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50話祐介、同僚と居酒屋で娘の話題(再)

第50話「祐介、同僚と居酒屋で娘の話題(再)」


会社のビルを出る頃には午後6時を回っていた。ほの暗い街灯の下、祐介は少し迷いながらスマホを引き出した。そこには岡本からのメッセージ。「今日、飲みに行く?」。週明けすぐの誘いだったが、断る理由が見つからなかった。妻子持ちの彼だからこそ、話したいことがある気がしたのだ。


「今から? わかった、どこにする?」


即返信しながら、祐介は胸の奥がざわつくのを感じた。姉貴に迷惑をかけたくなかったが、今朝姉貴が土下座して「今日お迎え頼む、必ず8時までに帰ってくるの」と言い切ったのを思い出していた。だからこそ、今日くらいは“仕事モード”に浸ってもいいと思ったのだ。


居酒屋は普段使いの安くて旨いチェーン。店内には同僚連中やサラリーマンの笑い声が響いている。奥の掘りごたつに二人きりで腰を据え、最初の一杯がテーブルに置かれた瞬間、岡本が先に乾杯の音頭を切った。


「さて、今日はなんの話しよっか?」


苦笑いしながら祐介は「最近の家の事情でも話すか?」と冗談交じりに返す。


「うん、そうしよう。実はさ、ハルナが……」


いつものメンバーから離れた席で、焼き鳥や冷奴などをつまみながら、話は自然と娘の話題に移っていった。まずは先週のおつかいの話。ハルナが一人で八百屋に行き、無事ににんじんとじゃがいもを買って帰ってきたと聞けば、岡本は「それすげえな、まるでドラマみたいだ」と驚嘆。二人してその時のスリルや姉貴の尾行作戦を語り合った。


「姉貴の忍者っぷりがもう最高だったんだよ」

「ははは、本気すぎて笑えるよな」


焼き鳥をほうばりつつ話し込むと、次は温泉旅行での水着やおままごとの話題に広がっていった。店内の他の客がちらりとこちらを見て笑いをこらえている。どうやら「パパトーク」はこの店内でも珍しいようだ。


「で、最近はどう? 誕生日のプレゼントは?」

「うん、それがさ……姉貴が業者サイズの段ボールで来てさ」

「またすごいな! で、ハルナはどう反応した?」

「目をキラキラさせて、ドレッサーでプリンセス撮影会してた」


岡本は声を抑えながら笑い転げていた。焼酎のおかわりを注ぎあいながら、話が白熱し、時間は気づけば8時前だった。


「そろそろ時間だな……」

岡本も時計を見る。「今夜は俺も8時には帰る」「パパ、頑張れよ」——二人の目が揃って笑いあう。


店を出る頃、都会の夜風が心地よかった。長らく抱えていた“父親モード”から少し離れ、リセットされた気分になっていた。


家に着くと、玄関先で姉貴が待っていた。スマホのライトを頼りに、廊下の隅々まで見回っている。その横には、さやかおねいちゃんの膝の上で眠るハルナが揺れていた。


「おかえり、パパは……ちゃんと帰ってきたね?」

姉貴は小さくほほ笑み、無言で頷いた。

「すまない……任せてくれてありがとう」

祐介は膝を曲げて静かに頭を下げる。


「良かったわ。本当にちゃんと帰ってくると思ってた?」

姉貴は不敵に笑う。

「……うん、任せて正解だった」

祐介はハルナの頭を撫でた。寝顔は安心そのものだった。

「いつもの寝顔だけど、今日は特別だな」

心の中で、俺は強く思った——また父親として成長できた夜だったと。




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