第27話 たまにはゆっくり寝たいんです
「……今…何時だ?」
私、音尾 和はベッドから起き上がり、近くにあった目覚まし時計を引き寄せ、現在の時刻を確認する。
「ぬ……もう10時過ぎか…いくらGW初日とはいえ…そろそろ起きなければならないな」
休日祝日が上手い具合に重なって、今年のGWは怒涛の7連休なのだ。本当は1日、GW中にひっそりと平日があるのだが…流石に学校も空気を読んで休校としてくれた。
「よし! 今日も一日、気合を入れて頑張るぞ!」
私は服を着替え、1階に降りる。
冬夢がいるはずの1階に。
『徹夜明けで物凄く眠たいので、今日はゆっくりと寝させて貰います。P.S. 朝ご飯は作ってキッチンに置いてあるので、それを食べて下さい。冬夢』
しかし冬夢の姿は無く、代わりに食卓にメモが置いてあっただけであった。
どうやら、何かしらの作業を徹夜で行った後、私達の分の朝ご飯を作って寝たようだ。
その辺をきっちりとやってから寝るあたりが冬夢らしい。
「それにしても…冬夢が遅起きとは…珍しい事もあるものだな」
私はメモを手に取り呟く。
私がこの家に居候し始めてもう結構経つが、平日休日関係無く毎日冬夢は早起きしていた。
私より起きるのが遅くなるというのは初めての事だ。
響が寝ている間に、冬夢と2人きりの時間を満喫しようと思ったのだが…仕方が無い。
響を起こして、2人で朝ご飯を食べよう。
そう考えた私は再び2階へと上がり、響の部屋に向かうのだった。
「響、入るぞ?」
返事が無いのを確認してから、私は響の部屋のドアをそーっと開ける。
まず目に入ってくるのは、やはりぬいぐるみだ。
ピンクを中心にコーディネートされた部屋には、大小様々なぬいぐるみが所狭しと並べてある。
麗奈のぬいぐるみコレクションは今現在も増え続けて(だいたい週に1コか2コのペース)おり、自分の部屋に入り切らないぬいぐるみは3階の一室に収納されている。
私にしてみればどれも同じに見えるのだが…響に実際そう言った所、2時間以上もぬいぐるみについて語られたので、もう響のぬいぐるみ好きに関しては絶対に口出ししないと心に決めている。
私はぬいぐるみにつまずかないように細心の注意を払いつつ、響の寝ているベッドへと近づく。
「…うにゃ……」
当然と言えば当然だが、ベッドには響が寝ていた。
幸せそうにネコのぬいぐるみをギュッと抱きしめている。
ちなみにこのぬいぐるみの名前は「トーム」と言って、響が最も大切にしているぬいぐるみぬの一つでなのだ。
「トーム」という名前はもちろん「冬夢」からきている。
この前の日曜に買い物に行った時、冬夢に「これから一緒に暮らしていく…その…記念みたいなものだ」とプレゼントされたらしい。全く羨ましい限りである。今度、何か私もねだってみよう…。
「そんな事より……むむむ…どうやって響を起こそうか?」
普通に起こすだけでは面白くない。
せっかくのいぢるチャンスなのだ。ここでいぢらなければ「いぢらー」の名が廃る。
さてどうしたものか…と考える事、1分弱。
「耳にフーッと息を吹きかけて起こす」というありきたりな結論に落ち着いた私は、早速実行に移す為に響に近づく。
射程距離に入り、響の耳に息を吹きかけようとした、まさにその時ー
「……やめろ…」
「なっ⁈」
驚いた私は慌てて響から離れる。
ま、まさか…起きていたのか?
そう思って若干焦りつつ身構えるも、いつまで経っても響は何のリアクションも起こさなかった。
「ん?」
疑問に思った私は、再び響に近づき響の様子を確認する。
「…やめろ。…やめろよ、冬夢。そんな所、さわんじゃねーよ…」
「…何だ…寝言か…」
響はさっきと変わらず、幸せそうに寝ていた。どうやら冬夢とイチャイチャしている夢を見ているらしい。口ではあんな事を言っているが、顔は「これでもか!」というぐらいにニヤついている。
そういえば昔から響は昔から寝言が多かったな。
「……急に抱きしめるなんて………卑怯だ……オレも…ガマンできねー……冬夢…大好きだぜ」
「………………………えいっ!」
あまりの面白くなさに耐え切れなくなった私は、起こし方を変更し、デコピンを思いっきり響の額に叩き込む。
「痛っ⁈ な、何だ? 何が起きーのわわわわっ!」
よほどびっくりしたらしく、響はベッドから転げ落ちてしまった。
「痛てててて…」
「おはよう、響」
「……」
「響?」
「ふんっ」
…どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
響はトームをベッドに寝かせた後、ジャージに素早く着替え、1人でさっさと一階に降りて行ってしまった。
「やはり…少しやりすぎたか?」
私は小さくため息をつき、響の後を追った。
「にしてもよー、冬夢は徹夜で何をしてたんだろな?」
白ご飯を食べながら私に話しかけてくる響。
しばらく拗ねていた響であったが、朝ご飯の用意などをしているうちに、すっかり元通りの機嫌に戻ってしまった。
「ん〜…私にもさっぱりだが…可能性として高いのは宿題じゃないか? GW課題が結構出ていたしな」
テレビのニュース番組をぼーっと見ながら答える私。
「ああ〜。確かにあり得るな、それ。ん? ………いや、待てよ…昨日、冬夢宛にAmaz○nから何箱かダンボール届いてたよな?」
「届いていたぞ。全部で4箱だ。どれも結構大きかったな。中に何が入っていたのかは知らないが」
「オレ、ちらっと中に何が入ってるか見たんだけどよ……何だったと思う?」
「衣服類ではないのか?」
「それが違うんだよな。正解はガン○ラだよ、ガ○プラ」
「へ?」
予想外の答えに間抜けた声を上げてしまう私。
冬夢がガン○ラ? …確かに冬夢は手先が器用だから、作っていてもおかしくはないが…冬夢がガ○ダムに興味があるなんて知らなかったな。全くそんな感じには見えないのだが…。
まあ、目の前にも口調は荒っぽいのに可愛いものに目が無い親友がいる訳で…人は見かけによらないな、本当に。
「それにしても、また冬夢は急にガ○プラなんて作ろうと思ったのだろうか?」
「さあ? よくわかんねーけど、急に無性に作りたくなったんじゃねーか? オレだって無性にぬいぐるみが買いたくなる事、たまにあるからな」
たまにではないだろ! と思わずツッコミたくなったが、響が「んな訳ねーだろ!」頑なに否定するのは目に見えていたのでスルーする。
「他に考えられるとしたら…何かを忘れたくてガ○プラに熱中しようとした…とか」
「いやいやねーよ、ねーよ。そんな忘れたい出来事なんてあるわけ…」
「「いや、あった」」
私と響の声が重なる。
「やっぱりあれだよな〜」
「ああ、あれしかない」
“あれ”とは…ついこの間あった麗奈と雀部とかいう奴のお見合いの事だ。
麗奈はしつこく何度もお見合いを申し込んでくる雀部から逃れる為に、冬夢を彼氏役としてお見合いに連れて行ったのだが…そこで冬夢が誤ってワインを一気飲みしてしまったのだ。
冬夢はお酒に異常な程に弱い体質だったらしく、その一杯だけで完全に酔ってしまった。
それだけならまだ良かった。「何をしてるんだ、冬夢は…」と少し呆れるだけで済んだし、何より冬夢がトラウマを背負う事もなかった。
しかし、完全にできあがってしまっていた冬夢は何を思ったのか、あろう事か口説き始めたのだ。
「その鈍い頭のどこからそんな甘い口説き文句が出てくるんだ!」と驚く程、言葉巧みに。
あっち系には全く興味の無い私であるが、そんな私が思わずドキッとしてしまう程にその光景は魅力的であった。
「いや〜…あれは凄かったよな〜。BLなんて気持ち悪いと思ってたけどよ…あれを見てから少し考えが変わったぜ。冬夢がやると、男相手でもあんなにも魅力的なんだな。まあ、多少は惚れ補正が入ってるのかもしれねーけどよ」
「ああ、私もドキッとしてしまった。しかし…冬夢は相当ダメージを受けていたようだったな」
「………」
「響?」
「ん? ああ、悪りぃ。テレビの方に意識がいってた。和も見てみろよ」
「あ、ああ…」
私もつられてテレビの方を見る。
なぜか朝っぱらから「寝起きドッキリ」なんてやっている。大丈夫なのだろうか? このテレビ局。
「寝起きドッキリをやっているが…それがどうしたというのだ?」
「冬夢がこんな時間まで寝てる事なんて、滅多に無い事だしよ。みんなを呼んでー」
「で、結局何をするんですか?」
ボク、中溝 悠里は玄関で靴を脱ぎながら、和先輩に尋ねる。
「まあ、リビングに来ればわかる」
「そう言えば、冬夢先輩はどこにいるんですか?」
「それもリビングに来ればわかる」
「はあ…」
リビングまで大した距離も無いので、ボクは和先輩から聞くのを諦め、素直にリビングに向かう事にした。
ほんの十分ぐらい前に和先輩から一斉送信(送り先はボク・麗奈先輩・美都先輩の3人だった)で『今すぐに私の家に来い! P.S.ケータイを必ず持ってくる事』とだけ送られてきたから、慌てて来たんだけど…何をするのかな?
ボクはリビングに通じるドアを開けて中に入る。
美都先輩と麗奈先輩はもう既に先に来ていて、響先輩と一緒に何かを楽しそうに話していたのだが…その中に冬夢先輩はいなかった。
冬夢先輩の事だから、どこか買い物にでも行ってるんだろうな。
早起きの冬夢先輩が未だに寝ている…だなんて事は絶対にあり得ないし。
「響、これで全員揃ったぞ」
横にいる和先輩が響先輩に声をかける。
「OK。…えーっと、まずはいきなり呼び出して悪かったな。だが、チャンスが今しか無くってよ。そのチャンスを無駄にしない為にも、急遽みんなにも集まって貰った訳だ」
「チャンス? 一体、何のチャンスなの?」
「それを話すには、まずこの前の麗奈のお見合いの話から話さねーといけねーんだけどよーー」
そう前置きをして、響先輩は今回ボク達を呼び出した理由を語り始めたのだった。
「つまり…あの事件で心の傷を負った冬夢君は、その傷を癒す為にガン○ラを徹夜で作って…今は寝ているという事ですか?」
「そうそう。んでもって今から、そんな冬夢に寝起きドッキリを仕掛けるっつー訳だ」
「いくら何でも…それはかわいそうですよ…やめた方が…」
「冬夢に会えないのは残念だけど…流石に無理矢理起こすっていうのはどうかしら?」
「そうですよ、響先輩。冬夢先輩はお疲れなんですから、そっとしておいた方が…」
ボクと美都先輩と麗奈先輩が寝起きドッキリに反対すると…響先輩は「やれやれ」とため息をついたかと思うとー急に目をカッと見開いてこう言った。
「そうか…お前達3人は冬夢の寝顔を見たくねーんだな?」
「「「「‼‼」」」
そうだ! 寝起きドッキリをするという事は…冬夢先輩の寝顔を拝めるという事じゃないか! 冬夢先輩の寝顔…物凄くレアだぞ。そんなチャンスをみすみす見逃すだなんて…ボクは何をやってるんだ!
いやいや、落ち着けボク…確かに冬夢先輩の寝顔を拝めたらとても嬉しい。でも、冬夢先輩に迷惑をかけるのは絶対許されない事…。頑張れボク! 響先輩の誘惑に耐えるんだ!
…いやでも、冬夢先輩を起こさずに寝顔を拝むだけなら…迷惑はかからないんじゃないかな?
などとボクの心が大きく揺れ動いているのを見透かしてか、今度は和先輩がとどめと言わんばかりに一言。
「もしかしたら、寝起きでポヤーッとしている冬夢が見れるかもしれないんだぞ? それでも行かないと言うのであれば、ここで待っておけばいい。私と響の2人で行ってくる」
「2人だけなんてズルいです。わ、私も行きます!」
「行くわよ! 行けばいいんでしょ!」
「はいはい! ボクも行きます!」
ボクだけでなく、美都先輩も麗奈先輩も気持ちが揺らいでいたようだ。
みんな一斉に声を上げる。
…仕方ないよね。誰だって好きな人の普段見せない姿が見れるんだったら見たいよ。
ああ…冬夢先輩…ごめんなさい。ボクは自分の欲求に負けちゃいました。
ボクは心の中で冬夢先輩に謝りつつも、和先輩と響先輩に続いて冬夢先輩の部屋へと向かうのであった。
吾妻 深千流(以下深)「深千流と」
吾妻 弥千流(以下弥)「弥千流の」
深・弥「かみるーらじお!」
深「こんにちは。鳳凰学園高校3年、放送部部長をやらせて頂いている吾妻 深千流です」
弥「はろ~! 鳳凰学園高校2年の吾妻 弥千流だよ~。ちなみに、わたしは放送部副部長やらせて貰ってま~す」
深「“かみるーらじお!”とはもっと読者様に“神√”を知って頂きたい! という思いから生まれたラジオです」
弥「ゲストを呼んでフリートークをしたり、リスナーの皆からのお便りを読んだり、質問に答えたりしちゃうよ~」
深「さて、“第27話 たまにはゆっくり寝たいんです”いかがでしたでしょうか?」
弥「いや~相変わらず、話の進むスピードが遅いね~。今回から天照大神編突入! とか言いながら、天照大神全然出てないし。何やってんの!」
深「それについては、筆者からコメントを頂いています」
弥「おっ! 読んで読んで~」
深「『神√をお読み下さっている皆様へ。
冬夢がどのようにして雀部さん籠絡事件から立ち直ったのかを書きたかったのですが…それだけだったら面白くないので、冬夢の寝起きドッキリも盛り込んで…ついでに響の寝起きシーンもサービス(?)で書いていたら、気づけは結構な字数になっていまして。
冬夢の寝起きドッキリを書くと長くなりそうなので、それは次回に回させて頂きます。
また、最近忙しくて更新が遅くなっています。本当に申し訳ございません。
デルジャイル』…だそうです」
弥「なるほどね~。筆者も色々と大変なんだね~。…と、筆者の苦しい言い訳も終わった所で質問コーナーいっちゃうよ~! お姉ちゃん、これ読んで~」
深「はい。ペンネーム“水面出”さんからの質問です。
『ヒロインの5人に質問です。もし冬夢と付き合ったとして、デートで連れて行って欲しい場所とかありますか? また、そのデートの後、最終的に冬夢とどこまでいきたいですか? 答えて下さい。お願いします』
という事ですが…流石にここに5人を呼ぶのは…」
弥「大丈夫大丈夫! その辺はわたしがあらかじめ調整してあるよ〜。ラジオ1回やるごとに、1人ゲストとして呼んで質問する形にしてあるから」
深「つまり…5回にわたって行うという事ですか?」
弥「そ~ゆ~こと! 別に後々、お便りが来なくなってしまった時に備えて、5回にわけて伸ばしてる訳じゃないよ~。そのへんはキチンと理解しててね〜。じゃ、早速ゲストを呼んじゃお~。今日のゲストはこの方~」
榎本 美都(以下美)「えーっと…こんにちは…でいいのかしら? 榎本 美都です」
深「最初は美都ちゃんなんですね」
美「あ、深千流先輩。こんにちは。この前の旅行のお土産、ありがとうございました。とっても美味しかったです」
深「本当ですか? 喜んで貰えて嬉しいです」
弥「…わたしもあのお土産、一緒に選んだのに…何でお姉ちゃんだけ…って、そうじゃないよ!」
美「急に大声をあげてどうしたのよ、弥千流」
弥「どうしたもこうしたもないよ~。ちゃんとわたし達と美都との関係をリスナーの皆に教えないと!」
美「別にそのくらいいいんじゃ…」
弥「ラジオは詳し過ぎるぐらいがちょうどいいの! テレビとは違って声だけしか伝わらないからね! という訳で、お姉ちゃんよろしくね~」
深「肝心な部分は私に投げるんですね…。まあ、いいですけど。後が押しているので、簡単に話しますと、私達と美都ちゃんは家が隣同士で、昔からの付き合いなんです」
美「そういう事よ。弥千流、これでOKかしら?」
弥「OKOK! ありがとう、お姉ちゃん。じゃ、早速質問いってみよ~!」
深「質問1 一ノ瀬君と付き合っていると仮定しまして、デートに連れて行って欲しい場所とかありますか?」
美「やっぱり遊園地ね。ありきたりかもしれないけど」
深「遊園地ですか。即答でしたが、何か理由とかはあるんですか?」
美「昔…小学生の時の遠足で遊園地に行ったのよ。まあ、そこで色々あって冬夢と2人っきりで観覧車に乗る事になって…その時に『また2人っきりでー彼氏彼女の関係になって観覧車に乗ろう』って心に決めたのよ。だから、冬夢が彼氏になったら真っ先に遊園地に行くわ」
弥「お~ロマンチック! 何があって2人っきりで観覧車に乗ったのか、物凄く気になるけど…ここはグッと我慢して、次の質問いくよ~」
深「質問2 そのデートが終わった後、一ノ瀬君とどこまでいきたいですか?」
美「ふえぇっ⁈ ど、ど、ど、どこまでって、な、な、な、何がか、かし、か、かしら?」
弥「も~美都~。そんな事言って~。本当はわかってるくせに~。ほら、正直に言っちゃえ言っちゃえ! 一ノ瀬とどこまでいきたいの?」
美「な、な、な、な、何の、こ、こ、事かしら? わた、わ、私は、そ、そんな事、こっ、これっ、これっぽっちも、しら、知らないわよ! もうこれ、これで質問は、お、終わりよね! 私、か、帰るわ! じゃあね!」
弥「あっ! 美都、逃げちゃった~。ちょっとからかいすぎたかな~? 本当は今からでも追いかけて、質問の答えを聞きたいところだけど…時間的にもう厳しいかな? 仕方ない、お姉ちゃんしめちゃって!」
深「やっぱり、最後まで肝心な部分は私がやるんですね…。“神√”を読んでいて疑問に思った事や、このキャラとこんなトークをして欲しいという要望があれば、感想やメッセージ、活動報告のコメント欄からお知らせ下さい。また、誤字脱字や矛盾点などがありましたら、ご報告よろしくお願いします。他にも感想や評価、レビューなどもお待ちしております」
弥「皆のお便り待ってるよ~」