その2【晃一の視点】
晃一は、後ろから、声をかけられたような気がして、振り返った。誰もいない。
ここに来ても意味がないことは分かる。
もう両親はいない。線路脇に置いてあった生花も、すでに枯れて周りの雑草に埋もれている。
10ヶ月前、一瞬で、両親が逝ってしまった。
後ろから車がぶつかり、車体が踏切に突っ込んだ瞬間。スローモーションのように、右側から電車がぶつかり、一瞬で運転席を潰していった。
光と金属音そして激しい衝撃。
その数秒間がビデオのように記憶の中に焼き付いている。
次に気がついたのは、病院のベッドの上だった。
母の妹の叔母さんが、「何で晃一たちがこんな目に合わないといけないの」と泣き叫んでいた。
何故こんな目に合わないといけないのか。誰のせいなのか。それから悶々とする日が続いた。しばらくすると、居眠り運転の男性が、お見舞いに来た。
彼の羽根つきバッタのように土下座する姿を見ながら、晃一は、怒りをどこにぶつけたらよいか分からなくなっていた。
退院して、叔母の家に住むことになった。
愛情深い叔母は晃一を配慮し、真心から気遣ってくれた。
しかしその気遣いも、心に響かなかった。それほど、晃一は傷つき、混乱していたのだ。
高校進学も考えていた。しかし今はそんなこともどうでもよくなっていた、
ただ虚しい。生きていることが辛い。目標なんて、何か大きなことがあれば、すぐに壊れてしまう。両親のように。
自分は何を励みに生きて行ったらよいのか。
毎日、ただ生きるだけで、生きている意味があるのか。
晃一は、無性に両親に会いたくなっていた。
そして、事故の同じ時間に、あの踏切に夜な夜な通うようになったのだ。
「お父さん、お母さん、今どこにいるの。死んだら、どうなるの」
踏切に行く度に、こちらの世界とあちらの世界は、壁一枚の隔て、しか無いように感じた。
一歩踏み出せば、あちらの世界に行ける。
その甘美な誘惑を味わい、敢えて退けることが、自分の生きている唯一の意味のような気がしていたのだ。
この数日は、いつ一歩踏み出そうか、そんなことばかりを考えていた。
今日こそ。
誰かが後押ししてくれたなら、行けそうな気がしていた。
晃一くんの内面が描かれた場面です。
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