第12話 神様を怒らせると怖いんです
今回はいつもより少し長めです。
「えーっと…まずは何から買おうか? 何がいい、和?」
俺はポケットから買い物リストを取り出しながら和に聞く。
ちなみに俺と和は近くのショッピングモールに来ていた。
衣服・家具・食品など色々なモノが売っている買い物には持って来いの場所だ。また映画館やカラオケ、ゲーセン、フードコートなんかもあるのでよく遊ぶ場所として使っている。
「……エヘヘヘ…デート…」
和は俺の話など全く聞いてないようだった。
何か小さく呟やきながらにやけてるし…
「おーい、和、聞いてるか?」
「ふえっ?! …ああ、何だ? すまんが聞いてなかった」
「だから…何から買おうか?、って聞いてるんだよ。」
俺が話しかける→和は上の空で聞いてない→もう一度、同じ事を話す
さっきからこの繰り返しである。
無限ループはゲーム内だけで勘弁してもらいたい。
いや…できればゲーム内でも勘弁して欲しい。
無限ループが起きたときって物凄くイライラするよな。
この前、PCでゲーム(内容は想像に任せる)をしたときに無限ループバグが起きてしまい、怒りのあまり俺はマウスを全力で床に叩きつけそうになった。
だってHイベ…
げふんげふん
素晴らしいイベントが起きる直前だったのだ。あれは「人生で最も絶望したランキング」2位には入る。
え?1位は何かって?
そりゃ昨日、男子+美都に囲まれた事に決まってるじゃないか。
ああ…思い出しただけで背筋がゾクッとする。
って話が大きくずれたな。
「む~」
腕を組みながら考えている和をボーッと眺める。
和の服装はグレーのパーカーに白いシャツ。それにダメージ加工の施されたジーンズ。
とてもシンプルな服装だが、そのシンプルさが和の美しさを引き立てていた。
ホントに和キレイだな。こんな美人と買い物に行けるなんて…男子の皆様には悪いが、俺は幸せ者だ。
「ホントに和キレイだな。こんな美人と買い物に行けるなんて…男子の皆様には悪いが、俺は幸せ者だ」
「キレ、キレイ? び、美人?」
「…あ」
どうやら無意識の内に口に出してしまったようだ。
和は顔を真っ赤にさせてあたふたしている。
一昨日の晩ご飯の時も似たような事あったよな…。
和が求婚されたって言う話してた時に俺が確か…キレイだからあり得ない事もない、とかそんな感じの事を言ったんだっけな。そしたら和は今みたいに顔を真っ赤にして…。
どうやら和は褒められるのが苦手みたいだな。
恥じらう乙女…素晴らしいじゃないか!!
最近は平気で下ネタ言う女子が多いからな。あれには正直引く。
まあ恥じらいの素晴らしさを再認識させてくれた事には感謝しなくてはならないが。
ん??
いや待てよ??
確か…昨日和が転入してきて…その時に質問で「付き合って下さい」なんていきなり告白していたバカがいたが…和、全然照れて無かったよな??
それどころか再起不能になるまで叩きのめしてたし。
んー、やっぱり訳がわからないな。
そんな事はいつでも考えれるから、今はとりあえず和を落ち着かせないとな。このままだと話が進まない。
「おい、落ち着け和! 深呼吸だ、深呼吸!」
「な、何をい、言ってる?わた、私はおち、落ち着いてい、いるぞ?キ、キレイと、とか言われてと、取り乱してなんかな、ないぞ!」
「何言ってんだよ…ほら、とりあえず深呼吸しろ」
和は俺に促されるままに深呼吸を3回。
「よし、もう大丈夫だ。取り乱してすまない」
「…和の気持ちの切り替えの素早さには驚かされるよ」
これだけ素早く切り替えができるのに、何であんなに取り乱すのか??
謎は深まっていくばかりである。
「そうだな…まずは家具を買いに行くぞ! ついて来い!」
「ちょっと待てよ、和! お前、家具屋がどこにあるか知ってるのか?」
「適当にぶらつけばその内着く!」
「おい!そんな適当な…」
俺は先々行く和を追いかけた。
「とりあえず…これで必要なものは全部買い終わったな」
俺はチェックリストを確認しながら言う。
朝から買い物をしていたと言うのに気付けばもう昼過ぎになっていた。
「なぁ和、昼ご飯どこかで食べるか?」
「それなんだが冬夢、行きたいところがあるのだ。構わないか?」
「ああ。あまり遠い所じゃないならな」
俺がそう言うと和はパッと顔を輝かせ
「よし早く行くぞ!」
と早足で再び先々行き始めた。
「おい、待ってくれよ!」
そう言って和に着いて行こうとすると
「なあ、お前」
と後ろから肩を軽く叩かれた。
「はい?」
俺が振り返るとそこには、俺と身長がほとんど変わらない顔の整った女の子が立っていた。
髪の毛は綺麗な茶色に軽くパーマをあてていて、目はつり目で気の強そうな印象を受ける。
ここまではいいのだが…なぜだか神父の服を着ていた。そのため周りから注目の対象となっている。しかし彼女はそんな事は全く気にしてないようだった。
ただ俺の事をただひたすらに見つめ…いやにらんでいると言った方が正しいか。
あれ? 確か神父って…男じゃないとなれないんじゃなかったか?
じゃなんだ? ただのコスプレイヤーか?
まぁ、物凄く似合ってるから別に構わないけれども。
「なあお前、一ノ瀬 冬夢だよな?」
「え?」
「今日このショッピングモールに来るって言う情報が入ったんで来てみたんだが、全然見つからなくってよ…ったく…こっちは朝からずっと探し続けてるんだぜ。ようやく見つかった…ああ…楽だと思って引き受けたオレがバカだった…」
おーい、途中からただの愚痴になってるぞー。まあここは物凄く広いから、確かに大変だろうけど。
「ああ、そうだが」
「念の為に確認するけどよ、それホントだろな? ウソだったらぶん殴るぞ?」
おいおい…コスプレとは言え神父が殴るとか言ったらダメだろ…
「そんな事でウソついてどうする? それにお前も俺が一ノ瀬 冬夢だってわかってるだろ」
「まあ確かにそうだな…」
そう言って一旦言葉を切った後、神父服姿の女の子はとんでもない事を言い放った。
「500万円払え」
「は?」
「今この場で払うのは流石に無理だろ? んな事はわかってる。今度また来るから必ず用意しとけよ? 必ずだからな」
それだけ言い残すとその神父服姿の女の子は早々と去って行った。
「おい! どういう事だよ? おい、おい!」
大声で呼び止めようとしたが女の子はあっという間に見えなくなってしまった。
何だ? 何なんだ?
単なる嫌がらせにしては懲りすぎてるしな…
かと言ってそんな大金を払わなければならないような事をした覚えはないし…
ホントに何なんだ?
「おーい、冬夢! 何やってるんだ!」
そんな事を考えていると、その考えを遮るように和が大声で俺を呼んできた。
「あー悪い! 今、行くから待っててくれー!」
今の所は何も起きないから別にいいよな。
俺はそうやや強引に結論付けて和のいる方に走って向かった。
「あのー和さん?」
「ん? 何だ?」
「ここがその、和さんの行きたかったと言うお店ですか?」
俺と和がやってきた店はショッピングモールから徒歩数分と言う比較的近い所であった。
「ああそうだ。何か問題があったか?」
「問題と言うか…何と言うか…」
そう呟いて俺は店の看板を見る。
そこにはでかでかと黒いペンキで「唐揚げ天国」と書いてあった。
いや、和の行きたい店って言うから大体予想はしてたけれども。ちょっとこれは予想外でした、はい。
「唐揚げ天国」って…
もう少しマシな名前があるだろーに。
まあメインに取り扱ってるのが何かすぐわかるの点では良いのかもしれないが…。
「この唐揚げ天国さんは、知る人ぞ知る穴場店なのだ!! さあ入るぞ!!」
「あ、ああ…」
俺は和のテンションに若干押されつつ店の暖簾をくぐった。
「いらっしゃい!!!!」
店内に入るや否やおっさんの野太い大迫力の声が俺を出迎えてくれた。
そしてそのおっさんの格好がまた凄いの何のって。
唐揚げの絵が描かれたエプロンにスキンヘッドの頭には「唐揚げLOVE!!」と書かれた鉢巻が。それで筋肉質ときたもんだ。
おっさんの周りには当然異様なオーラが漂っていた。
ちなみに店には俺たち意外誰もいない。まあ普通はこんな店には入ろうとは思わないわな。
「お前ら、そこに座れ」
とおっさんにあごで指示される。
「おい、冬夢。あの方はできるぞ」
と和が席に移動しながら小声でささやいてきた。
いや…何がだよ?
確かに異様なオーラは漂ってるけど!
まあ…一般人の俺にはわからない何かが、唐揚げジャンキーの和に見えるのかもしれない。
「あの方は絶対に偉大なお方だぞ! 冬夢!」
…そういう事にしておこう。
席についた俺は注文をする為にメニューを探した。
「あれ、メニューないのか? だったら…」
俺は店内をぐるりと見渡した。
こういう個人がやってる店ってのは壁とかにメニューが書いてある事が多いからな。しかし…
「あれ? どこにも書いてないぞ? すいませーん、店員さーん。メニューってどこにあるんですか?」
なかったので仕方なく俺は、唐揚げのおっさんに聞いた。
「ああ? メニュー? んなもんあるわきゃねーだろ!!!」
「は、はあ…」
いや、そんな当たり前のように言われましてもね…普通はあるんですよ、普通は!
「ここのメニューは唐揚げセットしかねぇ!!」
「唐揚げセットだけ…ですか?」
いや、それでも全くメニューが書いてないってのもおかしいだろ。せめて「唐揚げセットのみ」くらいは書いておけよ。
「そうだ。それ2人前だな?」
そう言っておっさんは厨房に入って行った。
あの~こっちまだ何にも言ってないんですけど。選択肢はYESしかないんだけどな…和が来たいって言って来た店だし、何よりNOって言ったら殺されそうだからだ。
これ完全に脅迫ですよ…はい。
「おい、冬夢! お前は何て失礼な事をしたんだ!」
「え?」
何の前触れもなく和が怒ってきた。
俺、何かしたか?
「え?、ではない! 冬夢! ここの店は唐揚げセットしかない事くらい常識だろ!」
常識って…
一般人と唐揚げジャンキーの常識を一緒にするな!
いよいよこれは本格的に治療が必要かもしれないな…。
怒鳴っている和をよそにそんな事を考えていていると、おっさんが両手にトレーを持って厨房から出てきた。
「ほら食え!!」
半分叩きつけるようにトレーを置いて、おっさんは厨房に引っ込んでいった。
トレーの上に置かれていたのは、白ご飯に唐揚げに千切りキャベツという極々シンプルなものだった。
「じゃ、いただきまーす」
俺は早速唐揚げを一口食べる。
朝からぶっ通しで買い物だったので、物凄くお腹が減っていたのだ。
「お、これはマジでおいしい」
流石、唐揚げに全力を注いでいるだけあるな。これなら和も満足だろう。
「これはおいしいな、和。和?」
しかし和の反応は俺の予想とは大きく違った。
「ん~」
なぜかしかめっ面で考え込んでいた。
「どうしたんだ、和?」
「う~ん」
「な、和?」
「むぅ…」
「和様、いかがなさ―」
「そうか、わかったぞ!」
俺の言葉を遮り、和は勢い良く立ち上がった。
そして…
「おい! 店主!」
あろう事か厨房の中に入ってしまった。
「何だ、お前!!!! 勝手に聖地に踏み込んでくるんじゃねえ!!!」
当然おっさんは激怒。
残念ながら厨房の中は全く見えないのでおっさんの顔を見ることはできない。多分物凄い形相なんだろな…。くわばらくわばら。
しかし和は何で厨房に入ったんだ?
「おい! 貴様の唐揚げには愛情がこもっていない!!」
は?
いやいや…和さん…唐揚げLOVEなおっさんに何言ってるんですか。それにさっきおっさんの事をできるお方だ、とか言ってたよな?
「ふざけるな!!!!!!」
あー…おっさんキレちゃったよ…俺知らねーっと。
「ふざけているのはそっちの方だ!!!!! ああ…こんなやからを少しでもできる奴だと思った自分が恥ずかしい。まだまだ私も修行不足と言う事だな」
修行って何だよ!!唐揚げの修行とかあるのかよ!!
もう次元が違いすぎて訳がわからん。
「女でも俺を馬鹿にするこ―」
「黙れ! 確かに貴様の唐揚げは素晴らしい。素材も全ていい物を使っている。そして作り方も完璧だ。しかし愛情が全くこもっていない!! 愛情のこもってない唐揚げは本当の唐揚げとは言わない!! ちょっとそこに正座しろ!! 私が唐揚げという物を一から教えてやる!!!」
「いや、あの…」
「正座しろと言ったのがわからんのか!!!」
「は、はい…」
うわー和怖っ…おっさんの口調まで変化させちまったよ。
「唐揚げという物が誕生したのは―」
こうして和の説教(?)タイムが始まった。
「おい、冬夢! 起きろ!」
「へ…? ああ俺、寝てしまったのか」
唐揚げセットを食べてそれから…どうやらその後、俺は寝てしまったようだ。
「すまん冬夢。ついつい熱が入ってしまってな…」
「別にいいけど…うわ、もう5時かよ」
この店に入ってきたのが1時頃だったから…
和さん…あなた4時間近く説教してらしたんですか?
ここまでくると呆れを通り越して、感心してしまうな。
「そーいや、あのおっさんは?」
「店主ならさっき出て行ったぞ」
「出て行った?」
「ああ、心を入れ替えて一から唐揚げを学びなおす、と言ってさっき旅立って行った」
「おいおい…」
俺がそう言ってため息をつくと、和は何を勘違いしたのかどこからか鍵を取り出し
「大丈夫だ。鍵はちゃんと預かってある。それにお金は払わなくていいと言っていた」
と言った。
いや注目する点そこじゃないから。
あのおっさんを改心させる程の説教って…神様を怒らせると怖いな。
「そーいやさ、和」
ふと気になった事があり和に聞く。
「俺の唐揚げはうまいのか?」
「ああ、冬夢の唐揚げは世界一だな。一口食べただけで唐揚げへの愛情が、ひしひしと私に伝わってくる。あれをいつでも食べられる私は幸せだ。もちろん他の料理もおいしいぞ?」
「そ、そうか」
恥ずかしさのあまり俺は顔を少し背ける。世界一って…いくらなんでも褒め過ぎだって…。まあ悪い気はしないけど。
「じゃ、そろそろ出るか? 晩ご飯の買い物もしたいしな」
「わかった。で、冬夢よ。今日の晩ご飯は何だ? 私は―」
「唐揚げだろ? 今日はいつも以上に腕によりをかけて作ってやるよ」
「本当か?」
「ああ、もちろんだ」
「なら早く買い物に行くぞ、冬夢!」
「はいはい」
俺たちは晩ご飯の買い物をする為に、再びショッピングモールへと向かった。
ちょっと和で遊びすぎた気もしますが…後悔はしてません(苦笑)
誤字脱字や矛盾点などありましたら、ご報告よろしくお願いします。
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