39話 1泊2日の出張(祐介視点)
39話 1泊2日の出張(祐介視点)
俺は祐介。普段は「俺」と呼ぶけど、ハルナの前では「パパ」と呼ばれる。ちょっと気恥ずかしいけど、彼女の前だけはそう呼ばれるのが自然になった。ハルナは今3歳、まだまだ小さいけど、毎日が発見と驚きの連続で俺の生活を大きく変えた存在だ。
今日は1泊2日の出張で東京を離れる日だった。久しぶりの出張。会社の仕事はやることが多く、最近は残業続き。しかも、ハルナのことが気になって気になって仕方ない。普段は仕事と家のバランスをなんとか保っているつもりだけど、こうして離れると不安がつのる。
朝、俺はハルナを保育園に送った。最近はだいぶ慣れてきたけど、やっぱり朝の別れはいつも心苦しい。ハルナは「パパ、いってらっしゃい」と笑って手を振ってくれた。でも、目の奥には少し寂しそうな光が見えた気がした。俺は笑顔で「すぐ帰るからな」と約束した。
会社に着くと、すぐに出張準備。資料をまとめ、パソコンをチェックし、上司や同僚と最終確認をした。だが、頭の片隅にはいつもハルナのことがあった。昼休みもスマホで保育園からの連絡を気にして何度も確認した。何も来ていないのを確認してホッとした。
新幹線に乗る頃には、すでに緊張と心配で胸が張り裂けそうだった。ハルナが一人で保育園で頑張っているのか、夜はちゃんと寝ているのか、寂しくないか。俺は仕事も大事だけど、やっぱりパパとしての責任が一番だ。
宿泊先のホテルに着いてからも、俺は頻繁に保育園や姉に連絡を入れた。姉は「大丈夫、ちゃんと見てるから」と優しい言葉をかけてくれたけど、それでも心配は消えなかった。
夜、仕事の合間に俺はビデオ通話をかけた。画面に映ったハルナは、保育園の姉の膝の上で笑っていた。
「パパー!」ハルナが手を振る。
「ハルナ、元気か?」俺は笑顔で話しかける。
「うん、だいじょうぶ!」元気いっぱいの返事に俺の胸は熱くなった。
姉も画面越しに「今日もよく頑張ってるよ」と言ってくれて安心した。
少し話しただけで、心が満たされた。どんなに離れていても、こうやって顔を見られるのは救いだ。
ビデオ通話を切ったあと、ホテルの窓から夜景を眺めながら俺は深く息をついた。日中の仕事の疲れよりも、ハルナのことを思う気持ちのほうがずっと重かった。普段は「俺」と呼ぶけど、ハルナの前では「パパ」。それが俺の新しい役割だ。
幼い彼女の成長を見守ることは、俺にとって何よりも大切なこと。保育園で泣いていないか、ちゃんとお昼寝できているか、友達と仲良くしているか。細かいことまで気にかけてしまう。でも、離れていればそれも叶わない。だからこそ、こうしてビデオ通話で顔を見るだけで安心できるのだ。
翌朝、目覚めはあまり良くなかった。昨夜の疲れが残りつつも、すぐに身支度を整えてホテルの朝食を摂った。携帯を見れば保育園からの連絡はなし。ハルナが元気に過ごしている証拠だとわかっていても、不安は消えなかった。
移動の新幹線の中でも、俺はついスマホを握りしめてしまう。姉がハルナを見てくれているのはありがたいが、やはり父親としての心配は消えない。目を閉じて彼女の小さな寝顔を思い出した。あの笑顔があるから頑張れるのだ。
家に帰ると姉がハルナを連れて出迎えてくれた。ハルナは「パパ!」と手を伸ばして駆け寄り、俺の胸に飛び込んできた。疲れも吹き飛ぶ瞬間だった。
「おかえり、パパ!」その声に、改めて自分の使命を感じる。仕事と育児の両立は決して簡単ではない。だけど、ハルナの笑顔があれば、俺は何度でも立ち上がれる。
夜、ハルナが寝たあと、俺はそっと彼女の寝顔を見つめた。これからもずっと「パパ」でいられるように、そして彼女の幸せを守り続けるために、俺はもっと強くならなければならない。
次の朝、保育園に行く準備をしながら、ハルナが「パパ、大好き!」と笑顔で言った。そんな言葉が、何よりの力になるのだ。