第18話 マンガなどでよく見かける、ラッキースケベなイベントが現実で起こる確率は、ほぼ0%なので、夢見ている人は諦めた方が良い
「……」
「……」
「あ、あの…ここにバスタオルありますんで、使って下さいね…」
そう言って俺は、バスタオルの入っている棚を指差す。
「お、おお…」
「じゃあ…俺はこれで失礼しますね」
俺は音を立てないように、そっとドアを閉めた。
…うわぁぁぁぁぁあ!!! お、おっぱいですよ、生おっぱい!!!‼ しかも金髪美少女の!! 確かに、まだまだ発展途上である事は事実だが…それでもおっぱいである事には変わりはない!!
…って、何を言ってんだよ、俺は! それも重要だが、もっと気にするべき部分があるだろ! おっぱいとかおっぱいとかおっぱいとか……いかんいかん。完全に頭の中がおっぱいで支配されてしまっている。落ち着け、俺。金髪美少女のおっぱいは、脳内メモリに保存しておいて、後でゆっくりと楽しめばいい。今大切なのは、あの金髪美少女が誰かと言う事だ。
おかしい…シャワー浴びに行ったのは、善家のはずなんだがな。善家は当然、金髪美少女ではない訳で…まあ、美少女である点は同じかもしれないが。
…じゃあ、何だ? もしかして、あれか? 善家はお湯をかぶったら、髪の毛が茶髪から金髪に変わります、みたいな…。いや、自分で言って何だが、それはないな。そんな、『ら○ま1/2』のチープ版みたいな性質があるわけ………あるわけ………。
「……あっちゃうかもしれないな…」
俺は小さくため息をつく。
…そうだよ。忘れてた…善家も和と同じ神様だったな。
様々な奇跡(お粥を焦がしたりだとか、唐揚げ天国の店長を叱りつけたりだとか)を引き起こして来た和と一緒の神様なのだ。善家が変わった性質を持っていても、もはや驚かない。
…何事も受け入れる事の出来る、寛大な心を持てるようになった、と素直に喜ぶべきなのか、自分も和達と同じ神様色に染まってしまった、と嘆くべきなのか…
そんな事を真剣に悩んでいると
「キャァァァァァァア!!!!」
物凄い悲鳴がバスルームから聞こえてきた。そして、さらにー
「のわぁっ!!!!」
と変な声が聞こえてきたかと思うと、その直後にドシーンと言うけたたましい音が聞こえてくる。
「ど、どうしたんだ⁈」
俺は慌てて、バスルームの中に入る。
「痛ててて…」
どうやら、悲鳴をあげながら、浴室に避難しようとして…滑ってしまったみたいだ。
金髪美少女は浴室の床に座り込み、腰の辺りをさすっている。よっぽど痛かったらしく、若干涙目だ。
「大じょー」
「物凄い悲鳴が聞こえたぞ⁉ どうしたのだ?」
俺の声を遮るような大声を出しながら、和がバスルームの中に入ってきた。
「ああ、和。実は…って和?」
和は顔を真っ赤にさせ、肩を震わせていた。そして笑顔なのだが、どうしてだろう背筋がゾクッとする。ど、どうして和はこんなに怒ってるんだ?
考える事、数秒。俺は悟った。
今の状況ー裸の金髪美少女が涙目で、浴室に座り込んでいる。そして、そこに突っ立っている俺。
ああ…何も知らない第三者から見たら、俺…完全に変質者だよ。ただ金髪美少女を襲おうとしてる人だよ。そりゃ、和も怒る訳だ…って、おい!! 俺、何1人で納得してるんだよ!! このままじゃ、和に恐ろしい目に合わされるぞ!! 何とかして誤解を解かないと。
「和、お前の考えている事は間違ってる!!」
「冬夢!! 見損なったぞ‼‼ 響を襲おうとするとは‼」
「 い、いや、だから違う。人の話をちゃんと聞ーぐほっ⁉」
俺は和の鋭いボディフックを、もろに喰らった。
和、早とちりはよくないぞ。…まあ…こんな事になったのは、全て俺のせいなんだけども。
そんな事を思いながら、俺は気を失っていった。
「…ん…」
「お、目が覚めたぜ」
「大丈夫か? 冬夢」
俺が目を開けると、視界に入ってきたのは天井ーではなくて、和と善家だった。目覚めから美少女2人を見れるとは…素晴らしい限りだよな。
「大丈夫だ」
俺はそう言って、ソファーから起き上がった。どうやら、和と善家が気絶した俺をソファーの上に運んでくれたようだ。
「話は響から聞いた。完全に私の早とちりだったようだな…すまない」
そう言って和が、申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「いやいや、元を辿れば俺の不注意から始まったんだ。和が謝る事ではないさ。むしろ、俺が謝る方だよ。迷惑かけて悪かったな」
「いや、しかしだな、冬夢よ。私は冬夢を思いっきり殴ってしまったのだぞ?」
「別に気にしてないって。痛みも全くないし…治してくれたんだろ? ありがとうな」
そう言って俺は、和の頭を優しく撫でてやった。頭を撫でてやると元気になる事を思い出したのだ。あれは確か…和がこの家にやって来た日だったな。
「あっ…エヘヘヘ…」
嬉しそうに目を細める和。よっぽど嬉しいのか、もっと撫でろと言うように、頭をグイッと突き出してくる。和は元気になるし、俺も美少女の頭を撫でる事ができるし、一石二鳥だな、うん。
和が元気になる理由がイマイチわからないな…あぁ、女心って難しい。本でも買って、勉強してみるかな。鈍いって言われ続けるのは、何か嫌だし。
「おい、一ノ瀬!!」
「わっ!!」
色々と考えている所に、いきなり善家に声をかけられ、驚いた俺は思わず和を撫でている手を止めてしまった。
「……あ…」
和は寂しそうに、こっちをジッと見つめて来た。こうやって見つめられると、何も悪い事をしてないのに、物凄く罪悪感を感じてしまう。当然、その目に逆らえる訳がなく…なでなでを再開する俺であった。
「で、何なんだ? 善家」
俺は和を撫でながら、善家に聞く。
「…どうしてオレには謝らないんだよっ!!!」
「謝る?? どうしてだ??」
「オレのは、裸を事故とは言え、見ただろうが!!」
「善家の裸? …って事は、あの金髪美少女は善家だったのか。それだったら、本当に悪かった」
やっぱりそうだったのか。流石神様、チープ版とは言え「ら○ま1/2」を再現するとは…侮れないな。何が侮れないのかは、自分でもわからないが。
「まあ、事故だったし許してやるよ。あれが故意なら今頃、殺してた所だけどな」
そう言ってこっちを睨んでくる善家。
とても男性恐怖症の方の発言とは思えないのだが…全面的に自分が悪いので、その辺は黙っておこう。それに普通じゃ、こんなにあっさりとは許されないだろうし。善家の心の広さに感謝しなくちゃな。
「ところで、お湯を被ると変化するのは髪の毛だけなのか?」
俺は気になっていた事を聞いた。性別は変わってなかった(それは既に確認済みである)が、他に何か変化するのだろうか? 性格とか能力とか。
しかし、善家は
「は? 何言ってんだ?」
と呆れたように、こっちを見てくるだけだった。
「いや、だからー」
「勘違いしてるみたいだから、先に言っとくけどよ、これカツラだぜ? ほら」
そう言って、茶髪の髪の毛を持ち上げる善家。なるほど…確かにその下にはとても綺麗な金髪がーって
「それ、カツラなのかよ!!」
俺は思わず、全力でつっこんでしまった。返せ!! 俺の好奇心を返せ!! 一瞬でも「神様って侮れないな」って思った自分が恥ずかしい。
「んでもってー」
そう言って、ポケットから取り出したのはコンタクトレンズを入れる容器だった。善家はコンタクトを外して、容器の中に入れる。まさか…
「ほらよ」
そう言って、顔を上げた善家の目は…澄んだ青色だった。
「……」
予想の斜め上と言うか…斜め下を行った善家の正体に、俺は呆然とする他なかった。
つまり…何だ? 善家は普通の金髪碧眼の白人美少女だったのか? カツラとカラーコンタクトで誤魔化しているだけの?
…か、神様…こんな事言うのもなんですが、あなた達は本当に、訳がわからないです、はい。ああ、どんどん神様に対する俺の印象が変わっていく…。
「…どうしてこんな事をしてるんだ?」
「そりゃ、こんな見た目じゃ人の目を惹きつけちまうからな」
と笑って言う善家。
確かにそれは一利あるな。でも、善家さん…その神父服のせいで、どの道目立っちゃいますよ。
「と、冬夢…ちょ、ちょっと…来てくれないか?」
クイクイッと俺の服の袖を引っ張る和(ちなみに頭は撫で続けている)。顔は真っ赤で、目もややトロンとしている。言葉も噛み噛みだし…俺ってなでなでの才能でもあるのかなぁ? 今度、美都とかで試してみようかな。
などと考えながら、俺は和に連れられて廊下へと出る。
「どうしたんだ? 和」
「いや、実はだな…」
もう既にいつも通りの和に戻っていた。相変わらず切り替え“だけ”は一級品である。他の部分も、ここまでとは言わないが、平均的になって貰いたいものだね。特に料理とかさ。
「響がああいう風に軽く言ってるがな…本当はもっと重いんだ」
「と言うと?」
イマイチ話の方向性が見えず、聞き返す俺。
「昔はあんな事はしなかったんだ。響にとって金髪碧眼は自慢だったようでな…私に良く誇らしげに見せてくれていた。しかしあの日を境に隠すようになってしまった」
「あの日ー善家が襲われそうになった日か」
「ああ。襲った犯人が、捕まった後に供述したのだ。自分はあの金髪碧眼に惹かれたんだ、とな。響はそれを聞いてから、カツラとカラーコンタクトで本当の自分を隠すようになったんだ」
「なるほど…」
「男性恐怖症がマシになった今でも、響は絶対にカツラとカラーコンタクトを着けずに外に出ようとはしない。まあ、男に自分の本当の姿を見られて笑っていられる程には、克服したのだがな。でも、心のどこかで怯えているのだと思うのだ」
「…強いんだな、本当に」
俺はそれしか言う事ができなかった。
「しかしさっきも言ったが、冬夢よ。男性恐怖症を1人で克服するのは、やはり無理があるのだ。下手をすれば、響が壊れてしまうかもしれない。そうなってしまったら…私は…」
そう言って顔を伏せる和。
俺は安心させる為に笑ってこう言った。
「安心しろよ、和。俺が必ず善家の男性恐怖症を治してみせるからさ。そう悲しい顔をするなよ」
「ありがとうな…冬夢。冬夢に相談して、本当によかった」
そう言って顔を上げ、こっちを見て笑う和。
「じゃ、リビングに戻ろうぜ。早く戻らないと、
善家に怪しまれるからな」
俺と和はリビングへと戻った。
「へぇ〜。ここが善家の家なのか」
俺はそう呟いて、善家の家を見上げる。正確に言うと、善家の住んでいるのは社宅なのだが。
これがまた豪華なのだ。社宅内を見ていないので何とも言えないが、きっと部屋なんかも豪華に違いない。
…ここから俺の家に引っ越しさせるなんて、何だか申し訳なく感じてしまう。それ程、ここの社宅は豪華だった。
ちなみに、善家の社宅は俺の家から、電車で2駅。さらに徒歩5分と言う、なかなか中途半端な近さの場所にあった。
「そういや、善家」
「ん?」
「トラックと運転手が来るって言ってたよな?」
「ああ、その事か。その事については、さっき部長からメールがあってよ。来れるヤツがいねーから、部長本人が来てくれる」
「なっ…」
なぜか和が嫌そうな顔をする。その部長さんと上手くいってないんだろうか? 上下関係も大変だな。
後、部長さーん…その優しさは嬉しいですが、勤務中じゃないんですか? 勤務放棄しちゃって大丈夫なんですか〜?
つくづく俺を不安にさせてくれる人だなぁ…どんな人なんだろ? 天然が入ってる人だろうか? 意外にも見た目はマジメだったりして…。
などと変な妄想を膨らませていると、善家が
「ほら、あれが部長の車だ!」
と向こうから走ってくる、1台の大きな黒いバンを指差す。
「…ついに来てしまったか」
和がさらに嫌そうな顔をする。
それに反比例するように、俺の期待(又の名を妄想とも言う)は強くなっていく一方だった。早く、早く来い、部長さん!
車が社宅の横に停まり、ドアが開く。
「部長さん、はじめま…」
早速あいさつをしようと試みた俺だったが、あいさつを最後まで言い切る事ができなかった。
なぜなら部長さんはー
「あら〜こんにちわ。可愛い子が出迎えてくれて嬉しいわ〜。もう、このまま連れ去りちゃいたい気分だわ〜ウフッ♡」
筋肉ムキムキのガチムチ“オネェ”だったのだ…。
和が嫌な顔をしていた理由がよ〜くわかった。
部長さんには悪いが、今、俺も最高に嫌な気分である。それに見つめられるたびに、背筋がゾクッとする。
「何だったら、今から遊びにいかない? ぼ・う・や♡」
「全力でお断りさせて頂きます」
俺は貞操の危機を感じ、土下座で断った。
部長さんと遊びに行ったら、自分が自分じゃなくなってしまう気がする。
「も〜照れちゃって。そんな反応も胸にズッキュンきちゃうのよ〜」
そう言って1人、身悶える部長さん。
…俺…生きて自分の家に帰って来れるのかな?
俺はその姿を見ながら(もちろん、土下座のままで)、そんな事をふと思った。
次回でこの話は終わりです…多分。
響の話が終わり次第、麗奈を中心とした話を進めて行こうと思ってます。
誤字脱字や矛盾点などありましたら、ご報告よろしくお願いします。
また、感想や評価などもお待ちしております。
にしても…何だ? このサブタイは!
いくらなんでも長すぎる!
直す気は全くないですが(笑)