22話 初めてのお泊まり保育(ハルナ視点)
第22話:初めてのお泊まり保育(ハルナ視点)
今日は、特別な日──
保育園の先生が言っていた。“お泊まりほいく”っていうイベント。
ハルナは少しだけドキドキしていた。
「パパと、ねないの……?」
朝、登園のときにそう聞いたら、パパは少し困った顔で笑った。
「ちょっとだけ我慢してみようか? 大丈夫。ハルナならきっと楽しめるさ」
「……うん」
その時は、そう頷いた。
お昼ごはんのあと、先生たちが布団をどんどん敷いていく。
お友達のユウくんとミナちゃんは「わーい!」と叫んで跳ねていた。
ハルナも最初は楽しくて、一緒に枕投げをしたり、バスタオルで“忍者ごっこ”をしたりした。
でも、夕方になると、ちょっとだけ胸がキュッとした。
(パパ、なにしてるかな……)
──保育園のごはんはカレーライスだった。
大きなお鍋から、先生がよそってくれた。
「ハルナちゃん、たくさんたべてえらいね~」
先生がほめてくれて、うれしかったけど……なんだか、ちょっとだけさびしかった。
(パパのカレー、たべたい……)
お友達と食べて、ちゃんとおかわりもしたけど、ほんの少しだけ“いつもの味”が恋しくなった。
歯をみがいて、パジャマに着替えて、先生が絵本を読んでくれた。
──そのときだった。
「パパ……」
気がつけば、声が出ていた。
ふとんに入って、電気が少し暗くなって、みんなの寝息が聞こえる中──
ぽろぽろと、涙がこぼれた。
先生がそっとやってきて、ハルナの頭をなでた。
「ハルナちゃん、さみしい?」
「うん……パパ、いないと、ねれない……」
「そっか。じゃあ、パパと一緒にねてるときのこと、思い出してみようか」
先生の声はふわふわしてて、なんだか雲みたいだった。
ハルナは目を閉じて、ぎゅっと枕を抱きしめる。
──パパの匂い。
──ベッドで絵本を読んでくれる声。
──おやすみって、なでてくれる手。
(……パパ)
ぎゅっと目を閉じる。
夢の中で、会えたらいいな。
朝──
「おはようございまーす!」
先生の声で目が覚めた。
ハルナはぼんやり起き上がって、少しだけ空を見た。
窓の外は晴れていて、鳥がぴーちく鳴いていた。
「あれ? パパがいない……」
昨日の夜より、ずっと寂しくなかった。
「……がんばれた!」
そう言って、自分の胸をトンっと叩いた。
朝ごはんを食べて、荷物をまとめて、帰る時間になった。
保育園の門のところに──
「ハルナーッ!!」
パパが、ちょっと涙ぐんだ顔で走ってきた。
「パパー!!」
駆け寄って、ぎゅっと抱きついた。
「よくがんばったな……さみしかったか?」
「……ううん、でも、ちょっとだけ」
ハルナは笑って、指でちょっとだけを示した。
パパはその笑顔を見て、なでなでしてくれた。
「えらい、えらいぞ、ハルナ」
その時、なんだか胸がぽかぽかした。
──“がんばる”って、すこしだけさみしいけど、すこしだけつよくなれるんだ。
ハルナは、そう思った。