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第4話 四帝の王・皇明臣

—1—


 発散された闘気が静かに父さんの体に収束される。

 次の瞬間、一瞬の瞬きの間に父さんがアドラメレクの間合いに踏み込んでいた。

 地面を蹴り、高速で移動したのだが、もはやそれは瞬間移動に等しい。

 アドラメレクは迎え撃つように『魔槍・ブリューナク』を振るう。

 が、父さんはそれを掻い潜り、地面スレスレのところから拳を天に向かって振り上げた。

 顎目掛けて突き上げられた一撃をアドラメレクはなんと頭突きで受け止めた。

 ずしりと重い衝撃に脳が揺れ、思わず足元がふらつく。


「なるほど。インパクトの瞬間に闘気を発散させたのか。たかが身体強化だと甘く見ていたがこれは認識を改める必要がありそうだ」


「蘇生の魔王、あまり人類を舐めるな」


 父さんの人間離れした身体能力を肌で感じ、アドラメレクは父さんの異能力=身体強化だと結論づけたようだが、その推理は間違っている。

 父さんの異能力は身体強化ではない。

 闘気の発散も破壊力のある突きも厳しい鍛錬を積んで習得した戦闘技術の1つに過ぎない。


 父さん——皇明臣すめらぎあきおみの真髄はそこではない。

 4人のS級を従える最強の帝。

 彼の異能力は『模倣コピー』。

 特定の条件を満たした異能力の模倣が可能となる。


 国内最強のS級パーティー『四帝王』。

 そこに所属する『炎帝』『水帝』『雷帝』『獣帝』。

 父さんはその全ての異能力を使いこなす。


 パーティー名である『四帝王』は四人の帝を従える王という意味から付けられた。

 四帝の王。

 つまりは父さんを指しているのだ。


「ッ!」


 認識を改めるとの宣言通りアドラメレクが繰り出した魔槍の穂先が父さんの喉元を掠める。

 アドラメレクはかわされたと見るや流れるような動きで風を切り裂く強烈な突きを見舞ってくる。

 父さんもなんとか凌いでいるが、雷を帯びた魔槍に素手で触れてしまっているため苦痛で奥歯を噛み締めている。

 これまでの動きとは明らかに異なる獲物をじわじわ追い込むような猛追。

 アドラメレクが魔槍を振るう度に闘技場に張られた障壁が悲鳴を上げる。


「魔槍・ブリューナクを用いた我が槍術と張り合えるその戦闘技術。初めは身体強化だけかと思っていたが、さては何か隠しているな」


「それはお互い様だと思うが……」


 魔王がこの程度で終わるはずがない。

 直接対峙する父さんでなくてもそれは理解できる。


「フッ、皇明臣、我はお前を気に入った。故に全力で叩き潰す」


 アドラメレクは空間の歪みに魔槍・ブリューナクをしまうと後方に大きく跳んで距離を取った。

 そして、上空に手を掲げる。


「嘘だろ。こんなの、馬鹿げてる」


 右腕を失った桔梗さんを支えていた冬士が呆然と空を見上げる。

 空に浮かんだ黒炎の球体が2つ。

 アドラメレクの魔力を吸い取りみるみる巨大化していく。

 円形闘技場の障壁が砕け散り、ガラスの雨となって降り注ぐ。

 あんなのが地面に落ちたら辺り一面更地になって何も残らないだろう。

 オレ達が絶望に打ちひしがれている表情を見てアドラメレクはニヤリと口元を歪めた。


黒炎の双玉竜インフェルノドラコ・ツヴァイ


 降り注ぐ黒炎が竜の頭に姿を変え、大きく口を開いて全てを飲み込もうと迫り来る。

 一瞬で温度が上昇し、肌から焼け爛れたような腐敗臭が漂い、嗅覚を刺激する。

 網膜が焼けそうで上空を直視することもできない。


星獅子の隻腕(ネメアクロウ)


 父さんの頭上に顕現した獅子の片腕が黒炎竜の頭を引き裂いた。

 ネメア——神話に登場する不死身の人喰い獅子。

 『獣帝』の称号を持つ獅子王ししおうさんの必殺技の1つだ。

 父さんは腕を大きく振り、星獅子ネメアの腕を操作する。

 もう1体の黒炎竜の頭を鷲掴みにすると力任せに握り潰した。

 左右に勢いよく黒炎が飛び散り、闘技場の内壁をマグマのように溶かしていく。


水牙の螺旋砲(ウォーターキャノン)


 黒炎竜の熱を受け、焼け爛れた父さんの腕。

 その腕を胸の高さまで上げて水の砲撃を放つ。

 アドラメレクは地面を殴り強制的に地割れを起こすと、割れて飛び散った破片に姿を隠しながら高速で父さんの間合いまで接近する。

 拳に高濃度の魔力を纏い、瓦礫もろとも父さんの胸に軌道を合わせてストレートで撃ち抜く。


 刹那、父さんの体から電撃が発散。

 電撃でアドラメレクの位置を特定し、雷を纏った拳を振り抜く。


雷拳打破(ライトニングブレイク)


 拳と拳が衝突した衝撃波で不安定だった闘技場の全ての障壁が決壊。

 円形闘技場と屍の騎士(コープスナイト)と戦ったフロアがテレビのチャンネルを切り替えるようにカチカチと切り替わる。


「うぐッ」


 2度拳と拳が重なったことでB級ダンジョンのボスフロアへと完全に切り替わった。

 力で押し負けた父さんが足に力を入れて衝撃を殺す。

 地面を滑りながらこちらまで飛ばされてきたがその体はボロボロでとてもこれ以上戦えそうにない。


 一方のアドラメレクはというと再び空間の歪みから魔槍・ブリューナクを取り出し、手に馴染ませるように体の前で高速で回してから穂先を地面に叩きつけた。


しまいだ。まとめて逝け」


 魔槍に魔力が注ぎ込まれ、黒い石で覆われたフロアが青白く発光する。

 アドラメレクが左足を上げ、投球モーションのように腕を引く。

 複数に分かれた穂先がこちらを向き、不思議とその穂先と目が合ったような感覚に陥った。


雷槍の投擲ブリューナクジャベリン


 穂先から電撃が炸裂し、オレと冬士と桔梗さんをそれぞれ貫こうと一直線に飛んでくる。

 アドラメレクが放った魔槍は膝をついて呼吸を整えていた父さんに迫っていた。


「父さん!」


 目の前で起きている光景がスローモーションのように見えた。

 本来であればとっくに電撃がオレ達の元に届いていてもおかしくはない。

 しかし、電撃は静かに地を這うように進み、魔槍は父さんの眼前で止まっていた。

 いや、正確には僅かに動き続けている。

 動画をコマ送りで再生するように。


 以前、父さんとの稽古中に教わったことがある。

 脳が極度の恐怖状態に陥ると情報の処理速度が飛躍的に向上し、時間が遅く進んでいるかのように見えるらしい。


 父さんが立ち上がり、背後にいるオレ達を守るように両手を広げた。

 魔槍が腹部を貫き、フロアの壁を貫通する。

 父さんは自らが壁となって魔槍と電撃からオレ達を守った。


 仰向けに倒れた父さんの元に駆け寄り、貫かれた腹部に手を当てる。

 オレが回復系統の技を使えていたら。

 ダメだ。使えていたとしてもこの傷はもう。


「青葉、みんなを、母さんを頼む……」


 父さんが大きな手でオレの頭を撫でようとしたが、途中で力尽きたのかそっと地面へと吸い寄せられた。

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