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第10話 食事をする人数が多ければ多い程、楽しくなると言うわけでは必ずしもない

いきなりだが、俺は食事と言うのは楽しむべきだと思っている。


ただ出されたモノを口に運び、噛み、そして飲み込む。それだけじゃホントに「食べた」とはいわない。


五感をフル動員するのは当然で、もし他の人がいるのなら、料理の感想を言いあったり取り止めのない会話をしたりする。


このように楽しむ事で、初めて「食べた」と言えるんじゃないか?


だから正直な所、和と一緒に住むとなった時、俺は嬉しかった。なんせ中学の時から、家ではずっと1人で食事してたからだ。



まあ1人でじっくりと食べるのも、色々な発見があって楽しかったが。それでもやっぱり他の人と一緒に食べる楽しさには敵わない訳で…



今晩、美都がご飯を食べに来る事になり、それならもっと呼んでもっと楽しい食事にしようと思ったのだが…





「じゃ、料理できたから今から運ぶよ」


「せんぱーい、ボクもうお腹ペコペコですよ」


「一ノ瀬君がどんな料理を作ってくれたのか楽しみです」


「当然、唐揚げはあるだろうな?」


「はぁ…」


どうしてか、美都のテンションは低かった。



「ん? どうしたんだ、美都? 何か元気がないみたいだが…」



気になって俺は美都に聞く。




「ねえ…冬夢、薄々答えはわかってるけど聞かせて貰うわね。どうして水沢さんと中溝さんがここにいるのかしら?」


俺の質問を完全にスルーして、逆に美都が聞いてきた。



口調はとても穏やかで、笑顔なのだが…

…どうしてだろう…目は全然笑ってないし、有無を言わさないような威圧感が言葉にこもっている。



「い、いや…だって…大人数で食べた方が楽しいかなぁ…と思いましてですね…」



威圧感に圧され、詰まりながらも俺は何とか答える。

幼馴染相手に敬語口調になってる所は…まあ、察してくれ。



「はあああああ~」


美都は盛大にため息をついた。

おい、美都。ため息つくと幸せ逃て行くぞー。



前までは、こんな迷信あるわけない、とか言って信じなかった。しかし今は神様がいると判明してるわけで…もしかしたらため息ついたら幸せをリアルに神様か何かに奪われるんじゃないかと考えてる。



…やっぱり考えすぎか。

和いわく、神様がみんな特殊能力ありって訳ではないらしいし…。





「覚悟は決めてたけど…この鈍さには毎回毎回呆れさせられるわね」


「ホント、ボクも苦労させられてますよ…」


「でも、鈍いからこそ起きるイイ事もあるぞ?」


「確かにそれは言えます。要は私たちの接し方次第で、いいようにも悪いようにもなるって事ですね」



俺が変な事を考えている間に、4人は楽しそうに笑いながら話していた。



内容はイマイチ理解できないが…。美都が機嫌を直しているのでよしとしよう。



「ほら。簡単なモノしか作れなかったが、その辺は許してくれ」



そう言って、テーブルに出したのは鍋に入ったカレー。


やっぱり大人数で食べるなら、これしかないよな。カレーが嫌いって言う人はまずいないし、食べる量を自分で調節できる。辛さを誰かに合わさないといけないのが、唯一の欠点と言えば欠点だ。



ちなみに今回は、女の子がいると言う事で甘口にしてある。


俺は辛口が好きなのだが…ここは女の子に合わせないとな。



「ご飯は自分でついでくれ。ルーは俺がつぐから。後、福神漬けも各自で頼む」


「それはわかったが…冬夢よ、唐揚げはないのか?」



俺にご飯の入った皿を手渡しながら、和が聞いてくる。


「いや、流石に2日連続で唐揚げは…と思ってな」


「…そうか……ああ、唐揚げカレー食べたかった……」



そう言って和はガックリと肩を落とす。



なあ、和よ…

…お前、どんだけ唐揚げ好きなんだよ…



今日の弁当にも入れてやっただろ?しかも、実は弁当の中に入れた唐揚げの数、和の方が俺のより1コ多いんだぞ?



それでも貴女はまだ唐揚げが食べたいと?


もう完璧に中毒だな、これ。早急に治療する必要があるぞ。


しばらく唐揚げはお預…


ん?チョット待て。

考えるんだ俺。



唐揚げジャンキー和から唐揚げを取り上げたとしよう。当然、和は唐揚げを手に入れようとするだろう。

ここまではいい。


問題はどうやって唐揚げを手に入れるか、だ。入手方法は大きく分けて2つあるだろう。



①どこかスーパーなどで唐揚げを購入する


②自分で唐揚げを作る



①は全然OKである。


買ってくる量が常識範囲内であれば、の話だが。市販の唐揚げって意外と高いからな…。



そして②の自分で作る。



そう…これが大問題なのだ。



和が料理を作る。

これはキッチン、最悪の場合は家が消失する事を意味する。



お粥作るだけで土鍋1つが犠牲となるのだ油を使う唐揚げを和が作ったら…


…確実に只事では済まなくなる。


料理がヘタな女の子って萌える、などとバカげた事を言っているヤツらは和が料理している横に立ってみろ。料理下手がどれだけ危険で恐ろしい存在かが、よくわかると思う。




俺は和が唐揚げを作ると言うDEAD END直行のイベントを避ける為に、和に言う。




「和、今日はカレーでガマンしてくれ! 明日絶対に唐揚げ作ってやるからな?」


「おお! 明日、唐揚げ作ってくれるのか? 絶対だぞ!」




和は嬉しそうに頷きながら、席に座った。



よし! 任務完了だ!

これで俺の家が消失すると言う事態は未然に防がれた。バンザイ!


しかし、この調子でいくと…気付けば3食全部唐揚げと言う事態になりかねない。唐揚げは飽きにくい、と前にテレビでやっていたが…うん。

3食全部唐揚げって…もうそんなレベルじゃないよな…。



「一体どうしたものかなぁ…」


「どうしたんですか? 一ノ瀬君。私でよければ相談にのりますよ?」



ご飯の入った皿を持った水沢が聞いてくる。


どうやら俺の独り言が聞こえてしまったようだ。



「いや、大丈夫。他人に相談する程、深刻な問題じゃないから」



唐揚げ中毒をどうやって治療するか…なんてアホらしい事、いくら部活仲間とは言え相談できない。

ヘタすれば「家消失END」か「3食全部唐揚げEND」になる、リアルに深刻な問題なのだけども…




「本当に大丈夫ですか? 私、相談にのりー」


「せんぱーい、まだですかー? ボク、もうホントにお腹ペコペコなんですよー」


「ねぇー冬夢、いつまで待たせるのよ?」



水沢の声を遮って、中溝と美都が聞いてきた。



「あ、すいません」


「おお、悪かった悪かった」



まあ…何とかなるんじゃないか?

俺は解決策を考えるのを諦め、3人の皿にカレーを入れた。









「じゃ、いただきます」


「「「「いただきまーす」」」」



久々に大人数で囲む食卓。

いやはや、嬉しいね。




発言がおっさんくさい?


ほっとけ‼




「こ、これは…」


和が大きく目を見開いてカレーを凝視していた。



「何か変なモノ入ってたか?」



「いや、違う。ウマすぎて驚いていたのだ。最高だぞ、このカレー」


「そ、そうか。そんなにウマいか? 俺の作ったカレーは?」


「はい! ボク、こんなにおいしいカレー食べたの初めてです!」


「とてもおいしいです。これ…ルーも手作りですよね?」


「流石、料理部部長だな。甘口のルーを作るのは初めてだから…上手くいくか不安だったんだが…」


俺がそう言うと美都は呆れたように、こう言った。


「ルーも手作りなの? 冬夢、あんたって凄いのね~。後で私にも作り方教えてくれるかしら?」


「作り方は企業秘密。ルーをあげる事ならできるどな」


ちなみに、このルーを完成させるのに3年の月日を費やした。




え?この暇人が!、って?



うるせー! それだけ俺の料理に対しての愛情は…


って…何、恥ずかしい事言ってんだよ…俺。




「ホント? くれるの?」


「ああ。作り過ぎたからな。帰りに渡すよ」


「あ、ボクも! ボクも欲しいです!」


「私も欲しいのですが…」


「冬夢、私も欲しい!」


「ああ、全然OKだ。和以外は、な。和には

キッチンに立たせないと心に決めているから、料理材料は絶対に渡さない」


「ヒドい! ヒドいぞ、冬夢!」


「ヒドいのは和の方だ!お粥を作ろうとして土鍋をー」


「バ、バカ! それをみんなの前で言うな!」


俺の声を遮るように、和が大声で怒鳴ってくる。

やっぱり恥ずかしいのだろう。顔は真っ赤だった。



「一ノ瀬先輩。その話詳しく教えて下さい!」



「わかった。実はなー」


「と、う、む‼‼‼」


「ちょ、ちょっと音尾さん! 冬夢にフォークを投げようとしないの!」


「あらあら~」


「水沢さん! 笑ってないで音尾さんを宥めるの手伝って!」











やっぱり食事は大人数の方が楽しい。


俺はそう思う。









誤字脱字や矛盾点などありましたら、ご報告よろしくお願いします。



また、感想などもお待ちしております。

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