34話 温泉旅行4
34話 温泉旅行4
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朝の陽光が障子を淡く染める。旅館の一室、祐介は目を覚ますと隣の布団をそっと覗いた。ハルナの小さな胸が規則的に上下し、静かな寝息が聞こえてくる。長旅の疲れが癒えたのか、安心した表情で眠る娘を見て、祐介は自然と笑みがこぼれた。
「おはよう、ハルナ。よく眠れた?」
柔らかな声に、ハルナはうっすらと目を開け、ぽつりと呟く。
「ぱぱ……おはよう」
甘えた声はまだ寝ぼけているけれど、その響きが祐介の心を温かく包んだ。
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その日の朝食も、庭の見える大広間でゆったりと過ごした。さやかもようやく疲れがとれ、家族での温泉旅行の最後の朝を楽しんでいた。
「ぱぱ、さやかおねえちゃん、きょうもいっぱいあそぼうね」
ハルナの明るい声に、二人は笑顔で応えた。
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昼過ぎ、温泉旅館をチェックアウト。バスに揺られながら、ハルナは車窓から見える山や川に目を輝かせた。旅の終わりを惜しむかのように、祐介はカメラを取り出し、何枚も写真を撮った。
「帰ったらおじいちゃんとおばあちゃんにも見せようね」
そう話しかけると、ハルナは満面の笑みでうなずいた。
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帰路のバスの中、疲れてうとうとするハルナを見て、祐介とさやかはそれぞれに思いを巡らせていた。慌ただしい日常から離れ、家族の絆を深めた時間は、これからも大切に守っていきたいものだった。
「また来ようね、ハルナ」
「うん!ぱぱとおねえちゃんと」
そう約束し合い、バスは次第に東京の街へと近づいていった。