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第22話 終わりよければ全て良し?

響回はこれで終了です。




「…取りあえず…あいつらは追って来ないみたいだな」


しばらく走って、後ろから男達が来ていないのを確認した俺は、たまたま近くにあったバス停のベンチに、まず善家を座らせ手足を縛っていた紐をほどき、その後に俺は腰を下ろした。

流石に家から近いとはいえ、ずっと全力で走って来たのだ。どこにでもいる料理部員にはこれが限界だ。



俺は息を整えながら、横目でチラッと善家の様子を伺う。

だいぶ落ち着いたようで、目には光が戻って来ていた。


「大丈夫か? 善家」


「………ああ…」


一応、返事ができるくらいには回復してるようだ。

しかし、以前として手足は震えたままだし、半分放心状態である。


よっぽど怖かったんだろな…


その姿を見て俺はー反射的に善家をギュッと抱きしめていた。

こんな事をしたら、また善家が怯えてしまう。

そうわかってはいたが、抱きしめずにはいられなかった。


「なあ、善家ー」


俺は善家に言いたかった事を、話し始めた。







気付けばオレは一ノ瀬に、ギュッと抱きしめられていた。

とても強く…それこそ痛いぐらいに。

一ノ瀬の体はとても暖かく、不思議と怖いとは思わなかった。逆にさっきまで感じていた恐怖が全部吹き飛んでしまっていた。

ずっとこのままでいたいと思った。こんなに安心できたのは初めてかもしれない。


「なあ、善家」


一ノ瀬がオレに話しかけて来る。


「どうした?」


「えっ?」


オレが返事をすると、一ノ瀬は驚いたような声をあげた。


「どうした? 変な声をあげてよ?」


「いや、男に抱きしめられてるのに普通に反応してきたからさ…思わずびっくりした」


「何言ってるんだよ。 抱きしめたのは一ノ瀬のくせによ。後先考えずにやったのか?」


「…ああ、小さく震える善家を見てたらつい…ゴメンな。離れるよ」


そう言って、一ノ瀬はオレから離れようとする。

オレは慌ててそれを止めた。


「ち、ちょっと待て! このままで…いてくれねーか? 何だか安心してられるんだ」


「善家がそれでいいなら…」


一ノ瀬は再びオレをギュッと抱きしめてくれた。


「ありがとーな。その…助けに来てくれて」


「今日から俺と善家は家族なんだから…そのくらいは当然だろ?」


「ん…」


家族か…。うん、悪くねー響きだ。とっても心がポカポカするし。一ノ瀬と繋がってるんだと考えるだけで…安心できるし。


「なぁ、一ノ瀬。オレ達家族なんだよな?」


「ああ、もちろんだ」


「それだったらよ…その…お、お互い…名前で呼ばねーと変じゃねーか? その…か、家族な訳だしさ…」


物凄く強引な理由かもしれないが…一ノ瀬には、オレの事を名前で呼んで貰いたい。

こんな感情になるのは初めてだ。


「そうだな…確かにそうだ。響」


「…と、冬夢」


冬夢に名前で呼ばれた瞬間、胸がドキンと跳ね上がったように感じた。多分、今のオレの顔は真っ赤っかに違いない。

オレはもぞもぞと、顔をさらに冬夢の胸に埋める。真っ赤っかな顔なんて…恥ずかしくて見せられねーしな。


「なあ、響」


「な、なんだ?」


「辛かったら、人に頼っても良いんだぞ? 確かに響は強い。1人でここまで頑張って来たんだからな。でもな、響。頼る事も大切だぞ? 1人ではできない事も、仲間とならできるんだから」


冬夢はそう言って、オレの頭を優しく撫でてくれた。

…なるほど…和が気持ち良さそうにしてるのもわかるな。本当にとても気持ちいい。


「まずは俺から頼ってみたらどうだ? いきなり赤の他人じゃ難しいだろ。まあ…俺のできる事なんて限られてるけどさ」


「何でもいいのか?」


「俺のできる範囲ならな」


「じゃあ…」


オレは一旦、冬夢から離れ、カラコンを外した。

そして冬夢を真っ直ぐ見る。


「オレはもう、自分の姿を偽るのはやめる。オレはありのままのオレでいる。だから…その…そんなオレをずっと見守って欲しい」


「お安い御用だ、響。ちなみに俺は、本当の姿の響の方が、可愛くて好きだよ」


「か、か、か、かわ、かわい、か、可愛い? それに…す、す、す、す、す、す、す、好き?」


不意打ち過ぎる冬夢の発言に、オレはたじろぐ他無かった。

心の中では、あまりの嬉しさにはしゃぎまわってたのだか。


「どうした? そんなに慌てて?」


不思議そうに首を傾げる冬夢。

どうやら本当にわかってないようだ。…和が愚痴ってたけど…ここまで鈍いとはな…。


「そ、それより冬夢」


結局オレは話をそらした。

このままじゃ色々な意味で体が持たねーからな。


「…ケーキを公園に置いて来ちまったみてーだ。悪い…」


正確にはあの覆面男達がどこかにやったんだろうけど。


しかし冬夢は笑って


「別にいいさ。ケーキは作ればいい話だし。それより帰ろう。和達が待ってる」


「ああ、そうだな!」


これから始まるであろう、新しい生活に胸を踊らせながら、オレは冬夢と一緒に家へと向かった。






「ふう…疲れた。ただいー」


「本当にいい加減にして下さい!」


玄関に入った途端、和の怒鳴り声が聞こえて来た。


響も驚いているようで、青く綺麗な目を大きく見開いている。


「と、取りあえず…見て見るか、響」


「…ああ」


俺達は和の怒鳴り声がする方へ、こっそりと向かった。



「絶対に…音を立てるなよ」


「わかってる…」


流石に和が怒鳴っている部屋に堂々と入る勇気は、俺達には無く、ドアの隙間からそーっと覗く事にした。


「ぶ、部ちょー」


「おい、響! 静かにしろ!」


俺は慌てて、響の口を手で塞ぐ。


「!!!」


すると響は一瞬で大人しくなった。おー…ハンドパワーすげー。

なぜか響の顔が真っ赤っかだが。


しかし、響の言う通り和に怒鳴られてるのは正座をしたミス アビゲイルだった。


…和、竹刀まで持ち出してるし。ミス アビゲイルは何をやらかしたんだ?


「なあ、冬夢。部長と一緒に正座してる、あの2人の男達は誰だ?」


「いや、知らないな。…って、あれ!」


2人の手にしていた“あるもの”を見つけた俺は思わず声をあげてしまった。


「ちょっ! 冬夢!」


「いや、あの男達が手にしてるものを見てみろ」


「あいつらが手にしてるもの? …あっ! あぁぁぁぁぁぁあっ!」


響も驚いたように声をあげる。


その男達。一体何を持っていたかと言うとーなんと覆面だった。

あの響を襲った2人組が被っていた覆面だったのだ。


「なあ、冬夢。これって一体どーゆーことなんだ?」


「いや…俺にもさっぱりわー」


「何をしてるのだ? 冬夢に響」


恐る恐る顔をあげると、そこにいたのは無表情の和だった。


「い、いや、今帰って来た所なんだけど…どうやら俺達はお呼びではないっぽいなー、と言う事で待機してました」


「やっぱり和の邪魔するのはよくねーしな。オ、オレ達は自分達の部屋に戻ってるぜ」


「うん、そうしようそうしよう」


俺達は回れ右して、自分達の部屋にダッシュで戻ろうと思ったのだが…


「いや、冬夢と響にも聞いて貰った方がいい話だからな。ちょっと待て」


そう言って襟首をがっしりと掴まれてしまった。

万力で固定されたように、いくら暴れてもびくともしない。

…どこからこんな力が出てくるんだよ…。


(これはもう…)


(諦めるしかないな)


俺は響とアイコンタクトを取り、逃げる事を諦め、ミス アビゲイル+謎の2人の男が正座して待っている部屋へと大人しく引っ張られていくのだった。





「…で、和。何でミス アビゲイルに説教してるんだ?」


「ほら、アビゲイル。冬夢と響に説明しろ!」


「は、はい! 和様っ!」


なぜか恍惚な表情を浮かべる、ミス アビゲイル。



「なあ…響」


俺は横にいる響に小声で話しかける。


「…何だ?」


「一応確認なんだが、ミス アビゲイルは和より立場上だよな?」


「ああ、もちろんそうだけどよ…これを見てたら自信が無くなってきたぜ」


俺が響を助けに行っていた間に、絶対何かあったんだろうが…うん、これ以上深く考えるのはやめよう。何があったかを知ったら、人として何か大切な物を失う気がする。



「実はね、冬夢ちゃん。響ちゃん。あれは全部お芝居なの」


「「は?」」


お芝居? 一体どういう事だ?


「響ちゃんが襲われるのも、冬夢ちゃんがそこから響ちゃんを救うのも最初からきまっていたのよ」


「つー事は…ここにいる2人ってのは…」


「そうよ。響ちゃんを襲った2人よ。ちなみに、アタシの同僚ね」


「どーも。シャムです。さっきはゴメンね。君が買ってたケーキはちゃんと冷蔵庫に入れてるから」


「……ケーリーだ」


「じゃあ、あの予知能力も嘘だったんですか? ミス アビゲイル」


最初からシナリオがわかっているなら、予知能力を使う必要ないしな。


「いいえ。予知能力は実際に使ってたわ。ちゃんとシナリオ通りに進むか、視ておく必要があったもの」


なるほど。ちゃんと敷かれたレールの上を走っているか、脱線する事がないか、逐一確認しておかないといけなかった、と言う訳か。


それはわかったが…どうしてこんな事をする必要があったんだ?

響を怖い目に合わして、何がしたかったんだ?


これについては、響も同じ事を考えていたらしく、響はミス アビゲイルに聞いた。


「部長、そんな事をして…何の意味があったんですか?」


「そりゃ…響ちゃんの男嫌いを治す為よ」


「オレの男嫌いを治す為?」


「少々、荒療治かも…とは思ったけど、これから男と一つ屋根の下で暮らすというのに、いつまでも男嫌いのままじゃダメでしょ?」


「確かにそれは大切な事だ。しかし、今回はいくらなんでもやり過ぎだろ!」


パァンと竹刀を床に叩きつける和。

ああ、和はこの事に怒ってたんだな。納得納得。


「ま、まあ、やり過ぎだったのは認めるわ。でも効果はあったわよね?」


「ええ…一応ですけど…」


「一応って…どういう事かしら?」


響は俺の方をチラッと見て


「冬夢だけは…その…全く怖くねーんだ。こうやって触れても大丈夫だ」


俺の腕にギュッと抱きついてきた。

当然、小さいながらもしっかりと柔らかい、1対のアレが押し付けられる訳で。

あぁ、ヤバイ。お風呂で見た響の裸が再び脳内上映される。


って、おい! 俺! 邪な思いは捨てろ! 煩悩退散!

俺は脳内倫理委員を総動員させ、何とか上映を中止させる。


「あらあら~。もしかして、響ちゃん…冬夢ちゃんに惚ー」


「うわあぁぁぁぁぁあ!」


どうしてか大声をあげ、ミス アビゲイルの声を遮る響。


「まあ、目標は達成できなかったけど、これはこれでいいんじゃないの? ねえ、ケーリー」


「…俺に振るな」



「ひ、響! 今日の朝は…盗らないと言っていただろうが!」


竹刀を放り投げ、響に詰め寄る和。よく見ると半分涙目である。


「オレもそう思ってたんだけどよ…その…完全に油断しちまってた」


「くっ…くぅーっ」


何を悔しがってるのかさっぱりわからない。響は何を盗ったんだ?


「なあ、和に響…何の話をしてるんだ?」


「「「「「はぁー」」」」」


なぜかここにいる俺を除いた5人がため息を吐いた。

え? 俺、完全にアウェー?


「冬夢ちゃん…本当に鈍すぎよ」


「まあ、この鈍さのおかげで、あんな複雑な関係が成り立ってるんだろうけどね。ケーリーもそう思うだろう?」


「…修羅場にだけはなるなよ」


「和から聞いてはいたが、ここまでひでーとはな。わざとやってるとしか思えねーよ」


「だろう、響! 冬夢には乙女心を一度勉強して貰う必要があると思うのだ」


「と、とにかくだ。もう時間も時間だし…料理作らないとな!」


俺はこの完全にアウェーな場所から、キッチンへ逃走を計った。

しかし…


「逃げちゃダメよ、冬夢ちゃん」


「そうだ、冬夢。ここで一度勉強しろ!」


「冬夢にしろって言った所で、どーせ勉強しなさそうだしな」


「頑張ってね。僕も赤ピース○ォーカー頑張って倒すから」


「…まあ、頑張れ」


美少女2人+筋肉隆々の漢に、呆気なく捕まってしまった。


「ちょ、待って! やめて! そんな分厚い本なんか1時間で読めない! 読めないから! ミス アビゲイルも脱がないで! キスしようとしないで! シャムさんもケーリーさんも高みの見物、決め込まないで下さい! 助けてくーうわあぁぁぁぁぁあっ!」




こうして(?)長い長い1日は幕を閉じたのだった。

これで響回は終了です。

…いや~長かった。自分でもここまで長くなるとは予想してませんでした。


まあ、オチも綺麗にまとまったっぽいし…個人的には結構満足してたりします。


次回からは、前々から言っていた通り麗奈回です。

全3話を予定してます。どうぞお楽しみに。



そして報告が1つ。

ボクっ娘である中溝 和紗の名前を中溝 悠里に変更します。

理由は下の名前に「和」が入ってるからです。

和とかぶっちゃってた(笑)



誤字脱字や矛盾点などありましたら、ご報告よろしくお願いします。


また、感想や評価、レビューなどもお待ちしております。

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