第14話 屋上+大事な話=?
更新がだいぶ遅れてしまいました。
本当にすいませんでした。
「なあ、美都」
「なにかしら?」
「大事な話があるんだ、時間あるか?」
「えっ⁈ だっ、大事な話?」
私、榎本 美都は思わず声を詰まらせた。
今は放課後。クラブに行く用意をしていると、隣の席の冬夢が急に話しかけてきたのだ。
それにしても…大事な話ってなんなのかしら?
まさか…こ、告白とか?
…いや…自分で言っておいて何だけど、それは無いわね。だって相手は鈍さの道を極めた男、一ノ瀬 冬夢よ? そんな事あるわけがー
「クラブがあるのはわかってる。だが俺にとって、とっても大事な話なんだ。聞いてくれないか?ただ、ここでは話せない内容だから…悪いが屋上で」
「お、屋上⁈ ここでは話せない⁈」
これは…も、もう確実に…告白よね? 疑う余地なく、絶対に告白よね!
私は大きくガッツポーズをした。もちろん心の中で、だが。
同盟(その名も、鈍い一ノ瀬 冬夢を力を合わせて振り向かせよう同盟)を結んだ他の皆には悪い気もするけど…冬夢自身が選んでくれたんだから、仕方ない事よね。冬夢から誰かが告白された時は恨まずに素直に祝福する事、って決めてるし。
冬夢からの告白…そう考えただけで物凄くドキドキする。顔が無意識の内にニヤついてしまうし、顔が赤くなっているのが自分でもよくわかる。
冬夢…一体どんな感じで告白してくれるのかしら?
『どうしたのかしら、冬夢? こんな屋上に呼び出して』
『悪かったな、クラブ前なのに。だが、さっき言ったように教室では話せない事なんだ。聞いてくれるか?』
『もちろんよ』
『…美都…お前の事が大好きだ‼』
『え…え⁈』
『美都の事が大好きなんだ。昔は、幼馴染としてしか見ていなかった。でも、いつからかは俺にもわからないが…気づけば美都の事を1人の女の子として見ていた。俺と…付き合ってくれないか?』
こ、こんな感じなのかしら? 私の勝手な想像とはいえ…これはヤバイわね。破壊力が高すぎる。覚悟して望まないと…恥ずかしさと嬉しさの余り、悶絶してしまうかもしれない。ある程度、慣れておかなくちゃダメね。
そう思った私はもう一度、脳内映画館でさっきの冬夢の告白シーンを上映させー
「おーい、美都? 聞いてるか?」
「ふひゃう⁉」
急に冬夢に肩をゆすられ、私は驚き変な声をあげてしまう。
「さっきから顔を赤くしながらニヤついていたが…俺の話、聞いていたか?」
「あ、当たり前よ! ちゃんと聞いていたわ! それと…顔を赤くなんかしてないし、ニヤついてもないわよ‼」
まさか、冬夢の告白がどんな感じかを想像してた、なんて死んでも言えるわけがない。かと言って、咄嗟に別の理由を考えれる訳がなく…。私は聞いている、という他なかった。本当は全く聞いてないんだけど。
何て言ってたのかしら…でも今更聞けないわよね。
「そうか? まあ、本人がそうだと言ってるんだから…そうなんだろうな」
とうんうんと頷く冬夢。
…冬夢が鈍くて助かった。普通の人ならこんなに素直に納得なんかしない。
「じゃ、先に屋上で待っておいてくれ! すぐに俺も行くから」
そう言い残して冬夢は教室から出て行った。
何か用意する事でもあるのかしら? も、もしかしてプレゼントとか? 鈍い冬夢にしてはやるわね。
そんな事を考え、胸を踊らせながら私は屋上に向かった。
「…にしても遅いわね…」
屋上へと上がってきた私は、1人ベンチ(屋上になぜか一脚だけある)に座り冬夢を待っていた。
待ち始めて既に5分が経つ。
しかし冬夢は一向に現れそうにない。
だからと言って私にはただ待つ事しかできないんだけれども。
「いつになったら来るのよ~!」
今どこにいるのかをメールで聞こうとケータイを取り出したまさにその時、目の前にあるドアが開いた。
「あ、やっと来たわね? も~冬夢! いくらなんでも遅…」
冬夢だと思いベンチから勢い良く立ち上がった私だったが…
「あ、美都さん。こんにちわ」
屋上にやってきたのは麗奈だった。
「こんな屋上に来てどうしたんですか?」
「いや…そ、その…えっと…そ、それより麗奈はなんでここに来たの?」
冬夢に告白される、なんて絶対に言える訳がないので私は質問には答えず質問で返した。
「え、えっ!? わた、私ですか? 私は…」
「私は?」
「ち、ちょっと屋上に来たくなりまして……はははは…」
そう言って、顔を赤らめ乾いた笑いを上げる麗奈。
嘘であることが丸わかりである。
まあ、顔を赤くしている事から察するに、誰かに告白でもされるのだろう。
「あ~なるほど。そういう時あるわよね」
適当に相槌をうちながら、私は必死に頭を働かせた。
…どうやって麗奈を屋上から追い出そうかしら?
このままでは、麗奈のいる前で冬夢に告白される事になってしまう。
それは流石にマズイ。何としても避けたい事だ。
しかし何と言えばいいのか…
などと悩んでいると
「あれ?美都先輩に麗奈先輩じゃないですか。どうしたんですか?」
と誰かにドアの方から声をかけられた。考える事を一旦中断し、ドアの方を見るとそこにいたのは悠里だった。
「悠里こそどうしたのかしら?」
麗奈の時と同じく、私は悠里に質問返しをする。
「えへへ…言っちゃっていいんですかね?」
そう言って顔を赤くさせ、ニヤニヤする悠里。
…何か嬉しい事があったのかしら?
そんな事を思いながら私は答える。
「もちろん。いいわよ」
「えーっとですね…実は…ボク…今から一ノ瀬先輩にこ、告白されちゃうんです!」
「えっ?」
「はい?」
私と麗奈の声が重なる。
…と、冬夢が悠里に告白? 私に告白してくれるって言ったのに…あれはウソだったの? いや…冬夢に限ってそんな事ないわ。絶対に! 悠里が勘違いしてるだけよ!
そう判断した私は和紗に聞く。
「ねえ、悠里。それは本当なのかしら? 悠里の勘違いじゃないの?」
「そうです! 悠里さんの勘違いに決まってます!」
私と麗奈がそう言うと、悠里は首を横に振り
「いいえ、そんなわけないです! 一ノ瀬先輩は大事な話がある、と言ってましたから!」
と強い口調で言った。
「ええぇぇぇっ! わ、私もそう言われましたよ?」
それを聞いた麗奈が驚いたように声をあげる。
「ほ、本当なんですか? 麗奈先輩」
「はい。さっき私の教室に一ノ瀬君がやって来て、屋上で大事な話があると言われたんですよ」
「…どういう事なんでしょうか…あ、もしかして美都先輩もー」
「ええ…そうよ…」
どうしてこんな事をしたのかしら?
私は悠里に答えながら考える。
…冬夢の事が好きな私達3人を告白すると言って呼び出して、みんなの反応をこっそり見てからかうとか?
いやでも…冬夢は私達の好意なんて全く気付いてないし、そもそもそんな性格じゃないわ…よね?
「とりあえず…冬夢が来るのを待つしかないわね」
「いくら一ノ瀬先輩でも…乙女心を弄ぶなんて許せません! ボクがどれだけドキドキしながら屋上に来たと…」
「いや…悠里さん。まだそうと決まったわけじゃないですよ? 一ノ瀬君の事です。きっと何か理由があるはずです」
「そうかもしれないですけど…こんなの…ヒドいですよ」
「確かにそうですね…もっと別の方法があったはず」
冬夢…一体何を考えてるのかしら? 全く意図が読めなー
「遅くなって悪い!」
私は考える事を止め、声のした方を見る。
そこにいたのは冬夢と…
なぜか役所と真莉だった。
「遅くなって悪い!」
俺が屋上に飛び込むと、既に3人は揃っていた。なぜか睨むようにこっちを見ている。
どうした? …俺、Mじゃないから全然嬉しくないぞ?
「冬夢!」
「一ノ瀬君!」
「一ノ瀬先輩!」
「お、おう」
3人が声を揃えて俺の名前を呼ぶ。なぜかとても強い口調だ。
「これは一体どういう事なのかしら?」
…どうやら物凄く怒っているようです…はい。
理由は全くわからないけど…俺、何か悪い事したか?
あ…そうか。俺が遅くなったから怒ってるんだな。これは謝らなければ。
「ごめん! 俺が悪かった!桐生と萩原が中々見つからなくて…」
「何言ってるんですか、一ノ瀬君? 全然違います!」
ち、違う? 他に俺、何か悪い事したか? …いや…思い当たる節はないな。
「何でそんなに怒ってるんだ? 理由を教えてくれ」
「とぼけないで下さい、一ノ瀬先輩! 何の事かわかっているくせに!」
「え? え?」
中溝も相当怒っているようだ。本当に俺は何をやらかしたんだ? もしかして俺は二重人格でもう1人の俺が…。って、んな訳あるか! 思い出すんだ、俺!
「冬夢…今度は何をしたんだ?」
横にいた桐生が小さい声で尋ねてくる。
「俺にも全くわからないんだ」
「でも、美都達…相当怒ってるっぽいよ?」
と萩原も話しかけてくる。
「とにもかくにも、3人の怒りが収まらないと話が始まらないだろうに。冬夢、アレを使うしかないぞ」
「そうだな…アレを使う時が来てしまったようだな…」
俺は覚悟を決め、最終奥義を繰り出した。
「本当に何の事かわからないんです。教えて下さいませんでしょうか? 何でも仰る事は聞きますんで…」
そう…土下座+丁寧語+何でも言う事を聞く、という最強(?)奥義を俺は繰り出した。
桐生曰く「これをすれば絶対に許して貰える」との事。信憑性に欠けすぎてるが、この際仕方がない。
「そこまでされると…何だかボク達が悪いみたいじゃないですか…」
「どうやら本当にわかってないみたいですよ…どうします、美都さん?」
「…仕方ないわね…何で怒ってるか教えてあげるわ」
「ありがとうございます!」
おお…桐生スゲー! 凄すぎる! これでようやく謎が解けるぞ。…その代わりに何か人として大切な何かを失った気がしないでもないが…背は腹に変えられないよな…うん。
「私達が怒ってるのは…その…冬夢が…」
「俺が?」
「どうして告はー」
「3人共ちょっとついて来てくれる?」
美都の声を遮り、萩原が3人を連れて屋上から出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと萩原?」
呼び止めようとしたが既に遅く、4人は屋上から出て行ってしまった。
「一体何がしたいんだよ…」
俺がボヤいていると、横にいた桐生が話しかけてきた。
「俺と真莉の予想が正しかったら…冬夢、お前は悪くない」
「へ? じゃあ、あの3人は…」
「ああ、ただの思い込みだ。真莉にはそれを伝えて貰っている」
「なるほどな…でも思い込み? 一体何を?」
「それは俺の口からは言えないな。知りたかったら本人達から直接聞け」
「わかった…」
そんなこんなで待つ事数分。
「悪いね~」
萩原がそう言いながら屋上に戻って来た。
「あれ? 3人は?」
「もうちょっとしたら来るよーほら来た」
3人が屋上に戻って来た。3人共どこかばつの悪そうな顔をしている。どうやら萩原がうまい事や
やってくれたようだ。
しかし…桐生といい萩原といい… 何であんなに勘が鋭いんだ? 何か秘訣でもあるんだろうか? もしあるなら、ぜひ教えて欲しいものだ。日頃から皆に鈍いと言われ続けているからな…。今度聞いてみるか。
「ねえ、冬夢。1ついいかしら?」
「ん? どうした?」
「重要な話の内容はさっき真莉から聞いたわ。でもね冬夢、ちゃんとそう言う事は先に言ってくれないかしら? じゃないと…その…か、勘違いしちゃうじゃない」
「勘違い? ああ、何か変な思い込みしてたんだって? 一体何だと思ってたんだ?」
俺が尋ねると、美都は顔を赤くして
「そ、そんなの言えるわけないじゃない! このバカ!」
と言って俺を思いっきり睨んでくる。
そんなに顔を赤くして恥ずかしがる程、変な勘違いをしてたのか?
うーん…気になる…。でも美都は言ってくれなさそうだしな…
「なあ水沢、一体何だと思ってたんだ?」
俺は美都から聞き出す事を諦め、
水沢に尋ねる。しかし…
「そ、それは言えないですっ!」
美都と同じように顔を赤くし、首を横に振る水沢。
…水沢もムリか…だったら残るは…
「中みー」
「すいません…流石にボクもこれは…」
…中溝もムリなのか…中溝なら話してくれると思ったんだがな…気になるけど…まあ、仕方ないか。
俺は聞き出す事を諦めた。ムリに聞き出そうとして機嫌を損ねられても困るしな。
でも1つ誤解されてる点があるから、そこは指摘しておかなくちゃな。
「なあ、美都。俺、一応内容は言ってたぞ」
「いつ言ったのよ? 私は聞いてないわ」
「ボクも聞いてないですよ」
「私もです」
「いや、ちゃんと話したぞ? 3人ともボーッとしてたから聞いてたかどうか不安だったんだが…どうやら聞いてなかったみたいだな」
美都には、ちゃんと聞いてるのか確かめもしたし、美都自身も聞いてるって言ってたんだけどな…
「まあいいや。俺も含めて皆クラブあるなだろうから、あんまり時間かけたくない。早速意見を聞くぞ。ー和の唐揚げ中毒の治療方を」
俺が皆をわざわざ屋上に呼んだのは、和本人に聞かれないようにする為だ(ちなみに今、和は剣道場にいるはずである)。
「そんなに和先輩の唐揚げ好きは、ヒドいんですか?」
「ああ。今日の和、何か元気なかっただろ?」
「確かにそうだったわね。何か魂が抜けてる感じ」
「ああなったのはー」
俺は簡単に一昨日のインスタントラーメン事件のあらましと、その罰としてしばらく唐揚げ禁止令を出した事を話した。
「…本当に中毒状態だな」
俺の話を聞いて、桐生が驚いたように言う。
「驚いた…治療したいって言う一ノ瀬の気持ちもよくわかるよ」
と萩原が苦笑する。
この2人を驚かせるとは…やるな、和。ある意味凄いぞ。
「とは言っても…どうしたものか。やっぱりムリなのか…」
なるべく和のテンションを落とさず、唐揚げ中毒を治す方法。そんなウルトラC級の方法はないよな…
「何言ってんのよ。余裕じゃない。今からでもすぐできるわよ」
「本当か? 美都!」
「本当よ。でもそれをするに条件があるわ」
「条件?」
「まず1つ。冬夢は首を突っ込まない事。これは私と麗奈と悠里でやるわ」
「ん? 何でかはよくわからないが…それで治るんだったら全然OKだ」
「それともう1つ。成功したら言う事を何でも聞く事」
「は?」
「さっき言ったじゃない。何でも言う事聞くって」
「いや、あれはまた別の……いえ、何でもないです。何なりとお申し付け下さい」
俺はあっさりと折れて、何でも言う事聞くと約束する。…女子3人から睨まれたら、だれだって反対する気がなくなるだろ。悲しいかな、世の中は常に「女性≫男性」なのだ。
でもまあ、それで和の中毒が治るのなら安いものかもな。流石にめちゃくちゃな命令はないだろうから。
「じゃ、早速行って来るわ」
「失礼します、先輩方」
「それでは行って来ますね」
それぞれそう言い残して、3人は屋上から出て行った。
一体どんな方法をとるんだろ? 気になって仕方ないのだが、美都には首を突っ込むなと言われてるしな…家で和に聞いてみるか。
俺はそんな事を考えながら、桐生達と一緒に屋上を後にした。
そしてその日の夜のリビング。俺はそこで、信じられない光景を目にする事となった。
「…冬夢、唐揚げは週1回にしてくれ。これからは控える…」
何と和自ら、唐揚げを控える宣言をしたのだ。週1回でも十分多い気がしないでもないが…ほぼ毎日唐揚げを食べていた事を考えてみたら、これは奇跡に近い現象である。
「そ、それは…本当なのか、和?」
「ああ、本当だ」
こんな短時間で和のテンションを下げる事なく、唐揚げを控えさせる事に成功するとは…美都達はどんな方法をとったんだ? 物凄く気になるな。
「なあ、和」
「なんだ?」
「お前、美都達に何て言われたんだ?」
「……」
「おい、ちょっと待て! どこ行くんだよ?」
俺が聞くと、和は何も答えずにリビングを出て行ってしまった。階段を登る音が聞こえるから、多分自分の部屋に向かっているようだが…
「…本当にどんな方法をとったんだよ…まあ…成功しただけ良しとすべきかな。美都達にお礼のメール送っとくか…」
「はぁ…」
私、音尾 和は自分の部屋に入り、鍵をかけた事を確認してから、深いため息をついた。
「まさか…あんなに増えているとは思わなかった。指摘してくれた美都達には感謝しなくてはな。唐揚げも食べたいが…今はそんな事は言ってられない」
私はそう呟きながら机に向かい、用意した画用紙にペンで大きくある事を書く。
ー取り戻せ昔の体重‼ それまで唐揚げは控えろ‼ー
「…くそっ…冬夢が悪いんだぞ…あんなに美味しい唐揚げを作るから…」
などと毒付いてみても、昔の体重には戻るわけもなく…
「くよくよしても仕方ないな。ダイエット頑張ろう!」
この日、私は人生初のダイエットを決心した。
これでとりあえず、和の唐揚げネタは終了です。
次回から、「アイツ」を本格的に登場させていきます。お楽しみに。
誤字脱字や矛盾点などありましたら、ご報告よろしくお願いします。
また、感想や評価などもお待ちしております。