55話 姉、静寂の中で沈黙
55話 姉、静寂の中で沈黙
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ゴールデンウィークも終盤に差し掛かったある日の午後。
祐介の姉、さやかは仕事の合間にふと思い立ち、弟の娘、姪であるハルナの家へ久しぶりに顔を出すことにした。最近はは忙しくてなかなか会えないが、今日はゆっくりできる時間が取れたのだ。
玄関を開けると、リビングから笑い声が聞こえてきた。祐介がテレビの前でハルナと一緒に座り、二人でアニメを見ているところだった。
「さやかおねえちゃん!」
ハルナは笑顔で駆け寄ってきた。
「わあ、久しぶり!元気だった?」
さやかはその無邪気な笑顔に自然と頬が緩んだ。
ハルナは祐介の膝の上に座り、ふわふわの髪をさやかに向けてくれた。さやかは一瞬言葉を失い、ただ見つめるだけだった。
「…やっぱり、可愛いなあ」さやかは心の中でそうつぶやいた。
普段の忙しい生活の中では忘れていた、純粋な子どもの存在の尊さが胸に染み入る。
祐介はそんなさやかの様子に気づき、にこりと笑って言った。
「なぁ、姉貴。ハルナ、ほんとに大きくなったよ。毎日が発見の連続でさ」
さやかは目を細めて頷いた。
「そうね。パパの祐介もすごく頑張ってるし、ハルナも幸せそう」
三人はソファに並んで座り、ハルナの話題で盛り上がった。
「この間、ハルナが初めておつかいに行ったんだって?」
「そうそう。俺も心配だったけど、無事に帰ってきたよ。姉貴も途中で尾行してくれて助かった」
さやかは照れくさそうに笑いながら言った。
「まあ、弟の子だし放っておけないわよ」
その後も会話は続き、和やかな時間が過ぎていく。だが、ふとした瞬間、さやかはハルナのしぐさや表情に静かに胸を打たれ、言葉を失った。
ハルナが祐介の膝から立ち上がり、無邪気に部屋を走り回る様子を見て、さやかの心はしばしの静寂に包まれた。
「昔の私たちの頃とは全然違うな…」さやかはぽつりとつぶやいた。
祐介はそんな姉の心境の変化に気づき、そっと声をかけた。
「姉貴、どうした?」
さやかは微笑みを浮かべながらも、少し目を潤ませて答えた。
「…いや、何でもない。ただ、ハルナの純粋さに驚いただけ」
その日の夕方、三人は近所の公園へ出かけた。ハルナは砂場で夢中になって遊び、祐介は姉と肩を並べてそれを見守る。
さやかは静かな声で言った。
「祐介、パパとしてよくやってるね。ハルナ、きっと幸せだよ」
祐介は照れくさそうに頭をかきながら答えた。
「ありがとう、姉貴。でも、まだまだだよ。毎日が勉強でさ」
さやかは笑いながら肩を叩いた。
「そういうお前が好きよ」
それから三人は笑顔で帰路についた。
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