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79話新任教師、須野原紗栄子

79話「新任教師、須野原紗栄子」


初夏の朝、穏やかな風が吹き抜ける。俺はいつものように娘のハルナと手を繋ぎ、保育園へ向かっていた。陽射しは柔らかく、木漏れ日が道に斑点のように散らばっている。今日はいつもと少し違った。保育園の門の前に、見慣れない若い女性が立っていたのだ。


園長が俺たちに気づくと、にこやかに歩み寄ってきた。「祐介さん、ハルナちゃん、ちょうど良かった。今日は新しい先生を紹介するよ」そう言って、隣の女性を指差した。


「新しく入った保育士の須野原紗栄子です。よろしくお願いします」彼女は深々と一礼し、澄んだ声で挨拶した。


俺は立ち止まり、軽く会釈した。「こちらこそ、よろしくお願いします」若くて初々しいが、凛とした雰囲気が感じられ、好感を持った。


園長は嬉しそうに続けた。「これから一緒に子供たちを見守っていくからね。よろしく頼むよ」


俺は娘の頭を軽く撫でながら、「今日は新しい先生がいるみたいだな」とささやいた。ハルナは興味深げに辺りを見渡し、幼い足で元気に園庭へ駆けていった。


園内では子供たちが歓声を上げ、遊具の周りを走り回っている。あいりとしおりもそこにいて、三人はすぐに鬼ごっこを始めた。俺はその様子を少し離れたところから見守った。


須野原先生は子供たちの間に入り、笑顔で一緒に遊び始めていた。その姿は自然で、初めての保育園という場所にも馴染んでいるようだった。ただ、ふとした瞬間に彼女の視線がハルナの耳に向かったのを俺は見逃さなかった。彼女の表情には少しばかりの戸惑いと好奇心が入り混じっていた。


「どうした?」と思わず心の中で呟いた。娘の耳は普通の子とは少し違っている。これは誰にも見せたくない秘密だった。


昼の時間が過ぎ、迎えの時間が近づく。俺は保育園の玄関の外で待っていると、ハルナが手を振りながら走ってきた。


「ぱぱー!」彼女は笑顔で俺の元に駆け寄り、その小さな手を握った。


「新しい先生はどうだった?」俺は優しく尋ねた。


「やさしかったよ。あの先生、いっぱい遊んでくれたの」ハルナはにっこりと微笑む。


俺はその言葉に胸を撫で下ろした。新しい先生が優しい人なら、これからも安心して娘を預けられる。子供たちが笑顔で過ごせる環境であってほしいと願う。


その日の帰り道、俺は自然と足を速めた。まだまだ始まったばかりの保育園生活。だが、新しい風が吹き込んだことは確かだった。須野原紗栄子――彼女の存在は、これからの俺たちの生活に少なからぬ影響を与える予感がした。


その夜、布団に入っても俺の頭には今日の出来事が巡り続けた。娘の耳に向けられた不思議な視線。須野原先生の目の奥に見えた何か。それはただの好奇心なのか、それとも何か別のものだったのか。


俺は決めた。娘の安全は絶対だ。何があっても、守り抜く。パパとして、そう誓った。


そして明日も、俺は彼女の笑顔のために走り続ける。—


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