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84話「暴行事件後の保育園と仲間の思い」

84話「暴行事件後の保育園と仲間の思い」


梅雨の合間に晴れ間がのぞく、初夏のある日の朝。オフィスの中で、いつものように朝の挨拶を交わすが、空気にはどこか重さがあった。


「おはようございます。祐介、昨日はゆっくりできたか?」


同僚の岡本が、心配そうに声をかける。椎名も横で心配そうにうなずいている。


「おはよう。ありがとう、まあ……ゆっくりできたかな」


祐介はやや疲れた表情を見せながらも、少しだけ笑みを浮かべて答えた。


先日の保育園での暴行事件――それは祐介の心に深い傷を残していた。あの日、保育園から聞かされた事実、そして何よりも我が子が受けた痛みと恐怖。彼の感情は爆発寸前で、あの夜、姉貴のさやかも激しい怒りに駆られて保育園に乗り込んだことは岡本たちも知っていた。


「そういえば、須野原先生、解任されたってメールで来てたな……」


「うん。俺も昨日の休みで、保育園から連絡があったのを見ただけで詳しいことはまだわからない」


祐介はそう言いながら、心の中で渦巻く憤りと不安を押し込めていた。自分が仕事を休んだ日、何もできなかった無力感も。


「お前、あの後、姉貴がどなり込みにいったらしいな。どうだった?」


岡本が話を切り出すと、祐介は少しだけ息を吐いた。


「うん、ああいう場面に姉貴がいるのは頼もしい。かなり厳しく言ったみたいだ。俺もその晩、ハルナの様子を見ていたけど、泣き疲れてぐったりしてた……正直、俺も参ってたな」


椎名はそんな祐介の言葉にしっかりとうなずいた。


「事件後、みんなハルナちゃんのこと気にしてるよ。特にあいりちゃんやしおりちゃんの家族もね。保育園は当然、慎重になってる。安心して遊べる環境にしようと努力してるって聞いた」


「そうだな……でも正直、俺は心配でならない。特にあの先生が解任されたのはいいけど、あんなことが二度と起きてほしくない」


祐介は少し声を落として話す。


「実は、社長の娘さんもこの保育園で働いているって話を聞いた。お前たちは知らなかっただろうけど、あの人も今回のことで祐介たちを心配しているらしい」


岡本がそう話すと、祐介は少し驚いた。


「そうだったのか……知らなかった」


「社長の娘さんは、すごく真面目で子どもたちのために頑張っているらしい。今回のこともすごくショックを受けてたって」


「なるほど……それなら少しは安心かな」


「まあ、何にせよ俺たちもできる限りのことはしよう。仕事で忙しいけど、何かあればすぐに連絡を取り合って、助け合おう」


「ありがとう。俺もそう思う」


3人はそれぞれの席に戻り、仕事を始めたが、心はどこかまだ落ち着かずにいた。


*****


その日の昼休み、祐介はデスクでメールを確認しながら、ふと目に入った子どもの写真を見つめる。そこには笑顔のハルナが写っていた。


「大丈夫、きっと大丈夫」


祐介はそう自分に言い聞かせ、次の仕事に向き合った。


*****


一方、保育園では先生たちが事件の反省を重ねていた。園長は表情を曇らせながら、職員に向けて語った。


「今回の件は私たちの責任でもあります。子どもたちの安全を第一に考え、再発防止策を徹底していきましょう」


先生たちはうなずき、緊張感を持って日々の保育に取り組んでいた。


*****


夕方、ハルナが保育園から帰ってきた。


「ぱぱ、きょうもいっぱいあそんだよ。あいりちゃんとしおりちゃんとね」


祐介はハルナの頭を優しく撫でた。


「そうか。ハルナが元気そうでよかった」


「うん。せんせいもやさしくしてくれるし、またあしたもいくの」


祐介はそんなハルナの言葉に心が救われる思いだった。


「ぱぱも応援してるからな」


*****


その夜、祐介は姉貴のさやかと電話で話した。


「さやか、ありがとう。あの時、保育園に乗り込んでくれて助かった」


「いいんだよ。家族のことは家族で守らなきゃ」


「これからもハルナを守っていくから、協力よろしくな」


「もちろん。私も力になれることがあったら言ってね」


電話を切った祐介は、深いため息をつきながらも、家族の絆を改めて感じていた。


*****


翌日、職場の岡本と椎名は祐介に声をかける。


「何か変わったことはあったか?」


「いや、まだ油断はできないけど、ハルナが笑顔で保育園に行っているから安心したい」


「そうだな。俺たちも気をつけていこう」


3人の間に、新たな連帯感が生まれていた。


*****


こうして、保育園での事件は祐介たちの心に深い影を落としたが、それを乗り越えようとする家族と仲間の絆が確かに強まっていた。


明日はきっと、少しずつでも光が差し込むはずだと信じて――。


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