25話初めてのショッピングモール
第25話:初めてのショッピングモール
「パパー! これなあに?」
「それは……たこ焼きだな。食べてみるか?」
日曜の昼下がり、祐介とハルナは、郊外の大型ショッピングモールにいた。
おむつが不要になってから初めての“長時間外出”だ。祐介にとっては、ある意味“戦場”だった。
子連れに優しい造りではあっても、人混みの中、はぐれそうになる不安と、迷子のリスク。
それでもハルナは、目を輝かせてあちこちに興味津々だった。
「パパー! こっちこっち!」
「あ、ちょ……走るなってば!」
ベビー・キッズコーナーで、可愛い春物のワンピースを見つけたハルナが、ハンガーごと抱えて振り返る。
「ねえ、パパ! これ、かわいい?」
「……あー……めちゃくちゃ、かわいいな」
「えへへ」
サイズを確認して、レジに向かおうとすると──
「ふむふむ。うちの姪は何を着ても似合うな」
「!? ……って、え?」
ふと振り返ると、後ろに──姉がいた。
黒のジャケットにパンツスタイル、どう見てもモールに来る格好じゃない。
「なんで……」
「ちょっと。今日が“二人きりでお出かけデー”だってことくらい、わたしの情報網をなめないでよ?」
「情報網て……」
「あ、でも安心して? 昼ごはんの時間は避けたし、ちゃんとスニーキングミッションだったから」
「普通に声かけろや……」
その後は、三人でフードコートへ。
ハルナは子ども用ラーメンとポテトにご満悦で、姉はその様子をスマホで100枚近く撮った。
祐介は、もう抗うことすらやめた。
「……それでさ」
食後、姉がストローでアイスカフェラテを啜りながら言った。
「来週からゴールデンウィークでしょ? ハルナも保育園ないし、あんたも休みなんでしょ?」
「まあ……有給調整したからな。何日かは」
「なら決まりね。高知、帰省するわよ。おじいちゃんおばあちゃんも待ってるし」
「……“する”って、俺に確認は……?」
「え、今したじゃない」
祐介は深いため息をついた。ハルナはキョトンとしている。
「こうち……って?」
「パパのふるさとだよ。山と川と、おじいちゃんとおばあちゃんと、あとカツオ!」
「かつお!? おさかな!? たべる!!」
「はえーな反応……」
姉はにやりと笑った。
「よし、決まり。じゃ、スケジュール調整と交通手配と荷造りとお土産リスト、ぜんぶよろしく〜。あたしは観光ルート調べとくから」
「まてこら」
こうして──
祐介とハルナ、そして姉による高知帰省が決定したのだった。