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第6話 ダンジョンの崩壊

—1—


 冬士が発動した『固有異能オリジン』とは通常の異能力を用いた技とは異なる。

 端的に説明すれば必殺技の1つに分類される。

 厳密には3系統存在しておりそれぞれ『制圧級異能エクステンシブ』、『異能武装化アーマー』、『固有異能オリジン』と呼ばれている。

 前に挙げた2系統は類似した異能力を宿した者であれば鍛錬次第で同じ技を発動することが可能となる(効果や威力は微妙に異なる)。

 しかし、『固有異能オリジン』は個人のイメージを具現化した技であるため、他者が再現することはできない。

 習得難易度も極めて高く、ハンターの中でも『固有異能オリジン』を扱えるのは冬士を含めても片手で収まるほどだ。

 そもそも一流のハンターであっても教わったところで使えるようになる代物ではない。

 それは発動者本人の才能が鍵となるからだ。

 スポーツや勉学のように努力や鍛錬で実力差を埋めることができたとしても才能の部分に関しては当人の生まれ持った個性であるため、どう足掻いても差を縮めることができない。


 異能の神に選ばれた存在。


 一部のハンターの間では『固有異能オリジン』を扱える者はそう呼ばれている。

 大袈裟に聞こえるかもしれないが、あながち間違ってはいない。


 篝火冬士かがりびとうじが史上最年少でA級ハンターに昇格したのも、周囲が天才と囃し立てるのも『固有異能オリジン』の習得による側面が大きい。

 もちろん『固有異能オリジン』抜きにしても抜群の戦闘センス、S級ハンター不知火桔梗しらぬいききょうから叩き込まれた剣術と体術が他を寄せ付けない武器となっている。


「アドラメレク、俺が墓場まで連れてってやる。この命にかえてもな」


「ぬかせ」


 宙に浮かぶ篝火の砂時計が反転。

 激しく発光した炎の粒が灰となって下の受け皿に蓄積されていく。

 燃え上がる粒の正体は冬士の寿命。

 自らの寿命を代償に莫大なエネルギーを得る。

 それが冬士の『固有異能オリジン』・『篝火の砂時計(ルミナス)』の全貌だ。


「……くっ!」


 アドラメレクが地面を蹴るのと同時に冬士が正拳突きを放つ。

 拳と拳が衝突。

 冬士の拳に纏う炎とアドラメレクの魔力が左右に弾けて衝撃波を生む。


「生意気な小僧がッ」


 苛立ちをぶつけるようにアドラメレクが手数を増やして追撃を仕掛けるが、冬士は危なげなくその全てを防ぎ切ってみせた。


 肉弾戦はほぼ互角。

 のように見えたが、天に浮かぶ篝火の砂時計に灯った炎が勢いを増し、灰の蓄積する速度が上がっている。

 何かを得るには何かを失わなくてはならない。

 魔王と同水準の力を得るための代償は計り知れない。


「くそっ、攻めきれない」


 アドラメレクの猛攻を凌ぐだけでジリジリと死へのカウントダウンが迫っていく。

 冬士はさらにギアを上げ、アドラメレクに肉薄する。

 近接戦闘から超近接戦闘へ移行したことで魔槍・ブリューナクによる攻撃を封じた。

 が、しかし、打撃の回避はほぼ不可能となった。

 一瞬の判断ミスが致命傷になりかねない。


 だがそれはアドラメレクも同じ。

 冬士の炎拳が頬を掠め、黒髪が宙を舞う。

 アドラメレクは仰反るような体勢になりながら伸ばした右腕に魔力を込める。

 近距離が故に狙いを定める必要はない。


獄炎の死渦(ヘルボルテックス)


 放出された極炎の渦が冬士を飲み込んだ。

 否。

 冬士はアドラメレクの右腕に魔力が集中した一瞬で攻撃を読み、盾を展開していた。


烈火の巨大盾(インフェルノシールド)


 冬士が発動できる最大の防御技。

 『固有異能オリジン』で盾の強度に補正が入ったことでギリギリ防ぐことができた。


「もっと、もっとだ。俺に力を!!」


 冬士が心臓を鷲掴み、天高く吠える。

 それに応えるように篝火の砂時計が煌めきを放った。


 現在、冬士は12歳。

 蘇生の魔王・アドラメレクを拘束するためだけに一生分の寿命を犠牲にしている。

 これから歩むはずだった人生を代償にして人類の未来に賭けた。

 四帝王・皇明臣すめらぎあきおみが繋いだバトンを次の誰かに繋ぐべく。


 冬士の脳裏にはこれから起こるはずだった未来の映像が流れていた。

 走馬灯は過去の出来事を映し出すが、『固有異能オリジン』・『篝火の砂時計(ルミナス)』は未来を代償にするため、灰となり失われた未来が凝縮されて脳内を駆け巡ったのだ。


 A級ハンターとなった青葉とパーティーを組み、高難易度ダンジョンを攻略して、国内6人目のS級ハンターに昇格。

 ダンジョン攻略の過程でパーティーメンバーの1人と恋に落ち、結婚して子供を授かり、幸せな家庭を築く。

 都会は騒がしいとの理由から田舎で暮らすことに。

 ハンターを目指したいと子供が言い出した時には夫婦揃って鍛え上げ、村一番のハンターに育て上げた。


 村一番では足りない。歴代最強のハンターになってもらわないと困る。

 ダンジョンでは何が起こるか分からないから。


 現時点の実力に満足する息子に向かって冬士はさらに上を目指すように説いた。


 予期せぬ事態に遭遇した際、無事生還するには強さが必要だ。

 仲間を、自分を守るには強さが必要だ。

 弱者は何も守れない。


 人は何故ハンターを目指すのか。

 命を落とすかもしれない危険な職業だというのに。


 地位か?

 名誉か?

 財宝か?


 違う。


 未来の映像が途切れ、冬士はハンターを目指すに至った原点を思い出した。

 魔物の脅威から人々を守り、平和を享受するS級パーティー『四帝王』の姿に憧れてハンターになった。

 彼らはどんな困難が訪れようと最後まで諦めなかった。


「だから俺も諦めない」


 自身の魂に刻まれた憧れを追い求めて。


「師匠、俺に力を貸してください」


 篝火の砂時計が放つ煌めきが冬士の身体に吸い込まれ、冬士の体が激しく発光した。

 役目を終えたかのように篝火の砂時計が砕け散り、灰の雨が降り注ぐ。

 同時にアドラメレクと冬士を閉じ込めていた炎の壁も消滅した。


 冬士は寿命が尽きる寸前で意図的に『固有異能オリジン』を解いたのだ。

 必殺の3系統『制圧級異能エクステンシブ』、『異能武装化アーマー』、『固有異能オリジン』。

 これらの重複発動はできない。


 寿命の大半を使い果たして稼いだ時間は28秒。

 魔物の頂点に君臨する魔王を相手にしてここまで生き延びただけでも奇跡。

 だが、冬士の目はその先を見ていた。


 アドラメレクを仕留める。


 冬士の放つ異様な圧にアドラメレクが生唾を飲み込んだ。

 そして認識する。

 目の前の少年は自身の生を脅かす脅威だと。


制圧級異能エクステンシブ紅炎狐九尾プロミネンスフォックス


 冬士の背後に九つの尾を持つ紅炎狐が出現した。

 紅炎狐——全身に炎を纏った白狐。

 紅炎狐の尾の先端にそれぞれ炎球が浮かんでいる。

 1対1の空間を作り出し、自身に制約をかけることで戦局を有利に働かせる『固有異能オリジン』に対して『制圧級異能エクステンシブ』は圧倒的な威力と質量で戦場を制圧する技だ。

 それがアドラメレク1人に向かう。


流星の強制破滅(メテオバースト)


 アドラメレクが体内に保有する膨大な魔力。

 そのほとんどが体外に放出された。

 魔物は魔力を消費して魔法を発動する。

 根源である魔力を犠牲にしたのだからもうアドラメレクに奥の手はない。

 正真正銘最後の切り札だ。

 それ故に威力も規模感も規格外だった。


 紅炎狐が繰り出した九つの炎球がアドラメレクが放出した魔力の波と衝突して大爆発を起こす。

 爆発は魔力の波によって阻まれ、アドラメレクには届かない。

 それどころか第二波、第三波と絶え間なく押し寄せる。

 ボスフロアを取り囲む四方の壁を粉々に吹き飛ばし、ダンジョンそのものを崩壊させた。


 力を使い果たして倒れた冬士の頭上に瓦礫が崩れ落ちる。

 冬士の目には高揚して歪んだ笑みを溢す魔王の姿が映っていた。


「青葉……ま、負けるんじゃねーぞ……」


 ダンジョンは跡形もなく崩壊し、現実世界とダンジョンを繋ぐゲートは消滅。

 アドラメレクは時空の歪みに引き込まれ、数度の瞬きの末、目を開くと見知らぬ山の中にいた。

 木々の隙間から差し込む光に目を細める。


「さて、この世界に溶け込むにしてもこの姿では不味いか」


 山の下に広がる集落を見下ろしながらそう呟いた。

 アドラメレクは僅かに残った魔力を使い切って自身に擬態の魔法を掛けた。


「皇明臣、少しばかり奴の姿を借りるとしよう」


 明臣の姿に変身したアドラメレクはとある目的を果たすために密かに行動を開始するのだった。

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