54話初めての東京スカイツリー
第54話 初めての東京スカイツリー
日曜日の朝、カーテンの隙間から差し込む光に目が覚めた。窓の外はすでに青空が広がっていて、夏の陽気を感じさせる。今日は待ちに待った休日。ハルナも目をこすりながら「ぱぱ、きょうおでかけ?」と小さな声で聞いてきた。俺はにっこり笑って「そうだよ、今日は東京スカイツリーに行こう」と伝えると、彼女はぱっと顔を輝かせた。
「わあ、すかいつりー! はじめて!」
朝ごはんを簡単に済ませ、手早く支度を整えて家を出た。電車に乗るとハルナは窓の外の景色を興味津々で眺めている。都会の高層ビルや行き交う人々、走る車たち。すべてが彼女には新鮮だった。
「ぱぱ、あれはなに?」ハルナが指差した先には大きな観覧車が見える。
「それは遊園地の観覧車だよ。今度一緒に乗ろうな」と俺は答えた。
30分ほど電車に揺られ、とうとう東京スカイツリーが見えてきた。その巨大な姿はまるで未来から来た巨人のように空高くそびえ立っている。ハルナの目がさらに輝いた。
「わあ、おおきい!」
「ほんとうにな。さあ、行こう」
駅を出て歩き始めると、スカイツリーの真下に着いた。見上げれば、その高さに首が痛くなるほどだった。人混みの中をゆっくり歩きながら、俺はチケット売り場へ向かう。幸いなことに混雑はそれほどでもなく、すぐに展望台のチケットを購入できた。
「わくわくするね、ぱぱ!」
ハルナは手をぎゅっと握りしめ、期待でいっぱいの笑顔だ。俺も子供の頃に感じた冒険心を思い出し、胸が高鳴った。
エレベーターは透明な窓があり、上昇するにつれて地上の風景がだんだんと小さくなっていく。ハルナはその様子をじっと見つめ、「たかいねー!」と声をあげた。
展望台に到着すると、360度の大パノラマが広がっていた。東京の街並みが遠くまで続き、遠くには富士山の雄大な姿も見えた。ハルナは興奮のあまり、「ぱぱ、みて!あそこにかえりみちのえきある!」と指をさす。
「そうだね。あの線路を通ってきたんだよ」と俺が教えると、彼女は真剣な顔で頷いた。
展望台のガラス越しに景色を眺めながら、二人でアイスクリームを食べたり、スカイツリー限定のお土産を選んだりして過ごした。ハルナは「またくる!」と何度も言い、楽しさを全身で表現していた。
昼過ぎには併設されたソラマチのフードコートで昼食をとった。ハルナはお子様ランチを嬉しそうに頬張り、俺も久しぶりの外食を楽しんだ。周囲の観光客もみんな笑顔で、街全体が祝祭のような雰囲気だった。
食後はソラマチのショップを巡り、ハルナの好きなキャラクターグッズを買ったり、ちょっとした夏服も見て回った。暑さで疲れも見えたが、彼女は「まだあそびたい」と元気いっぱいだった。
帰りの電車では疲れてぐっすり眠ってしまい、俺は優しくハルナの頭を撫でながら、これからも彼女といろんな場所に行って新しい体験をさせてやりたいと思った。父親としての責任と幸せが胸にじんわりと広がっていくのを感じながら、俺は静かに未来を見据えた。
家に帰ると姉貴がちょうど訪ねてきて、「楽しそうだったね、ハルナ」とにこやかに言った。ハルナは「さやかおねいちゃん、みてみて!」と買ったばかりのグッズを見せていた。姉貴も嬉しそうに微笑み、「また今度、みんなでお出かけしようね」と話してくれた。
その夜、ベッドに入ったハルナは、「ぱぱ、きょうはたのしかったよ。ありがとう」とぽつりと言った。俺はその言葉に胸が熱くなり、「こちらこそ、ありがとう」と答えた。窓の外には満天の星空が広がり、東京の夜景が優しく二人を包んでいた。