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第13話 インスタントラーメンを作る。はたしてこれは料理をしたといえるのだろうか?

「よし、今日はこれで終わり。クラブ終了時刻にも間に合ったしカンペキだな。ありがとうございました」


「「「ありがとーございました!」」」




後片付けも、定められたクラブ終了時刻に間に合い(普段は間に合わない)俺は若干浮かれていた。


やっぱり物事が自分の予定していた通りに進むっていいよな。


最近は予想外の連続だからな…誰かさんの行動は常に予想の斜め上を行く。特に唐揚げが絡むと、全く行動が読めなくなる。



和の唐揚げ病をどうやって治そうか、などと浮かれたテンションで考えながら帰る支度をしていると水沢が声をかけてきた。



「あの、一ノ瀬君」


「ん? 何だ、水沢?」


「料理部の部活動内容報告書を今日中に提出したいので、まとめるのを手伝って欲しいんですけど…いいですか?」


ちなみに部活動内容報告書とは、その名前の通り生徒会に部活動の内容を報告する為の書類である。


月の終わりに必ず提出しなければならず、これをサボると部の予算を減らされたり最悪の場合、予算が全く貰えない、つまり同好会に格下げと言う事もあるらしい。逆にマジメに書いて提出すると予算がアップするんだとか。


「ああ、もちろん。手伝わさせて貰う」



「この選択が恐ろしい結末を招く訳なのだが…この事を一ノ瀬 冬夢はまだ知らない」



「ん? 何か今聞こえなかったか?」


「いえ、私は何も聞こえませんでしたよ?」


「俺の気のせいか? まあいい、手伝わさせて貰う」


「どのくらい時間かかるか、わからないですけど…大丈夫ですか? 和さん、家にいるんですよね?」



余談だが、いつの間にか和・美都・中溝・水沢の四人はお互いを名前で呼び合う仲になっていた。


何があったのか疑問に思い、四人に聞いてみたのだが残念ながらみんなノーコメントだった。



ただ唯一、中溝が


「ボクたち同盟を結んだんですよ」


とだけ話してくれた。



同盟?


「モテ過ぎて困っちゃう同盟」でも結んだんだろうか?



…俺もモテ過ぎて困っちゃう、なんて言ってみたいもんだ。


…キモい?


うるせーよ!



モテたいって言うのは健全な一般男子生徒の永遠の目標なのだ。


…目標?

…いや…妄想と言った方が正しいか?


こんな妄想が叶うのはラノベやマンガのハーレム主人公だけだ。所詮、現実世界の男子にはムリな話…



…何か話がずれてきているな…話を元に戻そう。



水沢の言っているように、和は先に家に帰ってしまっている。


一応、遅くなるって電話しておくか。




「和に遅くなるって電話するから、ちょっと待っててくれ」


「わかりました。それでは私は書類を用意してますね」


「ありがとう」


俺はそう言いながら和に電話をかける。




『もしもし』


「ああ、もしもし和?」


『どうした、冬夢?』


「一応確認するが、今家にいるよな?」


『ああ』


「料理なんかは―」


『約束通りしてない』


「それはよかった」



俺は安堵のため息をつく。


どうにか現時点では家消滅の危機は回避できているようだ。


和を家に1人だけにすると何が起こるかわかったものではない。



さっきも言ったように、和はいつも予想の遥か斜め上を行くからな。常に警戒が必要だ。



料理がヘタであるというだけで、家一軒が消し飛ぶ可能性があるんだから世の中恐ろしいモノである。



『当たり前だ!約束を破ったら私が死んでしまう』


約束(俺の許可なく料理する事)を破った時の罰は一ヶ月間、唐揚げを食べる事を禁ずる、と言うモノ。


一般人にとっては大した事ではないが、唐揚げジャンキー和にとっては大問題らしく…罰の内容を言った時は、終末を迎えてしまったような顔をしていた。



「それより和、帰るの遅くなりそうだ。ちょっと部活の用事を片付けなくちゃならなくてな」


『別に構わないが…その用事はいつ終わるのだ?』


「それが全くわからなー」


『何だと!』


俺の声を遮り和は怒鳴った。


『それでは私の晩ご飯はどうなってしまうのだ! もう既にお腹ペコペコなのだぞ!』



お腹ペコペコって…


昼の弁当、俺よりやや少ないくらいの量なんだがな…更に量を多くしないといけないのかよ…

そのうち、俺より食べる日が来るんじゃないか?


まあ…よく食べる人を見るのは、作る側としては気持ちのいい事なんだけども。



「そう言われてもな…和にキッチンを使わせるのは家が危ないからな…」


『自分で作る気は全くない! お菓子か何か、お腹が膨れるようなものはないのか?』


「プリンは昨日食べてしまったし…ポテチ買ってなかったか?」


『ポテチは結局買わなかったぞ。いつも買ってるカ○ビーがない、とか言ってたではないか』


「ああ、そうだったな。にしても、あの店ふざけてる。コイ○ヤしか置いてないなんて…」


『今はそんな事を話す時ではない! 私の命がかかっているのだぞ!』


命って…そんな大げさな。でも、何も無しで放っておくのもかわいそうだしな。


何かいい案はないか?和のような、料理下手でも作れて…簡単にできて…お腹が膨れるもの…。流石にそんな便利なものないか?




いや…ある!あるじゃないか!


インスタントラーメンが!


あれならお湯を沸かして、注ぐだけだから料理の上手い下手は関係ないし、お湯を注いで3分でできる。それにお腹もある程度膨れる。なるほど、インスタントラーメンは和のよ うな残念なお方の為に存在してたんだな。


インスタントラーメンを開発してくれた皆様、ありがとうございます。おかげで情けない神様1人を救う事ができます。



「なあ、和。インスタントラーメンが食洗機の下の戸棚にあったはずだ。ちょっと確認してみてくれ」


『わかった。ちょっと待ってくれ』


どうやら和は自分の部屋にいたらしく、階段を降りる音が電話越しに聞こえてくる。


『えーっと…インスタントラーメン、インスタントラーメン…ああ、あったぞ』


「そうか、ならよかった。流石にインスタントラーメンなら作れるだろ?」


『あ、ああ。多分な…』


しかし、どうしてか和は自信なさげだった。おいおい…インスタントラーメンはお湯を沸かして、注いで待つ。これだけで作れるんだぞ? こんなの小学校低学年でも作れるぞ……多分。



「何でそんな自信なさげなんだ?」


『いや、インスタントラーメンはインスタントラーメンでも袋タイプのヤツなのだ』


「ああ、そうだった…」


しまった。すっかり忘れていた。俺の家にカップ麺はない。カップ麺だと野菜があまり取れないから…袋麺にして、自分で野菜を加えて作ってたんだ。



それでもインスタントラーメンに変わりはないぞ? お湯を沸かして、そこにラーメンを入れて3分茹でる。最後にスープの元などを入れたら完成。

確かに、カップ麺よりは難しいかもしれないが、非常に簡単だ。


「カップも袋も大した違いはないって。特別にキッチン使うの許可するから、作ってみろ」


『あ、ああ…』


「もしインスタントラーメンを上手く作れたら、何でも言う事を一つ聞いてやるから。頑張ってみろ」


『本当か? 本当に何でも言う事を一つ聞いてくれるのだな?』


「ああ。ただし、インスタントラーメンを作れたらな」


『わかった! 絶対に作ってみせるぞ!』


そう言って和は電話を切った。


何か途中で目的がずれてしまった気がしないでもないが…まあ、いいだろう。インスタントラーメンを作れるなら、これから先、今日みたいに俺の帰りが遅くなっても大丈夫だ。家がなくなるんじゃないかと、ムダにヒヤヒヤする必要がなくなる。


ありがとう、インスタントラーメン。貴方のおかげで今、俺が抱えている問題の一つを解決することができました。


「電話終わりましたか?」


「ああ、終わった」


「それでは作業を始めましょうか。こっちの用意も終わりましたので」


俺と水沢は作業を開始した。








「ただいまー。遅くなって悪いな」


結局、作業が終わったのは7時50分頃。学校から水沢に車で送って貰ったおかげで、何とか8時前に家に帰る事に成功した。


しかし…水沢の車の座席、物凄く座り心地良かったな。揺れもほとんど無かったし。横に座っていた水沢がずっと俯いて、全く喋ってくれなかったのが気がかりだが。


「お、おかえり。冬夢」


和が玄関に現れる。


「どうだ? 上手くインスタントラーメン作れたか?」


「あ、ああ…」


どうしてか和は、俺から目をそらしボソッと小さな声でそう言った。


これはあやしい


そう感じた俺は、和にもう一度問いかける。


「本当に作れたのか?」


「ほ、本当だ…」


さらに声が小さくなる。耳を澄まさないと聞き取れない程だ。


ウソをついてるな


そう確信し、俺は最終兵器を登場させる。


「和、正直に言うんだ。もしウソだったら、しばらくは唐揚げなしだ、正直に言うなら今の内だぞ?」


「す、すまん、本当は作れていない」


やはり最終兵器の威力は絶大だ。和は半分泣きそうになりながらも、ウソを認めた。


「インスタントラーメンが作れないって…一体どういう事だよ」


頭を抱えつつ、俺はボヤく。


インスタントラーメンって…あのドジでマヌケな、の○太でも作れるんだぞ? あれが作れないなら、一体何が作れるっていうんだよ? と言うか、どうしたらインスタントラーメンを作るの失敗するんだよ?


「とりあえず、見て貰った方が早い。キッチンに来てくれ」



そう和に言われ、やって来たキッチンで俺が見たものは…



「…マジかよ」



真っ黒い何かが、底にへばりついている鍋だった。


「すまん…焦がしてしまった」


いや、焦がすって…ラーメンは汁モノですよ、和さん。どうやったら焦がす事ができるんだよ? まさに神業だよ、神業。


「これにはちゃんと理由があるのだ」


「理由?」


まあ、確かによっぽどの事がないとこんな事態にはならないだろうしな。


「お湯を沸かして、ラーメンをその中に入れる。ここまでは普通にできたのだ。しかし、テレビが邪魔をしてきたのだ!」


「は?」


テレビが邪魔? ついに和が電波を受信してしまったのか? それなら急いで電波塔を折らなければ…


…って何言ってんだ、俺。


でも訳がわからないのは事実である。


「どう言う事だ? テレビが邪魔した、って」


「実は…つけっ放しにしていたテレビでドキュメンタリー番組がやっていて…その内容が唐揚げ有名店の店長の特集でな…そっちの方に気を奪われてしまったのだ」


「つまり、火をつけっ放しでテレビに夢中になってしまった、と?」


「ああ…」


「それなら仕方が無い」


「本当かっ⁉」


「…と言うとでも思ったか!」


料理がただ壊滅的にヘタならまだ仕方が無い。だれにだって、得意・不得意はあるからな。ただ、テレビに気を奪われてたなら話は別だ。


どうやら本腰を入れて、唐揚げ中毒を治さなきゃならないみたいだ。だが俺だけじゃ、正直手に負えないから美都とかにも力を借りよう。


かわいそうだが、この辺で治療しないと、俺とこの家の命が危ない。


今はとりあえず…。


俺はうなだれている和にこう宣言した。


「今日から3日間は唐揚げ禁止だ!」


「そ、そんな…ウソだろ?」


絶望に打ちのめされている和を横目で見ながら、俺はどうすれば治療できるのかを考え始めた。




誤字脱字や矛盾点などありましたら、ご報告よろしくお願いします。



また、感想などもお待ちしております。

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