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47話 ハルナ初めてのおつかい

47話 ハルナ初めてのおつかい


日曜日の朝、柔らかな陽射しが部屋のカーテン越しに差し込み、ハルナの小さな寝顔を照らしていた。パパこと祐介はキッチンで冷蔵庫を開けては閉め、何度も中を確認していた。今日はカレーを作る予定だったが、肝心の材料が足りなかった。


「にんじんとじゃがいも、どこにも見当たらないな……」


祐介はため息をついた。普段は買いだめしておくのに、今回はすっかり忘れていたのだ。ふと隣のリビングから、ハルナの元気な声が聞こえる。


「ぱぱ〜、おはよう!」


ハルナはすでに目を覚まし、パジャマのまま部屋の中を駆け回っていた。その無邪気な姿を見て、祐介の胸は温かくなった。


「おはよう、ハルナ。実はね、パパにお願いがあるんだ」


「なあに?」


「今日はね、にんじんとじゃがいもを買いに行ってほしいんだ。おつかいってやつだよ」


ハルナの目がキラキラと輝く。初めての「おつかい」に胸を躍らせているのが見て取れた。


「わかった! ぱぱのためにおつかいする!」


「ありがとう。ちゃんとお財布を持って、道を気をつけてね」


祐介はスマホを取り出して姉貴ことさやかに電話をかけた。やはり初めてのことだけに、ひとりで行かせるのは心配だったのだ。


「姉貴、今日ハルナにおつかいを頼みたいんだけど……」


「ええっ!? 初めてなのに!? 無理無理、絶対ひとりは危ないよ。私も一緒に行く」


「いや、でもそれだとハルナの経験にならないし……」


「じゃあ私が遠くから尾行して見守る。万が一のときはすぐに駆けつけるから」


「ありがとう。頼りにしてる」


電話を切り、祐介はハルナに財布を渡した。


「この中にお金が入ってるよ。足りるかな?」


「うん、ぱぱが準備してくれたお金だね!」


ハルナは嬉しそうに財布を握りしめ、玄関に向かった。祐介は玄関の鍵を開け、見守る位置についた。姉貴も離れた位置から静かに尾行を開始する。


ハルナは手を振りながら歩き出した。途中で会う近所の人たちに元気よく挨拶し、道を曲がると八百屋さんの店先が見えてきた。


店の親父さんは優しい笑顔で迎えてくれる。


「おお、ハルナちゃん! 今日は何を買いに来たんだい?」


「にんじんとじゃがいもをください」


「おお、いいねえ。パパに頼まれたのか?」


「うん、ぱぱのお願いだよ!」


親父さんは丁寧ににんじんとじゃがいもを選び、袋に詰めた。お母さんも優しく声をかけてくれる。


「はじめてのおつかい、上手にできたね」


ハルナは得意そうに袋を持ち、ありがとうとお礼を言った。祐介と姉貴はその様子を遠くから見守っている。


帰り道、姉貴がゆっくりと歩み寄り、ハルナの手を優しく握った。


「さあ、安心しておうちに帰ろうね」


ハルナは安心したように笑顔を返す。途中で少し疲れたのか、小さな足取りは少しゆっくりになった。


帰宅すると、祐介が玄関で待っていた。


「おかえり、ハルナ。すごく頑張ったね!」


「ただいま、ぱぱ! おつかい、できたよ!」


ハルナは満面の笑みで袋を差し出した。祐介はハルナをぎゅっと抱きしめた。


「ありがとう、パパはとっても嬉しいよ」


この日の夕飯は、いつも以上に温かく美味しいカレーとなった。家族の絆が一層深まったことを感じながら、祐介は幸せをかみしめていた。



夕食のカレーができあがると、ハルナは満足そうにお皿を抱えて座った。ぱぱの手作りカレーはいつもと違って、今日は特別においしい気がした。


「ぱぱ、にんじんもじゃがいももおいしいよ!」


「そうか、それはよかった。おつかい、ちゃんとできたからだね」


ハルナは誇らしげに笑い、時折口に運ぶスプーンを止めてはぱぱを見つめた。


その晩、家族はゆったりと過ごしていたが、さやか姉貴の電話が鳴った。


「祐介、今日のハルナの様子はどう?」


「おつかい、無事に成功したよ。姉貴のおかげで心配せずに済んだ。ありがとう」


「よかったね。じゃあ、また明日も見守ってあげるわ」


そう話し終えると、姉貴はほっとしたようにため息をついた。


次の日の朝、姉貴は洗濯物を片付けながらもまだ心配そうな表情だった。リビングには新しく買ってもらったハルナの夏服が並んでいた。姉貴はハルナの成長をしみじみと感じているようだった。


「ぱぱ、今日はなにするの?」


「今日はゆっくり過ごそうか。おつかいも上手だったし、パパは感心したよ」


「うん、ぱぱ!」


その後、姉貴と祐介は笑いながらハルナの成長話に花を咲かせていた。あの小さな勇気あるおつかいが、家族の絆をより一層深めたのだと改めて感じるのだった。


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