表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/93

19話 初めての遠足(保護者同伴)

第19話:初めての遠足(保護者同伴)


「ハルナ、準備できたかー?」


「うんっ!」


元気よく玄関に飛び出してきたハルナは、リュックを背負い、いつもの保育園用とは違う“ちょっとおしゃれな服”に身を包んでいた。祐介が前の週末に買ったばかりの、淡いピンクのシャツと、フリルのついたスカート。


「わー……ほんとにお姫さまだな、ハルナ」


「えへへ……!」


照れながらくるりと回るその姿に、祐介は思わずスマホを取り出し、連写。

しかしすぐにハルナが手を伸ばしてきて──


「パパ、写真ばっか撮ってないで、いこー!」


「はいはい、すんませんっ」


今日は、ハルナの通う保育園で“親子遠足”が開催される日だ。

天気は快晴、行き先は近くの大きな公園。祐介は会社を休み、朝から弁当を用意し、水筒にお茶を入れ、リュックを背負って──完全に“父親装備”で臨んでいた。




集合場所には、すでに親子連れが集まっていた。

母親たちのグループに、チラホラ混ざる父親の姿。保育士たちが名簿と人数を確認している。


「あら~笹原さん、おはようございます!」


「おはようございます。今日もお世話になります」


保育士のひとり──園で特に人気のある、ほんわかした雰囲気の若い女性がにっこりと微笑む。


「ハルナちゃん、かわいいお洋服ですね~!」


「えへっ、パパといっしょに選んだの!」


「いいですね~、仲良しなんですね」


その言葉に、周囲の母親たちが「……ふうん」「独身?」「イケメン?」「ちゃんとしてる」など、ささやきを交わしているのが聞こえた。視線が微妙に刺さっている。


「(……なんか、場違い感すごい)」


祐介はひとり、額に汗をかく。




バス移動のあと、大きな公園に到着。

保育士の誘導のもと、親子でのウォークラリーやレクリエーションが始まった。


「さぁ、ハルナ! 地図もらったな! 次はこのポイントだ!」


「うんっ! あっちだよ、パパ!」


地図を広げ、チェックポイントを探す。

途中、ハルナが転びそうになれば手を取り、ベンチで水分補給をすれば頭をなでてやり──まるで、冒険の旅に出ているようだった。


周囲の子どもたちも、祐介のテンションに乗せられ、自然と集まってくる。


「ハルナちゃんのパパ、やさしい~!」


「なんかかっこいい~!」


「うちのパパ、あんなに走らないよー!」


と、いつの間にか“子ども人気”が爆発し──その結果、母親たちからの視線はさらに鋭くなる。


「(……このままじゃ、社会的に死ぬ……!)」


祐介は冷や汗をかきながら、なんとか子どもたちと一緒に遊びきった。




お昼は、シートを広げてのランチタイム。

祐介が作った弁当を、ハルナは嬉しそうに開く。


「パパ、おにぎり、くまさん!」


「がんばったぞー。耳が取れかけたけど」


「たべる!」


もぐもぐと口に入れたハルナが、幸せそうに頷いた。


「おいしいっ」


その一言だけで、徹夜で握ったかいがあった。




午後は自由時間。

公園内のアスレチックや小さな動物園、噴水広場などで、ハルナは思いきりはしゃいでいた。


祐介はその背中を、少し離れたベンチから見守っていた。


「……楽しそうだなぁ、ほんと」


こうして一緒に過ごせる時間が、どれだけ貴重なものか。

祐介の胸の奥に、じんわりと温かい感情が広がっていく。


「パパぁー! みてぇー!」


遠くから、手を振るハルナの声が聞こえる。


「はいはい、ちゃんと見てるぞー!」


それだけで、今日一日が完璧だったと思えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ