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発生確率0%のはずなのに婚約破棄が発生しました! ~婚約破棄管理局は今日もブラックです!?~

作者: 森月雪火
掲載日:2026/09/07

 私の朝は夜明け前から始まる。

 まだ窓の外が暗いうちに起きて身支度をする。

 私付きのメイドのトーラはもう慣れたことだろう。

 トーラに職場で食べる朝食を持たせてもらい馬車へ乗る。

 貴族の令嬢が働くなどはしたない等と言われていたりもするが、私が働くことにしたのは、国家資格を持っていれば万が一という場合に、一人でも暮らしていけると家庭教師に言われたからだ。


 私に万が一ということが起こるということなのか不安になったが、貴族の女性といえども稼ぐ手段を持っていた方がいいという珍しい考えの家庭教師だった。


 そんな昔のことを思い出していると馬車は王宮の奥にある塔へ到着した。


 ようやく空がうっすらと明るくなってきた。月と星がまだ煌めくなか、太陽のわずかな光がそれよりも煌めこうとする時間。


 塔へ入り自分の執務室へむかう。

 机には昨日遅くまで調べた資料が置かれている。


 私は朝からため息をつく。気分は憂鬱だ。今日だからじゃない、毎日憂鬱なのだ。


 知り合いには私の職業は教えていない。

 資格取得後に言わない方が賢明だと教えられたのだ。働いている今なら至極納得ができる。


 私は時間が来るまで、書類を確認し情報を精査し新たな情報が入ってこないか確認をする。塔の中は既に声や足音で騒がしい。


 定刻の10分前に、私は大水晶に向かって椅子に座り呼吸を整える。


 ♢♢♢


 定刻になったので私は慎重に大水晶を起動させて話し始める。


「おはようございます。本日の王都の婚約破棄予報です。


 王都全体の婚約破棄確率は40%。昨日より15ポイント高くなっています。特に王宮周辺では夕刻から婚約破棄が集中する見込みです。夜会へお出かけのご令嬢は、証拠書類と弁護士をお忘れなく。


 続いて婚約破棄警報です。ヴァルグレン侯爵家ご令嬢、婚約破棄確率90%。国外追放を伴う恐れがあります。十分にご注意ください。

 続きまして、アルヴァルド伯爵家ご令息。本日の婚約申し込み成功確率は0%です。なお、お相手にはすでに別の男性との婚約成立注意報が発表されています。深追いされますと断罪の指数が上昇しますのでご注意ください。


 以上、本日の婚約破棄予報でした。

 婚約破棄の多い一日となります。皆様、契約書をよくご確認のうえ、本日もよい一日をお過ごしください」


【ヴァルグレン侯爵家】


「…………まあ、私のことですわね」

「イルヴァ今日は外出をやめておきなさい」

「いや、90%ならもう弁護士を呼べ!あのクソガキが潰してやろうか」

「あなた、お口が悪いですわよ」


【アルヴァルド伯爵家】


「まだ申し込む相手もいないんだが!?」

「ハルダンあなた婚約を申し込む女性がいたの?」

「どこのご令嬢にうつつを抜かしていたんだ?」

「だから、いないんだって!」


 ♢♢♢


 私は大水晶の起動を終了させて、吸い込んだ息よりも大きく息を吐く。


 声をかなり高めに明るく話していることも疲れる原因の一つだ。


 そして何より苦情がすごい。

 もちろん同じくらい感謝もされるのだが。


 そして、ここからが本当の仕事の始まりとなる。明日の予報のために勢力図を確認する。それは他の婚約破棄予報士の方々と一緒に行う。


 その前に私はトーラの持たせてくれた朝食のパンと果物を食べた。そして冷めた紅茶を飲んで一息ついた。


 ♢♢♢


 会議室にはちらほら他の国家婚約破棄予報士が集まってきていた。


 主席国家婚約破棄予報士のヘルヴィク卿が話し始める。


「昨日だが、予報確率0%の婚約破棄が3件、ざまぁが1件との報告があった。手元の勢力図を見ていただきたい。それら4件は6ヶ月前に復縁指数が高かったのを記憶しているだろうか」


「ええ、覚えております。その4件全てとは少し妙ではありませんか?」


「確率が出ていなかったことが問題ですよね」


 ヘルヴィク卿は続ける。


「あと3ヶ月もしたら王立アカデミーの卒業式だ。勢力図は毎年のことながらかなり変動するが、今回は王太子殿下が最終学年であり、ご卒業される。何が起こるか分からないので各自調査と報告を密に共有するように」


 ヘルヴィク卿が会議室から出たあと、上級国家婚約破棄予報士のハルグレン卿が勢力図と調査資料を見ながら楽しそうに言った。


「これは何周期かで起こる王立アカデミー集中大規模婚約破棄警報及び、国外追放警報及び、ざまぁ警報の緊急事態宣言発動なんじゃないですかね?」


 会議室にいた全員の目が傷んだ葡萄のようになった。


「先に婚約破棄安全確保管理室に連絡入れないといけませんね」


 婚約破棄が起こる警報が出ている場所へは婚約破棄安全確保管理室から国家婚約破棄安全確保管理官が赴き、婚約破棄に備え待機している。その一部始終の記録と婚約破棄においての安全確保やスムーズな進行をサポートする。

 また、婚約破棄予報確率が低い段階で介入し、出来るだけ確率を下げるために動くが、場合によってはそのままの状態にしておくこともある。言わば実働部隊だ。


 今日であればヴァルグレン侯爵家のご令嬢の外出先へ向かうことだろう。


 そのため、国家婚約破棄安全確保管理官は我々国家婚約破棄予報士よりは人数は多いものの、いつも人手不足に悩まされている。


「最近の傾向として、徐々に確率が上昇するのではなく急激に跳ね上がるな」


「過去にそういった事例がないか調べます」


 私は会議室を出て資料室へ行き過去の資料の分析をはじめた。


 家に帰る頃にはすっかり疲れてしまって、迎えの馬車に乗るとすぐに眠ってしまった。


 自宅に着くと馭者が起こしてくれた。


 私は礼を言って自室へ戻ると、トーラがお風呂と夕飯の準備を整えてくれていた。


 バスタブに浸かりながらしみじみと幸せを噛みしめた。


 夕食も終えて届いていた手紙へ返事を書きトーラに渡す。


 明日の朝も早い。私はベッドに潜り込んだ。


 ♢♢♢


「おはようございます。本日の王都の婚約破棄予報です。


 王都全体の婚約破棄確率は40%。昨日とおなじ水準となっております--」


「早期注意情報です。今後、大規模婚約破棄警報、大規模ざまぁ警報、大規模国外追放警報が出される可能性があります。


 特に王宮及び王立アカデミー周辺のご令嬢は、証拠書類と弁護士及び護衛騎士の手配を早めに準備し警報に備えてください」


 放送が終わると、私は紅茶を飲み朝食を見て食べるのを止めた。そして資料を持って会議室へ向かう。

 早期注意情報を出したことで今朝の会議は婚約破棄安全確保管理室と合同だ。


「皆さんおはようございます。早速ですが昨日通達した通り、大規模婚約破棄警報及び、それに付随する警報についてです。現在確認されているのは王立アカデミー付近での指数の僅かな上昇ですが、まずは王太子殿下の卒業ということで警戒をしておきたい。そして警報が出ていない突発的な婚約破棄とざまぁの関連について、ハルヴェイン卿から」


「はい。おはようございます国家婚約破棄予報士のハルヴェインです。このような事案が過去にあったかを分析しました」


 冷や汗が流れて口の中が乾いていく。


「ハルヴェイン卿、顔色が悪いが大丈夫か?」


「申し訳ございません。大丈夫です。分析の結果、約100年前に起こった災厄と同じ現象となります」


 会議室がざわつきはじめた。


「ハルヴェイン卿、それは聖女が現れると言っているのか」


「データは一致しております」


「ハルヴェイン卿、分析の結果は?」


「約3か月後かと」


「これは、聖女を王太子に近づけないこと、また、高位貴族のご令息に近づかせないことが最優先であるな」


「至急、陛下へお知らせをしなければ。そして高位貴族へも注意喚起が必要だ。ハルヴェイン卿これから緊急放送を行うように」


「ヘルヴィク卿、私は緊急放送などやったことがありません」


「原稿は私が書こう。神殿にも至急報告を」


 皆が慌ただしく動く中、私は大水晶の前に座り原稿を見つめた


「緊急放送。緊急放送。


 逆ハーレム特別警報が発表されました。繰り返します。逆ハーレム特別警報が発表されました。


 周囲の状況を確認し、ご婦人、ご令嬢は適切な行動をとってください。男性の皆様はハザードマップ順に速やかに神殿へ向かい高位神官による祝福を受けた後、魅了防御のハンカチをいただいて下さい」


 明日は前々からお願いしていた休暇だったが、こんな事態なので出勤すると言ったが、休みを取るように言われてしまった。


 調査の共有を全体でしたあと、来る災厄に備えて今日は早く帰る事となった。

 実際体力勝負なところは否めない。


 自宅に夕飯前に帰ると父も母も兄もとても喜んでくれた。

 久しぶりに家族全員で食事が出来ると。


「フレイディス仕事はどうなんだい?大変なんじゃないのかい?」

「そうよフレイディス、毎日、朝は早いし夜は遅いしお母様心配だわ」

「そうだぞフレイディス、きちんと食事してるのか?」


 みんなとっても温かくていつものままで嬉しくなってしまう。


「はい。仕事はとてもやりがいがあります。責任は重大ですが、とても勉強になっています」


「そうか、よかった。辛くなったらいつでも言いなさい。いつでもフレイディスの力になるよ」


「あの、お父様もお兄様も神殿へは行かれましたの?」


「ああ、今日の緊急放送のことかい?私とヴァルテマルは明日行ってくるよ。そんなに心配することはない。きちんと祝福を受け魅了防御のハンカチをいただいてこよう」


「ねえ、王都を離れてバカンスに行くのもいいわね」


「バカンス……」


「なんだフレイディス、バカンスに行きたいのか?」


「あ、素敵だなと思いまして」


「それなら予定を立てようじゃないか」


「でも、お父様。私は仕事を休めないと思います」


「そこはお父様に、ああいや私に任せなさい」


 翌日、婚約者のケティルが私を迎えに来た。


「お嬢様、ケティル様がお見えになりました。応接室でお待ちです」


 私は支度を整え応接室に向かった。久しぶりに会う婚約者のケティルは優しく微笑みかけてくれた。


 二人で話題の劇を見に行くと、それは悪役令嬢が聖女を苛めるが、聖女は慈愛に満ち溢れ聖女の力で民を救い最後には悪役令嬢は処刑されるというものだった。


「フレイディス、顔色が悪いよ。具合が悪いんじゃない? 馬車のなかで少し横になるといい」


 そうケティルは言ってくれた。

 あんな劇が話題だなんて、緊急放送の事は大丈夫なのだろうか。


 ケティルは膝枕をしてくれ、私は横になって少し気分が楽になってきた。


「ケティルは神殿へは行かれましたの?祝福は受けられましたか?ハンカチはいただきましたか?」


「いや、神殿へは行っていないんだ。逆ハーレム特別警報は深刻だが、私はこんなにフレイディスのことを愛しているから大丈夫だろう」


「何をおっしゃっているんですか!今すぐ神殿へ行きましょう」


「それよりも久しぶりに会えた婚約者とデートを楽しみたいね」


「一緒に神殿に行けばよろしいじゃありませんか!私を安心させてくださいませ!」


 ケティルは乗り気ではなかったが無理矢理神殿へ向かった。あろうことか神殿は長蛇の列が出来ていた。ハザードマップは?


「これじゃ日が暮れても中へは入れないね」


「どうしましょう。明日、早朝にお願いですから神殿に行くと約束してください」


「ああ、フレイディスわかったよ」


 私たちはその後、レストランで食事をして自宅に送り届けてもらった。


「ケティル約束ですわよ」

「わかったよフレイディス」


 翌日からいつもよりも忙しい毎日が始まった。


 婚約破棄管理局に問い合わせが殺到しているのも忙しい要因だった。


 直接来る人たち、手紙で問い合わせをして来る人たち、水晶で連絡をしてくる人たちと様々だったが問い合わせ内容は一様に同じだ。


「うちは大丈夫なんでしょうか」


 守衛が個人的なことにはお答え出来かねますと、問い合わせに来た人たちを追い返している。


 手紙は回答不可のスタンプ一つだけを押して送り返す。


 水晶は自動応答にして全て個人的な対応はお断りしていますと流している。


 朝は放送、その後は調査と分析、そして明日の予報を精査する。

 それが今回は大規模婚約破棄警報から逆ハーレム特別警報まで出ているので調査範囲が広くなっている。


 神殿からも神官が二人、毎日会議と仕事に参加するようになった。


「ハルグレン卿、この七件の資料を確認していただけますか」 「スカルフェル卿、復縁指数の再計算をお願いします」


 そんな言葉ばかりが飛び交っていた。


 ♢♢♢


 1ヶ月経った頃、スカルフェル卿が会議室に飛び込んできた。


「アスカルド男爵家の周辺で婚約破棄指数が軒並み上昇している」


 それを受けてすぐに国家婚約破棄安全確保管理官と神官が動いた。


 聖女がそこにいるかもしれない。


 聖女は男爵家のご令嬢なのか、あるいは男爵家の領地の人間なのか。


 ヘルヴィク卿が深刻な面持ちで私に話しかけてきた。


「ラグンフェル家のご令息はハルヴェイン卿の婚約者だったな?」


 私はその表情から自分の婚約者の名前が出たことで一瞬で悟ってしまった。


「はい。そうです」

「婚約破棄指数が上昇している。このまま上昇すれば君の婚約破棄警報を出すことになるが、今は国家婚約破棄安全確保管理官が向かって状況確認をしている」

「わかりました。ありがとうございます」

「今日はもういいから早く帰りなさい」

「はい」


 ケティルは神殿に行っていなかったのだろうか? それとも行っても指数が上昇したということなのだろうか。


 自宅に帰ると母はテーブル一面を手紙で埋め尽くしていた。


「あら、フレイディス。早かったのね嬉しいわ」

「はい」

「まあ、元気がないのね。お腹がすいたのかしら」

「そうかもしれません」

「すぐに食事の準備をしてもらいましょう」


 まだ発表になっていないことを相談するわけにはいかない。

 部屋に戻りケティルに手紙を書こうとしてペンを取ったものの、何て書いていいのか分からずにインクだけが滲んでしまった。


 ♢♢♢


 食事の席でお母様は終始ご機嫌だった。


「フレイディス、お楽しみは後で教えてあげるわね」


 楽しそうなお母様を見ていると少しだけ気分が楽になって笑みがこぼれていた。


 ♢♢♢


「おはようございます。本日の王都の婚約破棄予報です。


 本日の王都は婚約破棄前線が活発化しており、終日婚約破棄確率は高い見込みです。また前線に影響され、ざまぁ確率も高くなるでしょう。


 続いて警報です。ノルデン家ご令嬢、婚約破棄確率80% やってもいない断罪確率80% ともに高いでしょう。お出かけの際は護衛騎士、弁護士、必要書類をお忘れなく」


 朝の放送を終えると私は紅茶を飲んで会議室にむかった。


 特別国家婚約破棄安全確保管理官のリンヴァル卿が話しかけてきた。


「ハルヴェイン卿、おはよう」

「リンヴァル卿、おはようございます」


 リンヴァル卿は急に顔を近づけ小声で話し始めた。


「昨日君の婚約者のラグンフェル家のご令息のところに現場確認に行ってきたんだが、もちろん神官も連れていってね」

「えっ?」

「その時に、ご令息は神官から祝福を受けハンカチもいただいていた。指数の低下も確認済みだ」

「リンヴァル卿!ありがとうございます!」


 リンヴァル卿は手をヒラヒラさせ離れていった。


 主任国家婚約破棄予報士のスカルフェル卿が皆を集めた。


「悪いが緊急で会議を行う。まずは異常値を示していたアスカルド男爵家だが、向かった国家婚約破棄安全確保管理官と神官との連絡が取れなくなった。

 二人のざまぁ指数が上昇している。独身で婚約者がいないからだろう。

 婚約破棄管理局の者は警戒及び臨戦態勢に入るように。異常値がどこまで影響を及ぼすかまだ算定出来ていないが、来月の王立アカデミーの卒業式を踏まえ逆ハーレム緊急事態宣言を発令することになった」


「ハルヴェイン卿。すぐに放送を」

「はい」


 原稿を手渡され大水晶の前へ急いだ。


「緊急放送。緊急放送。


 逆ハーレム緊急事態宣言発令。逆ハーレム緊急事態宣言発令。


 王国民は王都、王立アカデミー、アスカルド男爵領を除く地域へ避難して下さい。


 繰り返します。逆ハーレム緊急事態宣言発令。王国民は王都、王立アカデミー、アスカルド男爵領を除く地域へ避難して下さい」


 放送を終えると私は急ぎ会議室へ戻り質問をした。


「逆ハーレム緊急事態宣言の放送をしてきました。しかし特定される3ヶ所まで放送してよろしかったのでしょうか? 聖女が他の場所に現れてしまったらどうなるのでしょうか」


「聖女はどこに高位貴族のご令息がいるか分からなく、まずは王立アカデミーに来るだろうと予測を立てている。その後は神殿だろう」


「私からも質問をよろしいでしょうか。警戒及び臨戦態勢とは具体的にどのようにすればよろしいでしょうか」


「ハルヴェイン家からの手紙に必ずはいと返信し、その内容に従うように」


 (え!? うちからの手紙!?)


「これは陛下も了承された。そういうわけで、国家婚約破棄安全確保管理官と国家婚約破棄予報士は携帯水晶を持ち帰宅するように。そしてハルヴェイン家の手紙の通りに行動するように。その間は出勤とみなす」


「あの、放送はどうするのでしょうか?」


「逆ハーレム緊急事態宣言が解除されるまで定刻に自動音声を流す。では解散」


 よく分からないまま携帯水晶を持ち自宅へ戻った。


「お帰りなさいフレイディス!待ってたのよ!さあさあ、あなたも早く支度して」

「お母様一体何の支度ですか? 逆ハーレム緊急事態宣言が発令されたのですよ」

「そうよ。だから王都にはいられないでしょ」


 お母様はご機嫌で支度をしている。お父様もお兄様もだ。


 私たちは途中で宿泊をしながら2日間かけて馬車に揺られ南にある領地に着いた。


『ハルヴェイン公爵領リョースヴィークにようこそ』


 南に位置するハルヴェイン家の領地は王国随一の高級南国リゾート地だ。


 まさか。


「お母様、あの大量のお手紙は……」

「知り合いを沢山招待したのよ。ホテルは大きいし、いくつもあるじゃない」

「そうですがさすがに」

「さすがに?」

「やりすぎでは?」

「もうフレイディスは本当にお堅いんだから。あら、ほらほら陛下と王妃もいらっしゃったわ!グズルーンちゃーんお久しぶり!お兄様もお久しぶり!」


 そうだった。お母様はこういう人だった。


 王都の目ぼしい貴族のほとんどがハルヴェイン公爵家の領地へ来ていた。

 私の婚約者のケティルもラグンフェル侯爵家のご家族と一緒にもちろんいらっしゃった。


 ケティルは私を見つけると駆け寄ってきた。

 「フレイディス、会えて嬉しいよ。フレイディス?」

 「ケティル、どうして約束を守らなかったのですか? 私はとてもショックで悲しいです」

 「フレイディス、すまない。説明させてくれ」


 ケティルの説明はこうだった。アスカルド男爵家との取引が滞っていたのと警報を聞いて何かあると思った。神殿は相変わらず長蛇の列だったので、先にアスカルド男爵領へ向かった。警報を聞いていたからアスカルド領地を軽く視察するにとどめたが、領地民が異質な崇拝を男爵家のご令嬢に見せていて、護衛騎士とともにすぐに引き返したが、それから男爵領のことばかりを考えていたように思う。


 「ケティルの愛をどう信じればいいのですか? 長蛇の列を待てもしない、辛抱も足りないなんてがっかりです」


 ケティルは何かを言おうとして口を閉ざした。


 「まあまあ、フレイディス!かわいいお顔が台無しよ! そうね、ケティルくんは毎朝毎晩フレイディスの送迎をすることね。国家婚約破棄予報士のお仕事は大変なんだから。それからここにいる間は毎日フレイディスとデートをしなさい。私たちがいる部屋はここよ。


 フレイディスも機嫌を直して。

 ここはリョースヴィークなのよ。楽しいことが沢山あるのだから」


 その日の夜にケティル宛に手紙が届いた。


『私が思うフレイディスの好きなところトップ5はなんでしょう。ケティルくんが上辺だけではなく、トップ5を心の底から言えるようになることを願ってるわ。猶予は3ヶ月よ。出来なければフレイディスは返してもらうわよ♡』


 ♢♢♢


 王都ではアスカルド男爵家ご令嬢のリヴが王立アカデミーで佇んでいた。


「どういうこと?パンピしかいないじゃない」

「失礼ですが男爵家のご令嬢のリヴ様でいらっしゃいますか?」


 いたわ、いい男。


「はい♡王立アカデミーに転入することになりました♡よろしくね♡」


「あなたにはもっとふさわしい場所がありますよ。さあ私の手を取ってください」


「え♡はい♡」


 そのまま出される手を取った。もうプロポーズしてくるなんてちょろすぎて笑いそうになる。案内された真っ白な馬車に乗る。

 願ってたものが簡単に手に入る。


「では、到着まで時間がかかりますのでゆっくりお眠りください」


 パチン


 枢機卿が指を弾くとリヴは簡単に眠ってしまった。枢機卿は連絡をいくつかしてそのまま馬車に揺られていた。


 ♢♢♢


 枢機卿の隣を体格の良い騎士が男爵家のご令嬢を抱えて歩いている。


「ハルヴァルド陛下、枢機卿がお見えになりました」

「枢機卿、遠路はるばる礼をいう」

「こちらこそ。そして彼女がフロストガルド王国で誕生した聖女になります」

「そうかそうか」

「では、ご用も済みましたしハルヴァルド陛下に祝福を授けても?」


 ♢♢♢


 携帯水晶が光った。

 でも全員領地にいるのに。


「枢機卿から、聖女を捕獲しグリムヴァルド国に無事送り届けたそうだ。グリムヴァルド国ではピンク頭のヒロインというものが誕生して困っていると相談された枢機卿がアストリッド様の助言で二人を引き合わせることにしたそうだ。逆ハーレム緊急事態宣言の解除は様子をみて10日後あたりだそうだ」


 またうち?しかもお母様?


「あの、お母様聞きたいことが」

「あらフレイディスどうしたの?」

「枢機卿と連絡を?」

「うふふふ、聞いたのね。枢機卿はあんな若い顔してるけれど幼馴染みなのよ」

「助言とは?」

「聖女とピンク頭のヒロインを戦わせたら楽しそうじゃない? そういえば言ってなかったわね。お母様は特級国家婚約破棄安全確保管理官なのよ。フレイディスったらすぐに相談してくれたらよかったのに。グズルーンちゃんから聞いてびっくりしたんだから。まあ知ってたけど。でもフレイディス頑張ってるし。だけど聖女とピンク頭の潰しあいは勝手にやってほしいじゃない?」


 そうだったわ……お母様はこういう人だったわ。


 ♢♢♢


 逆ハーレム緊急事態宣言も解除されていつもの日常にもどりつつあった。

 変わったことといえばケティルが毎日送迎をしてくれている。そしてケティルの愛情表現が変わったこと。


 「フレイディス、昨日の放送も素敵な声だったよ」

 「フレイディス、思慮深いところを私も見習うよ」

 「フレイディス、トーラの持たせてくれる朝食も素敵だけれど明日は私が朝食を作って渡すよ」

 「フレイディス、いってらっしゃい愛してるよ」


 何だかすごく甘さが増している。


 自宅に帰るとお母様が話しかけてきた。


 「フレイディス最近幸せ?」

 「はい」

 「よかったわ。ところで国家婚約破棄安全確保管理官の資格は取らないの?」

 「はあ!?」

 「仕事を辞めても資格は一生ものよ」

読んでいただき、ありがとうございました!


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