1の時からずっと1人暮らしをしていると母さんから聞いた。
だからこういう風に誰かと一緒に暮らすのは久々で慣れてないのかもしれないし…。
「よしっ! 冬にぃの疲れを癒してあげよう!」
アタシは“あること”をする為に冬にぃの頭の横にゆっくりと座る。
しかしいざ“それ”をやろうとすると、物凄く恥ずかしくなってしまい、誰もいないとわかっていてもついつい周りを確認してしまう。
恥ずかしいけど……冬にぃを癒してあげられるのはアタシだけなんだから! 頑張れアタシ!
勇気を振り絞り、アタシは“それ”を実行するのだった。
「♪~♫~♪」
「冬にぃ~。ケータイ鳴ってるよ〜?」
誰かが俺を揺さぶる。
「もう! ふ~ゆ~に~い! 起きてよ! ケータイ鳴ってるんだってば!」
……やめてくれて……。せっかくいい気持ちで寝てるのに…。
うん…この枕……ひんやりすべすべしてて本当に気持ちいいな……。
「ひゃっ⁈ ちょ、ちょっと! ふ、冬にぃ? そんなになでなでしないでよっ!」
それにとても柔らかいのにハリもあって……
「も、もう! 冬にぃっ!」
「のわっ⁈」
いきなり耳元で大声で自分の名前を叫ばれ、驚き飛び起きる俺。
「何だ何だ?」
急な出来事に戸惑った俺は周りをキョロキョロと見渡す。
すると俺が先程まで寝ていたソファーに、顔を真っ赤にしながら座っている穂乃佳を見つける事ができた。
「ん? どうしたんだ穂乃佳? そんなに顔を赤くして」
「ふん…………冬にぃのえっち…」
「……え? え? ……まさか……」
鈍い鈍いと日頃、周りから言われている俺ではあるが、流石にここまで状況が整っていたら、何が起きたのか嫌でもわかってしまった。
「穂乃佳……膝枕していたのか?」
俺の問いかけにこっくりと深く頷く穂乃佳。
っていう事は何だ? 俺……穂乃佳の太ももをなでなでしたりぷにぷにしたりしたという事か?
うわぁぁぁぁぁあ‼‼
恥ずかしい‼ 恥ずかしすぎる‼
可能ならば、今すぐにでも自分の部屋に駆け込んで、布団に潜り込みたい!
でもそんな事はできない。できるわけがない。
膝枕をしてくれた理由はよくわからないが、とにかく穂乃佳に謝らなくては!
俺は少し穂乃佳と距離を取り、ミス アビゲイルの時以来の土下座を炸裂させる。
「悪い! 穂乃佳!」
「ちょ、ちょっと冬にぃ? 急に何してんの?」
慌てたようにソファーから立ち上がって俺の方に寄って来る穂乃佳。
「いや……いくら寝ぼけてたとは言え、あんな事をしてしまった訳だし…このぐらいの事はして当然かな…と」
「ほら冬にぃ立って。そんなみっともない姿しないでよね。こっちが悲しくなってくるから。確かに普通の男にあんな事をされたらガチギレしてるだろうけど……冬にぃだもん。全然大丈夫だよ。それにー」
一旦言葉を切り、顔を赤くしもじもじしだす穂乃佳。
「ーその……ふ、冬にぃだったら……えと……アタシ…ど、どんなことされても構わない……し…」
「え⁉ えぇぇぇぇぇえっ‼」
俺の理性が大きく揺れ動く。
ど、どんなことをされても構わない?
つまりあんな事やこんな事をしちゃってもいいって事ですか?
そうですよね? いや、そうに違いない!
潤んだ瞳でこちらを見上げてくり穂乃佳は、それはもう可愛くて可愛くて…
俺の理性は抜けかけの歯のようにぐらんぐらんである。
これ以上ほんのちょっとでも刺激を加えられたら、理性完全崩壊確定だ。
このままだと従妹に手を出す事になるんだぞ? それでもいいのか、俺!
少しでも理性を立て直そうと、俺は自分で自分を叱責する。
頑張れ俺! 耐えるんだ! こんなところでやらかしてしまったら、この先真っ暗だぞ!
くそっ! 穂乃佳が従妹じゃなかったら、このまま本能の赴くままにレッツゴー! なんだがな…。
確かに従兄妹同士なら問題はないってどこかで聞いた事はあるけどさ…。
そんな事やらかしてしまったとして、これから俺はどんな顔をして昌繁さんに会えばいいんだよ!
しかしいくら叱責したところで、目の前にいる穂乃佳の魅力には抗えない訳で…
本能が完全に理性に打ち勝ちそうになった、まさにその時ー
「♪〜♫〜♪」
ー机の上に置いてある俺の携帯がぐらんぐらんな理性に救いの手を差し伸べるかのように、N○VELSのミッシングリンクを奏でる。
しめた! 昌繁さんからの電話だ! これで理性完全崩壊は防げるっ!
俺は物凄い勢いで電話を手に取り、電話に出る。
「はい。もしもし」
『あー、もしもし冬夢君?』
「どうしたんですか? 何かありました?」
『いや、今さっきようやく宿に着いたからさ、報告しようと思ってね。それとー』
「それと?」
『まあ、万が一…いや兆が一の確率でもあり得ないだろうけど……くれぐれも穂乃佳と間違いなんか犯さないようにね? 穂乃佳があんな性格とは言え、若い男女が屋根の下で2人っきりと言う事実には変わりないからね。もしそんな間違いを冬夢君が犯してしまったとわかったら……僕はこの手で君を……この続きは言わなくてもわかるよね?』
「え、ええ。大丈夫ですよ。そ、そんな事、100%ある訳がないじゃないですか。安心して旅行を楽しんで下さいよ」
『そうだよね。僕の考え過ぎたよね。でも……何か嫌な予感がしたからさ。一応電話してみたんだ。何かごめんね。冬夢君がそう言う事をする人間じゃないのにね』
「い、いや…大丈夫です…はい」
『そう? ならいいんだけど。じゃ、そう言う事で楽しんでくるよ。バイバイ』
「はい、さよなら~……ふぅ~」
俺は携帯を再び机の上に置いて、大きくため息をついた。
危ない危ない……もう少しで兆が一の事態を起こすところだった…。
それに昌繁さん、勘が良すぎる。
これが親の力なんだろうか? いや、そんな事もないか。
しかし、この電話のおかげで完全に理性を取り戻した訳で。
「……よし。じゃあ昼ご飯にするか。穂乃佳、何が食べたい?」
「…………何でもいい」
そう言って不機嫌そうにぷいっとそっぽを向いてしまう穂乃佳。
…もしかして、本能の赴くままに行動しちゃったりした方がよかったのか?
明らかに穂乃佳の俺に対しての好きは「like」じゃなくて「love」だろうしな…。
かと言って、穂乃佳の想いに答えたら昌繁さんに……。
ああっ! どうして俺の事を好きになってくれた最初の女の子が従妹なんだよ! さらに叔父さんは殺める宣言出しちゃってるし。
いや、穂乃佳が俺に好意を寄せてくれている事自体はめちゃくちゃ嬉しいですよ?
今は穂乃佳本人がいるから自重してるが、1人だったら嬉しさのあまり騒ぎまくってる、絶対に。
ただ恋愛経験値が0な俺にはキツい。キツすぎる。
こういう状況でどういう行動を取れば穂乃佳も昌繁さんもーーそして俺も不快な思いをせずに済むのかがわからない。
ただ今のままだと誰か1人が不快な思いをしてしまうのは確かだ。
……俺は一体どうすればいいんだ?
心の中で頭を抱えながら、俺はキッチンへと向かうのだった。
「もうこんな時間か。そろそろ晩ご飯の材料を買いに行かなくちゃな…」
勉強していた手を止め、時計を確認する俺。
既に時計の針は17時を回っていた。
昼ご飯ー作るのが簡単な炒飯を食べた後、俺も穂乃佳もGW課題にあまり手をつけていなかった事が判明した為、その後お互い自分の部屋で勉強していたのだ。
ちなみに穂乃佳は中3で、本当なら今は高校受験勉強の真っ最中のはずなのだが、小学生の時に俺でも名前の聞いた事のある有名私立(中高一貫)に入学したので、高校受験をする必要がないとの事。
当然俺もGW課題やっていた訳なのだが、正直あまり集中する事ができなかった。
誰も不快な思いをせずに済む方法を自分なりに考えていたのだ。
結局、何時間も考えて出てきた結論は「何かしらの大きなリアクションが起きない限り、そのままにしておく」というものだった。
この結論が何の解決にもなっていないし、ただ逃げているだけなのは自分でもよくわかっている。
しかし今の俺にはそれが精一杯なのだ。
……情けないな。かっこ悪すぎるな俺。
そんな事を考えながら、出かける用意を済ませ、下に降りる。
「出かける前に何か飲むか」
確か2Lペットボトルのコーラがまだ残っていたはずだしな…
そう思い、俺はキッチンへと向かう。
するとーー
「あ、冬にぃ。どこか行くの?」
ーーコーラをコップについでいる穂乃佳と出くわした。
「まあな。晩ご飯の材料を買いに行くんだ。穂乃佳もついて来るか?」
「うん! 行く行く! 着替えたりしてくるからちょっと待ってて」
そう言ってぐいっとコーラを勢いよく飲み干し、穂乃佳は自分の部屋のある3階へと上がって行った。
女の子の用意がちょっとなんかじゃ済む訳もなく……。
穂乃佳が1階に降りて来るまでの30分の間に晩ご飯の下準備をしたり、洗い物をしたりしていた。。
「あ、悪い穂乃佳。そこにある靴を取ってくれるか?」
俺は靴を履いている穂乃佳に声をかける。
先程ショッピングモールにいった時とは違う服装なのは流石と言うか何と言うか。
「えーっと…この黒い靴?」
「ああ、そうだ。ありがとう」
「いえいえどういたしまして。そーいやさ、冬にぃ、今日の晩ご飯何なの?」
「ん? それは実際に晩ご飯を食べるまでのお楽しみという事で」
「えー。教えてくれたっていいじゃん。ケチ~!」
「やっぱり何を作るかは、あらかじめ知らない方が楽しめるだろ? 遠足に持って行く弁当だってそうじゃないか。あれは中に何が入っているのかは知らないで、弁当の蓋を開ける時が一番楽しいんだ」
「う……確かに一理あるかも……でもなぁ……」
しかしそれでも気になるらしく、穂乃佳は不満そうに口をへの字に曲げている。
そんな可愛らしい姿を見ていると、ついつい今日のメニューを教えたくなってしまうのだが、そこはぐっと堪え、アドバイスみたいなものを教えるに留める。
「俺の口からは教える事はできないが……どうしても知りたかったら、買う材料を見て予想してみるんだな」
「え~、アタシ料理ほとんどやった事ないのに~。わかる訳ないじゃん」
「大丈夫大丈夫。誰が見ても『あっ、今からこれを作るんだな』ってわかるようなやつだから」
「もしかしてカレーとか?」
「さあ? どうだろうな?」
そんなやり取りをしながら外に出る俺と穂乃佳……だったのだが外に出た瞬間、穂乃佳が思わず目を見張るような行動を取った。
「……穂乃佳?」
何と先程まで俺の真横にいたのに、穂乃佳は俺からスッと1mほど後退し距離をあけたのだ。
しかも朝の時と比べたら全然マシではあるが、再び目つきが悪くなっている。
更に俺が声をかけてもー
「……」
ー完全無視。
い、一体何が起きたんだ?
穂乃佳の本日2度目の変貌に戸惑う俺。
もしかして…いたずらか?
そう思い、穂乃佳が笑いながら「なーんてね。冬にぃびっくりした?」と言ってくれるのを期待して見つめてみるも、うざったそうにこっちを見る穂乃佳が放ったのはー
「こっちジロジロ見ないでくんない?」
ーと言う午前中に何度も聞いた、俺のMPを思いっきり削り取っていく、あの残酷なセリフだった。
俺と穂乃佳は朝に行ったショッピングモールへ行く道とはまた別の道を歩いていた。
今回はショッピングモールではなく家から徒歩10分弱のスーパーに行くのだ。
食品を買うならショッピングモールよりスーパーの方が幾分か安いからな。
「後5分ぐらいで着くからな」
「……あっそ」
あんなヒドい事を言いつつも、何だかんだで穂乃佳は買い物について来た。
ただしずっと携帯をいじりながらで返事も冷たいが。
……穂乃佳に何があったんだ?
俺には全くわからないが…これじゃあ俺一人で買い物に行った方がよかったじゃないか……。
とても悲しい気分になった俺は天を仰いだのだが…
「……ん? 今さっき……」
そんな俺の顔に何だか冷たい物が当たった気がした。
……もしかして雨か?
確かに天気予報で夕方豪雨に注意って言っていたな…
くそっ。完全に頭から抜けていた。
傘なんて持ってきていなー
「あっ……あぁぁぁぁぁっ!」
とある事に気づいた俺は思わず大声をあげてしまった。
「ちょっとアンタ…急に奇声あげないでよね? キモいから」
「なあ穂乃佳!」
俺は穂乃佳の罵りも無視して穂乃佳に話しかける。
それぐらい今の俺は焦っていた。
「頼む! 今すぐダッシュで家に戻ってくれないか?」
「はあ?」
「俺とした事が……洗濯物を取り込むのを忘れてしまったんだ。頼む!」
俺がそう言っている間にも徐々にではあるが、雨脚が強くなってきている。
「ほらこれ貸すから!」
カバンの中に常に折りたたみ傘を入れっぱなしにしている事を思い出した俺は傘をカバンから引っ張り出し、穂乃佳に半ば強引に渡す。
「家に帰るのはいいけど……アンタはどうすんのよ? その傘しか持ってないんでしょ?」
「俺はスーパーで買うから安心しろ」
「そう……わかった」
穂乃佳は踵を返して家の方向に向かって走って行った。
そういや…履いている靴、ヒールじゃなくなってるんだな。
そんな事を考えながら、俺はスーパーへダッシュで向かうのだった。
「うわ~……物凄いな……」
スーパーに駆け込んだ時は体して降っていなかったのに、買い物(荷物がかさばると困るので、本当に必要最低限しか買っていない)が終わりいざ外に出てみると、まさにバケツをひっくり返したような雨に変わっていた。
「これは少し待ったところでやみそうにないな……穂乃佳、間に合ったんだろうか? びしょ濡れになってないでくれよ…」
びしょ濡れになって穂乃佳が風邪なんかひいたりしては、穂乃佳自身に申し訳ないし、昌繁さんに合わせる顔がない。
俺は先程買ったスーパーで売っている傘の中で一番大きな傘をさし、どしゃ降りの雨の中、帰りを急ぐのだった。
「……ん?」
帰り道の途中で信号待ちを喰らい、ぼーっと周りを眺めていると信号の向こうにあるシャッターの閉まっている元個人商店(あそこは俺が小さい時に潰れており、ずっと空き家となっている)のボロい屋根の下で雨宿りをしている女の子が目に入った。
なぜかその女の子が気になった俺は青になった信号をふらふらと渡りその女の子の元へ近づいて行く。
「もしかして傘がな……」
その女の子に声をかけようとした俺だったが、その女の子の姿を見て固まってしまった。
その無表情の女の子ーぱっと見で15歳前後ーは黒いシャツに黒いスカートという格好だった。
それはまだいい。と言うか普通だ。
そして所々にちょっと茶色っぽい部分がある金髪ショートヘアーもまあいい。
響だって金髪だしな。
ただ一つ、どうしても気になる部分がある。
それはー
「……何で獣の耳があるんだよ」
ーそう。なぜか頭にちょこんと獣……多分狐の耳が生えていたのだ。
一目見た時、俺は「あ、コスプレイヤーか」と思ったのだが、ピクピクと動いている耳を見てしまえばそれが本物であると信じざるを得ない。
それに何だかスカートの後ろ側が少し膨らんでる気がしないでもないし…このあり得ない現象……もしかして…
「……もしかして、お前神様か?」
俺が尋ねると、その女の子はほんのちょっと眉をあげた後、こっくりと深く頷いた。
しかし本当に神様って何でもアリなんだな…。
合法ロリの次は狐耳か。
まあ可愛いから全然構わないんだけどさ。
「名前は?」
「…………倉稲魂……」
とっても小さな声で自分の名前を言う、うかのみたま。
「なるほど…うかのみたまか…漢字はどうやって書くんだ?」
「…………くら……いね……たましい……」
倉 稲 魂
これでうかのみたまと読むのか…。
何だか名前からして物凄く立派そうな神様だけど……階級はどんなものなんだろ? 上級神ぐらいか?
「倉稲魂の階級ってどのぐらいなんだ?」
「…………究極神……わたしは……天照の妹……」
「きゅ、究極神⁈ それにあいつの妹⁈」
予想外の答えに驚く俺。
究極神で更にあの天照の妹⁈
道理で体がまだ発展途じょ……げふんげふん。
倉稲魂の目が赤く光っているのを見て、俺は慌てて考えをそらす。
そうだった…究極神クラスになったら心の内なんて読みたい放題なんだった。
三貴神は全く使ってなかったからすっかり忘れていた。
赤い目で俺の方をじっと見つめてきた倉稲魂であったが、しばらくしてようやく解除してくれた。
俺の心の内を読んでも、表情一つ変えないのはちょっと怖い気もしたが。
「…………あなたは……誰……? 神の存在を知っている……只者じゃない……」
「ああ悪い。すっかり忘れてたな。俺は一ノ瀬 冬夢だ。親父とお袋がそっちにお世話になってるはずなんだが…」
「…………知ってる……史歩と宏那……」
「そうそう。俺はその息子」
「…………なるほど…」
そう言って俺の方に近づいてくる倉稲魂。
そして俺のシャツの匂いをすんすんと嗅ぐ。
「…………これが一ノ瀬 冬夢の匂い……覚えた……」
「へぇ〜。匂いで相手を覚えるのか」
「…………そう……」
狐って鼻がよかったか?
そんな話は聞いた事ないが、狐は犬の仲間らしいし……物凄くいいんだろうな。
それにしても、俺の匂いってどんなのなんだろうか?
自分のシャツの匂いを嗅いでみるも、仄かに柔軟剤の匂いしかしなかった。
俺は自分の匂いを嗅ぐ事を諦め、倉稲魂に尋ねる。
「そういやここで何をしてたんだ? 雨宿りか?」
「…………そう……雨に濡れるのは嫌い……」
「でも究極神だったら濡れずに帰る方法なんていくらでもあるんじゃないのか?」
雨をやましたりだとか、瞬間移動をしたりだとかさ。
「…………ある事にはある……でも力を使うと怒られる……」
へにゃっと耳を倒しながらそう呟く倉稲魂。
どうやら究極神である彼女にも苦手な相手がいるらしかった。
「じゃあさ、これ使えよ」
俺はさっきまでさしていた傘を差し出す。
「…………いい……それはあなたの物……それをわたしに渡せば……あなたの傘はなくなる……」
「大丈夫大丈夫。バックにもう一つ傘、あるんだ」
もちろんこんなの嘘である。
ただ、神様であっても女の子には濡れて欲しくない訳で。
しかし倉稲魂は再び赤い目でこっちを見つめー
「…………うそ……」
ーとポツリ。
ううう…心の内を読むとか反則すぎるだろ。
だがここであっさり引き下がる俺ではない。
「俺は倉稲魂が濡れて欲しくないんだ。だからさ、受け取ってくれよ」
「…………自分勝手……」
「そうだ。俺は自分勝手だ。倉稲魂が傘を受け取るまで俺は帰らないぜ」
そう言って俺は地べたに座り込む。
内心倉稲魂が「…………好きにすればいい……」なんて言ったらどうしよう……と若干不安に思いながら。
「…………わかった……そこまで言うなら……」
俺の必死の思いが通じたのか、倉稲魂は傘を受け取ってくれた。
そして早速傘を開き、外に出る倉稲魂。
何だかんだ言って倉稲魂のやつ、結局は早く帰りたかったみたいだな。
「…………この恩は必ず返す……」
最後にそう呟いて倉稲魂はあっという間に人混みに紛れて行った。
「……さてと、俺も早く帰らないとな」
靴紐と食材の入ったビニール袋の紐の部分をしっかりと閉め、俺は立ち上がる。
「たまにはずぶ濡れになってみるのも……いいかもしれないな」
穂乃佳にはだいぶ迷惑をかけてしまうだろうけど。
俺はどしゃ降りの中をダッシュで駆け抜けて行くのであった。
吾妻 深千流(以下深)「深千流と」
吾妻 弥千流(以下弥)「弥千流の」
深・弥「かみるーらじお!」
深「こんにちは。鳳凰学園高校3年、放送部部長をやらせて頂いている吾妻 深千流です」
弥「はろ~! 鳳凰学園高校2年の吾妻 弥千流だよ~。ちなみに、わたしは放送部副部長やらせて貰ってま~す」
深「“かみるーらじお!”とはもっと読者様に“神√”を知って頂きたい! という思いから生まれたラジオです」
弥「ゲストを呼んでフリートークをしたり、リスナーの皆からのお便りを読んだり、質問に答えたりしちゃうよ~」
深「さて“第36話 あなたは知っているだろうか? ツンデレにも種類があるという事を”いかがでしたでしょうか?」
弥「いや〜今回は長かったね〜」
深「作者曰く『このままだと穂乃佳回の終わりが見えないので、イベントを詰め込んだ』との事です」
弥「確かに今回は内容がそこそこ濃かったよね〜」
深「そうですね。穂乃佳ちゃんの異変や倉稲魂との遭遇などなど…結構詰まってますね」
弥「ちなみになぜ穂乃佳ちゃんの態度が急変したのか……それのヒントは今回のサブタイトルに隠されてるから、よかったら考えてみてね〜」
深「もちろん次話で理由は明かされますがね」
弥「じゃあ質問コーナーいってみよ〜!」
深「はい。今回はアンケートからピックアップしたいと思います。ペンネーム “名無しの権兵衛”さんからの質問です。『作者さんの制作風景を教えて下さい。お願いします』との事です」
弥「あれ? それ、番外編のテーマ募集の方に寄せられたやつじゃなかったっけ? 『作者の製作風景をキャラクターがドキュメンタリー番組風に追っていったら』っていう」
深「確かにそうです。しかし弥千流、よく考えて下さい。あの作者の作成風景が、本編で取り上げる事のできる程の内容である訳がないじゃないですか」
弥「だよね〜……」
深「という訳で、今回はこちらで勝手に変更させて頂きました。テーマをくれた名無しの権兵衛さん、本当に申し訳ありません」
弥「ごめんね~。でもさ、どうやって作者の作成風景を伝えるの? いくらわたしでも、それは流石に知らないよ?」
深「大丈夫です。とある方に実際に作者がいない今、作者の部屋にこっそり向かって貰っていますから。そして今、電話が繋がっています。音々華ちゃーん」
初谷 音々華(以下音)『はっ、はいっ! ど、ど、ど、読、ど、読者のみ、み、皆様始めましてっ! 1年生、しゅ、手芸部のはちゅ、初谷 音々華ですっ!』
弥「のんの~ん。いくらなんでも緊張しすぎだよ~。リラックスリラックス」
深「そうですよ。落ち着いて下さい」
音『だ、大丈夫ですっ! 私、全然落ち着いてーーはうっ!』
深「ど、どうしたんですか? 音々華ちゃん」
弥『ううう……床に散らばった紙に足をとられて滑っちゃいました……痛いです…』
弥「……と、ここからわかるようにのんのんはドジッ娘なんだよね~。さらに性格は内気で、極・恥ずかしがり屋。そして赤面症で誰に対しても敬語で話し、極め付けは身長150弱というロリ体型で巨乳なんだから……ホント、お前どこのギャルゲーヒロインだ! ってツッコミたくなっちゃうよね~」
深「さらに若干茶色がかった髪をストレートで腰ぐらいまで伸ばしており、趣味は読者って……私達よりキャラ設定が豪華じゃないですか?」
弥「ホント、作者が決めたとは思えない細かい設定だよね~。と言うか実際にキャラ作ったの作者じゃないし」
深「それを言えば私もなんですけどね。今更ながら水面出さん、ありがとうございました」
弥「この中だったら、わたしだけが作者の作ったキャラなんだよね~。自分で言うのも何だけど、わたしのキャラ設定荒い気がするよ~」
深「そもそも私達、ちゃんとした自己紹介さえできていませんからね。読者の皆様、絶対、私達の容姿想像がついてないですよ」
弥「あ~……何だか腹が立ってきた。今から作者に直接抗議にいこうよ」
深「ですね。今からいきましょう!」
弥「じゃ、お姉ちゃんしめちゃって!」
深「“神√”を読んでいて疑問に思った事や、このキャラとこんなトークをして欲しいという要望があれば、感想やメッセージ、活動報告のコメント欄からお知らせ下さい。また、誤字脱字や矛盾点などがありましたら、ご報告よろしくお願いします。他にも感想や評価、レビューなどもお待ちしております」
弥「キャラ人気投票+アンケートも継続中だからね。皆のお便り待ってるよ~……よし! 行くよお姉ちゃん!」
深「あの舐め切った作者にぎゃふんと言わせてやるんだから!」
弥「お~珍しくお姉ちゃんがやる気だ~!」
深「竹刀とサングラスとジャージも持ってーーーー」
音『ううう……深千流せんぱ~い。弥千流せんぱ~い。私の事、完全に忘れてどこかに行っちゃいました……』
音『せっかく、初登場という事でお気に入りの服できたのに……って、よく考えたら、これラジオでしたね……何を着て来ても同じでした……ううう』
音『私もそろそろ帰りーーひゃっ! 作者さん⁉ どうしてここにいるんですかっ? って、ここ作者さんのお家でしたね……か、勝手にお邪魔させて貰ってますっ』
音『……はい。そうです。アンケートで作者さんの作成風景が知りたいという要望があったそうなので…はい……でも、メインパーソナリティーの先輩方が帰っちゃいまして…』
音『え? だったら今回の質問は次回に繰り越しにする…ですか? 本当ですか? ありがとうございます! 私、読者の皆様にちゃんと伝えられるように全力で頑張ります!』
音『えーと……先輩方が途中で帰っちゃった理由ですか? ううう…思い出せそうで思い出せないです…………あっ! 思い出しました! 作成さん! 早くどこかに逃げーー』
弥『ようやく見つけたよ~! お姉ちゃんやっちゃって!』
深『おいゴルァ! デルジャイルゴルァ! 私達はお前に用があんだよ! 逃げんじゃねー!』
弥『のんのん! デルジャイル捕まえて!』
音『えっ? そ、そんな事…』
深『ぐちぐちうっせーんだよ! いいからとっととそいつを捕まえろってんだ!』
音『ひゃ、ひゃいっ! 作者さん、本当にごめんなさいっ!』
弥『よしっ! のんのんナイス!』
深『じゃあ音々華は帰れ。今からやる事を見たら、多分お前はショック死する』
音『ひっ! わか、わ、わかりました! 私はこれでしちゅ、失礼しますっ』
弥『のんのんも帰った事だし……始めようか、お姉ちゃん』
深『そうだな。おいデルジャイル、なんでこうなったかわからないっつー顔をしてるな。はっ。せいぜい自分の胸に手を置いて考えるこった。それじゃあ、始めるかーー』