26話 高知帰省1日目(姉付き)
第26話:高知帰省1日目(姉付き)
東京から飛行機を乗り継ぎ、高知龍馬空港へ到着。そこからレンタカーでさらに2時間以上、海岸線をなぞるように車は走る。
ハルナが初めて訪れた「パパのふるさと」は、高知県宿毛市――海と山に囲まれたのどかな港町だった。
「うわー! おおきいおやま! おさかな! すごい!」
「おー、ずっと窓から離れないな。興奮してるなあ」
「……懐かしい風景。小さい頃は、この田んぼに落ちて泣いたっけねぇ」
助手席の姉が遠くを見ながら呟くと、祐介はチラと目を向けた。
「それ俺だ。お前じゃない」
「……そうだったっけ?」
実家に到着すると、玄関からいそいそと駆け寄ってきたのは──祐介の両親、そして祖父母。
「おー! 帰ってきたか!」
「久しぶりやねぇ、ゆうすけ……あら、この子が!」
「……はじめまして、ハルナです!」
ハルナはきっちり深々とお辞儀をした。やや緊張している様子だが、事前に“はじめましての練習”をしていたのが功を奏した。
「しっかりしちゅう!」「ええ子や!」「おばあちゃん、いきなり泣きそうや!」
祖母が目頭を拭い、母が「今夜はごちそうやき」と宣言。祖父はハルナに「あとで一緒に裏の畑、見に行こうの」と優しく声をかけた。
──そして夜。
高知のカツオ料理が、ずらりと並んだ食卓が広がる。
「これが……かつお?」
「そう。パパのふるさとの味だぞ。今日は“藁焼きカツオのたたき”だ」
台所から湯気とともに現れたのは、香ばしい香りをまとったカツオの塊。表面はほんのり焦げて、刻みネギとにんにくが山盛りにのっている。
「たべる! たべる! ハルナ、いちばんにたべる!!」
「待て、落ち着け、まず手を合わせて!」
「いただきまーす!!」
一口、口に運んだその瞬間──
「……おいしいーーーーー!!!!!」
思わず立ち上がって、両手をぶんぶんと振りながら飛び跳ねるハルナ。
「かつお! かつおー!! おいしすぎてしぬー!!」
あまりのテンションに、食卓の全員が一瞬、フリーズ。
その後、祐介・父・祖父が一斉に──
「「「……ッッ!! G・J!!!」」」
「ぬぅぅおおおおお……ッッ、可愛すぎるぅぅぅぅ!!!」
「あかん……鼻血が……!!!」
と三人揃って鼻から赤い液体を噴出し、ガッツポーズ。
ハルナは「なにそれー!?」ときょとんとしていたが……
「……コラー!!」
「ほんまにアホな男ばっかりやわ!!」
「だらしない顔してんと箸置いて!!」
怒涛のように立ち上がった祖母・母・姉が三人にお玉を振り下ろした。
「「「あだだだだッ!?!?!?」」」
──その夜。
宿毛の祐介実家では、笑い声とカツオの香りが絶えなかった。
就寝前、布団の中で。
「……パパのふるさと、だいすき」
「……ありがとな。来てくれて、嬉しいよ」
「うん……明日もたくさん、たのしむ!」
──初めての帰省は、最高の一日目となった。