31話 温泉旅行1
第31話 温泉旅行1
ゴールデンウィークも折り返し。
東京の街はいつもより静かで、どこかのんびりとした空気が漂っていた。
「ぱぱ、もうすぐ着く?」
バスの窓際に座ったハルナが、ワクワクした表情で外を見つめる。
「そうだな、もう少しだよ。楽しみにしてたからな、ぱぱもわくわくだよ。」
ハルナは3歳とは思えないほど落ち着いて、でも目はキラキラしている。
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数週間前の夕方、二人でテレビを見ていた。
山間の温泉地が映る旅番組に、ハルナが声をあげた。
「ぱぱ、あそこ行ってみたい!」
湯気の立つ露天風呂、子どもも楽しめる温泉街の紹介に心を奪われたのだ。
「よし、ゴールデンウィークの半分で行こう。準備しような、ぱぱと一緒に。」
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そうして迎えた今日。
バスの揺れと新緑の風景に心を踊らせながら、二人の小さな旅が始まった。
ハルナは手に持った小さなぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、隣の「ぱぱ」に何度も笑いかける。
「はやくおふろ入りたいなあ、ぱぱ!」
祐介もそんなハルナの姿を見て、自然と笑みがこぼれた。
「もう少しだ。楽しみにしてろよ、ぱぱがちゃんと準備してるからな。」
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温泉地の空気は澄んでいて、自然の香りに包まれていた。
降りたバス停から歩き出すと、さわやかな風が二人の頬を撫でる。
「わあ、いいところだね、ぱぱ!」
ハルナは嬉しそうに跳ねるように歩き、祐介はその様子を温かく見守った。
バスを降りて旅館の玄関へ向かうと、そこには予想外の人物が待ち構えていた。
「さやか……!?」
祐介が声をあげると、姉はにやりと笑いながら腕を組んでいた。
「ずるいよね、ぱぱとハルナだけで温泉旅行なんて。私も一緒に来ちゃった!」
ハルナは姉の登場に少し驚いたが、すぐににっこり笑って手を振る。
「さやかおねえちゃん!」
「やーん、かわいいなあ」と姉はハルナを抱きしめようと手を伸ばすが、祐介は苦笑いで制した。
「まあ、せっかくだし…一緒に楽しもうか、さやか。」
そんなわけで、温泉旅行は急遽三人での旅になったのだった。