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35話 いつもの日常

35話 いつもの日常



東京の朝は、いつもより少し涼やかに始まった。連休明けの街はまだ休みモードの余韻を残しながらも、少しずつ活気を取り戻している。窓の外では自転車のベルの音が響き、通勤ラッシュの気配が遠くに漂っていた。


笹原祐介はリビングのテーブルで、手早く朝食を済ませていた。隣には三歳になったばかりの娘、ハルナが座っている。茶色のふわふわした髪が朝の光にきらめき、小さな手でヨーグルトのカップを持つ姿は愛おしさに満ちていた。


「ぱぱ、これ、あまいね!」


ハルナが嬉しそうに笑うと、祐介は自然と笑顔を返した。


「そうだな、ハルナは甘いものが好きだもんな」


今日からまた保育園が始まる。温泉旅行の楽しかった思い出を胸に、少しだけ成長した娘の姿を見送るのは、どこか寂しくもあり、そして誇らしくもあった。



食後、祐介はハルナの保育園の準備を手伝った。リュックに着替えやおやつを詰め込み、帽子をかぶらせる。ハルナは嬉しそうに「ぱぱ、いってきます!」と元気よく玄関を飛び出した。


「いってらっしゃい、ハルナ。気をつけてな」


祐介は扉の前で見送った。娘の小さな背中は、まるで新しい世界に挑む勇者のようだった。



その日の午後、祐介は会社にていつも通り仕事に励んだ。しかし、頭の片隅には気がかりなことがあった。連休明けで溜まった仕事の山は予想以上で、残業も避けられなさそうだった。


「今日も遅くなるかもしれないな……」


スマホで保育園の連絡帳をチェックしながら、祐介は心配そうにため息をついた。そんな彼の気持ちをよそに、ハルナは保育園で元気に友達と遊び、先生たちに笑顔を振りまいていることだろう。



夕方、仕事を終えて保育園へ向かうと、そこにはさやかの姿があった。今日も姉が迎えに来てくれていたのだ。


「お疲れ、ゆうすけ。今日は私が迎えに来たよ」


「ありがとう、さやか。助かるよ」


ハルナはさやかに抱きついて大喜びし、三人は帰路についた。帰り道の公園で、ハルナは自慢の話を始めた。


「きょうはね、みんなでおままごとしたの!ぱぱもきたらいいのに!」


その純真な言葉に、祐介は胸が熱くなった。どんなに忙しくても、家族の時間を大切にしなければと改めて思った。



家に戻ると、夕食の支度を始める祐介。さやかも手伝いながら、ハルナの話に耳を傾ける。家族が集うこの瞬間が、何よりも尊い。


「ぱぱ、またあしたもおしごと?」


「うん、でもできるだけ早く帰るからな」


そう言いながらも、祐介の目はどこか遠くを見つめていた。これからの毎日も、家族と共に歩んでいく決意を胸に。



夜、眠りにつく前のハルナは小さな声で言った。


「ぱぱ、だいすき」


その言葉は祐介の心にそっと染みわたり、疲れも不安も一瞬で吹き飛んだ。


「俺もだ、ハルナ」


彼は窓の外に広がる夜空を見上げながら、家族の幸せを祈った。

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