49話 姉、遅れて誕生日プレゼント
第49話「姉、遅れて誕生日プレゼント」
朝――。昨日の賑やかで幸せな誕生日パーティの余韻が、まだリビングに残っている。飾り付けられたバルーンのいくつかが天井から下がり、床にはまだ紙吹雪が転がっていた。俺――いや、パパはいつもより少し早く目を覚まして、リビングの掃除を始めていた。
ハルナはまだ寝ている。昨日のご馳走とケーキ、たくさんの笑顔に疲れたのだろう。小さな寝息が部屋に静かに響いている。
そんな静けさを破ったのは、家の前に止まった大きなエンジン音だった。
「……ん?」
カーテンをめくって外を見ると、そこにはなんと大きな配送トラック。2トントラックぐらいある。引っ越し業者かと見まごうサイズの車体から、作業服姿のスタッフが二人、荷台を開けて何やら準備している。
「……なんか届く予定あったっけ?」
疑問に首を傾げていると、そのスタッフの脇から、スラリと現れる女が一人。――姉貴だった。
しかも、業者に誘導されて転がされているのは、俺の背丈よりも大きな、巨大なダンボール。
「……なにやってんだよ、姉貴……!」
玄関を飛び出しながら叫ぶと、姉貴はにやりと笑って手を振った。
「やっほー、お誕生日おめでとうの翌日便! 本日の配送は“おねーちゃんサヤカサービス便”です!」
「いや、何言ってんだ。これ、どう見ても一般家庭に届くサイズじゃねえって!」
「細かいことはいいの、ほら手伝いなさい。あ、そこの兄ちゃん! 玄関から入るか、ベランダか、どっちがいい?」
完全に業者と一体化してる。慣れた手つきで指示を飛ばし、玄関先に巨大なダンボールを立てかける。
俺は呆然としながら手伝い、なんとかそれをリビングに運び込む。カツン、と床に置かれた瞬間、階段の上から小さな足音が降りてきた。
「……ぱぱ? おとが、したの……」
パジャマ姿で目をこすりながら現れたのは、ハルナだった。
「おはよう、ハルナ。パパね、今、ちょっとだけ……大変なことに巻き込まれてるよ」
「え……あっ!!」
ハルナの顔がパッと輝く。
「さやかおねいちゃん!」
「おー、やっと起きたわね、主役ちゃん!」
さやかおねいちゃん――姉貴は、ハルナをひょいと抱き上げて、ぐるりと回す。
「おたんじょうび、おめでとう! ちょっと遅くなっちゃったけど、サプライズでどーんと来たから、許してくれる?」
「うんっ! さやかおねいちゃん、だいすきー!」
「ふふふ、いい子いい子!」
俺はそのやりとりを見ながら、大きくため息をついた。
「……で、これ。なんだよこれ」
俺は巨大ダンボールを指さす。
「ハルナへの誕生日プレゼント!」
「知ってるよ! そうじゃなくて、中身だよ!」
「それはね……開けてからのお楽しみ!」
俺は再びため息をつきながら、ハサミを取り出して段ボールの封を切った。中から現れたのは――
まるでおとぎ話から抜け出してきたような、ピンク色のプリンセスドレッサーセット。鏡、椅子、収納付きの机に、フェイクの化粧品、ヘアブラシ、ティアラにネックレス、さらにはおままごと用の小さな香水瓶まで。
「…………」
「…………」
俺もハルナも、一瞬無言になった。
だが、次の瞬間。
「……わああああああああああ!!」
ハルナは歓声を上げ、駆け寄って抱きついた。
「これ、これ、てれびでみたの! おひめさまのやつ!! やりたい! やりたいっ!!」
「ふふふ、それ、アンタの保育園のクラスで流行ってるって聞いたからさ、ちょっと無理して買ったの。いいセンスでしょ?」
「……おまえ、どこで情報仕入れてんだよ」
「子どもネットワークよ」
よくわからんことを言いながら、姉貴はソファにどっかりと座った。
そのあとは、さながら小さな撮影会のような時間が続いた。
「さやかおねいちゃん、みて! これつけた!」
「きゃー、ハルナちゃん、お姫さまみたい!」
「これもこれも、ぱぱ、みて!」
「パパは~……ハルナが可愛すぎて、正直泣きそうです」
「うふふ!」
俺が写真を撮り、姉貴が小道具を渡し、ハルナはくるくると回ってポーズを決める。まるで本物のモデル撮影のように、部屋の中は笑い声に包まれていた。
プレゼントの力ってすごいな――そう思いながら、俺は静かに、幸せの光景を目に焼き付けていた。