27話 高知帰省2日目(姉付き)
第27話:高知帰省2日目(姉付き)
朝の宿毛は、まだ少し涼やかな風が吹いていた。
鳥のさえずりと、潮の匂い。東京では味わえない静けさの中、ハルナはふと目を覚ました。
「……おはよう、パパ」
「おはよ、ハルナ。よく眠れたか?」
祐介はすでに布団の上であぐらをかき、スマホで天気をチェックしていた。
姉は隣の部屋で爆睡中。祖父母は早起きらしく、すでに庭で水やりをしているようだった。
「きょうはなにするの?」
「今日はな……じいちゃんと畑行って、昼は港に散歩して、夕方はカニ釣りしよっか」
「やるやるー!! ハルナ、にわのおやさい、とる!!」
裏庭には小さな畑が広がっていた。
トマト、ピーマン、ナス、そしてハルナの好きなキュウリまである。
「ほれ、これがキュウリ。触ってごらん」
「つめたい! ちくちくしてる!」
祖父が笑いながら優しく手を添え、ハルナに小さな収穫バサミを持たせる。
「こうやってな、茎のとこ、ちょきんと」
「……ちょきんっ!!」
「よし、うまい! 初めてとは思えん!」
「とったーーー!!」
収穫に成功したハルナはぴょんと飛び跳ね、うれしそうにキュウリを掲げた。
「おじいちゃん、またつぎのも!」
「おうよ、おじいちゃんの背中についてこい!」
畑を歩くハルナと祖父を、祐介と父が少し離れて眺めていた。
「……いいもんだな。こういうの」
「……おまんの小さい頃とそっくりじゃ。そうや、ワシが教えたんや」
「俺、子どもの頃、畑嫌いだったろ」
「じゃき、逆によう覚えちゅう」
昼食後は、港へと散歩に出かけた。
潮の香り、漁船の音、波のきらめき。
ハルナは初めて見る風景に、目をまんまるにしていた。
「うみ! うみー!! きらきらしてるー!!」
「わはは、こらハルナ、走っちゃあぶない!」
「さやかー! あれカニのあなじゃない!?」
「あれはたぶん、ただの排水口です」
「残念っ」
祐介の父と祖父が浜辺でカニの巣を探し始め、ハルナもスコップを持って参戦。
姉・さやかはどこかでアイスを買い込んで戻ってきた。
「ほら、あんたの好きな“ひまわりアイス”。あと、ハルナちゃんにはアンパンマンのやつ」
「アイスーーー!! ありがとぉ!」
「……かわいい」
「うっかり声出たな姉ちゃん」
「なにも言ってません」
夕方。
潮が引き始めた頃、堤防の近くで“カニ釣り大会”が始まった。
エサはスルメ、釣り糸の代わりにタコ糸。手作り感満載の道具で、真剣な大人たちと、楽しげなハルナ。
「つれたー!! みてみてー! カニつれたー!!」
「うおおおッ!! カニキターーーー!!」
「……俺、なんか子ども時代取り戻してる気がする……」
「ははは、ワシの勝ちやな。今日は三匹じゃ」
夕焼けが港を赤く染める中、家族全員が笑っていた。
夜。
「……きょうも、すっごくたのしかった」
布団の中で、ハルナがぽそりと呟く。
「パパ、ずっと、ここにすんでてもいい?」
「……んー、それはまた今度な。東京も、帰ったら楽しいことあるぞ」
「ほんと?」
「うん、ほんと。けど……ここは、パパの大事な場所だよ」
「ふふっ。ハルナの、だいじなばしょにもする」
──小さな手が、祐介の手をぎゅっと握る。
あたたかい空気に包まれて、夜は静かに更けていった。