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53話 初めてのプール

第53話 初めてのプール


夏の朝、俺はハルナの小さな手をしっかり握りしめながら、保育園へ向かっていた。照りつける日差しがすでに暑く、蝉の声が夏の訪れを告げている。今日は保育園のプール開き。ハルナは前日からずっと楽しみにしていて、寝る前にも「ぱぱ、あしたプールだよね?」と何度も聞いてきた。俺は「うん、楽しみだな」と笑いながら答えた。


保育園に着くと、園庭には小さなプールがいくつも並べられていた。子どもたちの歓声があちこちから響き、先生たちは水しぶきの準備に追われている。ハルナは目をキラキラさせて、「わあ、いっぱいプール!」と嬉しそうに言った。俺はその表情に思わず微笑む。


「ハルナ、水は冷たいけど、きっと楽しいよ。無理しないで、嫌になったらすぐに教えてね」と俺は優しく声をかけた。


「うん、ぱぱ、わかった!」


小さな声で答えたハルナは、手を振りほどいて駆け出そうとしたが、俺はすかさず手を握り直す。「待って、ゆっくりね。転んだら大変だから」


「ごめんね、ぱぱ。でもはやく入りたいんだもん!」


そう言いながら、彼女ははにかんだ笑顔を見せる。俺はそんな彼女が誇らしくもあり、同時に守らなきゃと強く思った。


保育園の園長先生が子どもたちを集めてプール開きの挨拶をした後、先生たちが水遊びの注意点を優しく説明していく。ハルナも真剣に聞き入り、「はーい!」と元気に返事をした。


「じゃあ、まずは水に慣れましょう」と先生が声をかけると、子どもたちはプールのふちに座り、ゆっくり足を水につけていく。ハルナも恐る恐る足を入れ、すぐに「つめたーい!」と叫んだ。俺はすぐそばにしゃがみ、「最初は冷たいけど、すぐ慣れるよ。ぱぱもここにいるから安心して」と手を握った。


しばらくすると、子どもたちは水をパシャパシャ叩いたり、顔に水をかけ合ったりし始める。ハルナは少し戸惑いながらも、隣の子どもが顔に水をかけられても楽しそうに笑っているのを見て、次第に笑顔を見せるようになった。


「ぱぱ、みて! わたしもできるよ!」とハルナは水を手で掬い、俺にかけてくる。思わず俺もびしょ濡れになりながら「おお、すごいな!」と声を上げた。


「はしゃぎすぎて風邪ひくなよ」と俺は笑いながら注意した。


しばらくすると、先生が「次はみんなで顔に水をかけてみよう!」と声をかける。ハルナは「えー!」と少し嫌がったが、俺が「ぱぱもやるから、一緒にやろう」と手を差し伸べると、小さくうなずいて俺の手を取った。水が顔にかかるとびっくりして泣きそうな顔になったが、すぐに先生や周りの友達が笑っているのを見て、にっこり微笑んだ。


「がんばったね、ハルナ」


「うん! ぱぱ、すごいよ!」


その後も水鉄砲で遊んだり、プールの中を走り回ったりと、ハルナは全力で楽しんでいた。俺も思わず水に入り、童心に返って娘と遊ぶ。


ふと、プールの端で怖がっている男の子を見つけたハルナは、迷わず近づいていき、「いっしょにあそぼう」と優しく手を差し出した。男の子は驚いたように見えたが、ハルナの笑顔に安心して手を取った。俺は娘の優しさに感動した。


遊び疲れた子どもたちがプールから上がる頃、先生たちはタオルでみんなの体を拭いて回っている。ハルナは「ぱぱ、つかれたね」と言いながらも笑顔を絶やさず、俺の手をしっかり握った。


帰り道、ハルナは「またプール行きたい!」と元気に言い、俺は「来年も一緒に入ろうな」と答えた。彼女の笑顔を胸に刻み、俺は父親としての責任を改めて感じていた。


夜、寝室でハルナが眠りにつくと、俺はそっと彼女の額に手を当てた。「ぱぱはいつでもそばにいるよ」と心の中で誓い、静かな夜を過ごした。


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