第11話 この世で一番暖かいものは、人と人との「つながり」
今回書くの大変でした…
「あぁ~眠れない! 眠れない!」
私、音尾 和はベッドから起き上がり、時計を確認する。
「…もう夜中の3時を過ぎているではないか…」
こんな夜遅くまで起きているのは、生まれて初めての事である。なぜこんなにも寝れないのかと言うと…
そう、明日(正確に言うと今日だが)冬夢と2人きりで買い物に行くからだ。
それが今から楽しみで楽しみで仕方が無い。
「冬夢と2人きりで買い物…冬夢と2人きりで買い物…エヘヘヘ」
冬夢は朝から一日中出かける、と言っていた。と言う事はつまり、昼ご飯は外で食べると言う事で…
「上手い事いけば…あの…伝説のあ~んイベントを発生させられるのではないか?」
『な、なあ冬夢。その…そっちの唐揚げを食べてみたいのだが…』
『唐揚げ? 和も同じ唐揚げ食べてるだろ?』
『馬鹿者! 唐揚げは一つ一つ全く味が違うのだ! 揚げてからの時間や揚げている人によって―』
『なるほど! 和の唐揚げに対する熱い思いはよーくわかった! ほら、俺の1個やるよ』
『その…何だ…た、食べさせてくれないか?』
『はぁ…和…お前、唐揚げがどうたらこうたら言ってたが…それ、俺に食べさせて貰う為の口実だったんだな?』
『なっ!! ちっ、違うぞ!! 何を急に訳のわからない事を言い出すんだ!!』
『そんな顔を真っ赤にしながら言っても説得力ゼロだから。ほら、和。あ~ん』
「あ~ん………って……私は何て恥ずかしい事を考えているのだ!!」
あまりの恥ずかしさに、私は頭から布団をかぶった。顔が真っ赤であることが自分でもわかる。
「…冬夢の鈍さには困っているが…鋭くなるのはもっと困るな……刺激が強すぎて、私の心臓が持たない。その点では冬夢の鈍さには感謝しないといけないのかもしれないな」
冬夢の鈍さに思わぬ利点を見つけた私であった。
ありがとう、冬夢。お前が鈍いおかげで、私は普通に生活を送る事ができている。
そしてこのまま、ずっと鈍いままで……
「いや…この先ずっと鈍いままも嫌だな…あ~…一体どうすればいいのだ!!」
冬夢が鈍いと私のアピール(と言っても遠回しのモノばかりなのだが…)に気付かないし…逆に冬夢が鋭いと私が恥ずかしさのあまり普通の生活を送る事ができなくなる訳で…
「あぁ~…どうすればいいのだ!!」
悩み続けて数時間が経過し…
解決策が見いだせず悩む事を放棄し、明日の昼ご飯の時の為に、とケータイでおいしい唐揚げのある店が近くにないか探していたとき、私はある重大な事に気付いた。
「そうだ! 明日着る服を選ばなければ!」
私はケータイを放り出して飛び起きた。
時刻は既に5時を過ぎていたが、そんな事を気にしている場合ではない。何せ明日は、2人きりの(私からしてみれば)初デートなのだ。
着る服の選択を失敗すると言う最悪の間違いは死んでも犯したくはない。
「む~」
…どうすればいいのだろうか。
男と2人きりで買い物に行ったのは、私に求婚してきたリグレットと仕方なく行った時の1度だけである。
当然この時は、身なりに気を使っている訳も無く…。
確か長袖Tシャツにジーパンと言う服装だったはずだ。
「そんな服装で行くわけにもいかないしな…」
かと言ってクローゼットの中にある物は…
「Tシャツやジーパンばかり…あぁ…こうなる事が前々からわかっていたならば…」
しかし昔の自分を恨んでみても後の祭り。
「やはり、この中で選ぶしかないのか…少しでもマシな組み合わせを探さねばな」
とあれこれ服を組み合わせてみる事、これまた数時間。
「よし…これでいいだろう」
ついに納得のいく服装になった。
グレーのパーカーに白色のシャツ。それにダメージ加工の施されたジーンズ。
シンプルだがこれが自分に一番似合っているように思えた。
「友達も和にはシンプルな服装が良く似合う、と言っていたしな。これなら冬夢も…」
『ど、どうだ、冬夢? この服…似合うだろうか?』
『……』
『と、冬夢?』
『ああ、悪い。あまりにもかわいすぎて見惚れてしまった』
『かっ、かわいい? 見惚れる程に? そ、それは本当か?』
『もちろんだ。こんなかわいい和とデートにいける俺は幸せ者だ』
『デ、デートだと?!』
『そうだ。好きな女の子と2人で出かける事がデートじゃなかったら何がデートなんだ?』
『す、す、す、す、好き? だ、だ、誰が誰を?』
『そこまで言わせるか? そりゃ俺が和を、に決まってるだろ』
「そ、そ、そうか。実はわっ、私も…その…と、冬夢の事が………………す」
「おーい、和。7時だ、起き―」
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! と、とっ、と、とう、冬夢???」
完全に自分の世界に入っていた所にドア越しではあるが、急に冬夢に声をかけられ私は完全に混乱してしまう。
いくらなんでもタイミングが悪すぎる。相手が冬夢じゃなければ、わざとじゃないかと疑うレベルである。
「何だ、もう起きてるのか? 部屋入るぞ」
驚いたようにそう言って冬夢がドアを開けようとする。
「ち、ちょっと待っ、待ってくれ!」
この状況を見られるのは色々まずい。
そう判断した私は急いでドアを押さえようとした。
しかし……
「うわぁぁぁっ!!!!!」
床に脱ぎ散らかした服に足を滑らせ、私は派手に転んでしまった。
「どうした? 派手な音がしたぞ! って大丈夫か、和?」
冬夢が慌てて入って来る。
「あ、ああ、ちょっと擦りむいただけだ。この位、私の力ですぐ治せる」
私がそう言うと冬夢はホッと胸を撫で下ろし
「もう…脅かすなよ」
と苦笑しながら言った。
「すまん…」
「それにしても、何でこんなに服が散らかってるんだ? 和も既に着替えてるし…」
「え、えーっとだな…それは…その…」
正直に冬夢にかわいいと言って貰う為にコーディネートを考えていたと言えるはずも無く、なんと言おうか迷っていると、冬夢が
「楽しみだったのか?」
と聞いてきた。
「…ああ」
私が頷くと冬夢は嬉しそうに笑った。
「実はな…俺も楽しみなんだ」
「え?」
予想外の言葉が冬夢の口から出てきて私は思わず聞き返した。
すると冬夢は照れくさそうに頭をかきながら
「いや…家族と一緒に買い物に行くのがあまりにも久々だからな」
と言った。
「家族?」
「あ、悪い。俺…和を家族の一員だと思ってたんだが迷惑だったか?」
冬夢の口から「家族」と言う言葉を聞いた途端、私は自分でも驚く位に落ち着いた。さっきまでの慌てようが嘘のようである。
「いや、そんな事はない。私は冬夢の家族だ」
"家族"
私の望む関係とは残念ながら違う。
しかし何なのだろうこの胸を包む暖かさは。安心、嬉しい、満足などなど色々な感情があるがどれにも当てはまらない。
これが「絆」なんだろうか?
照れくさそうに笑っている冬夢を見ながら、私はそんな事を思った。
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