19話 初めての遠足(保護者同伴)
第19話:初めての遠足(保護者同伴)
「ハルナ、準備できたかー?」
「うんっ!」
元気よく玄関に飛び出してきたハルナは、リュックを背負い、いつもの保育園用とは違う“ちょっとおしゃれな服”に身を包んでいた。祐介が前の週末に買ったばかりの、淡いピンクのシャツと、フリルのついたスカート。
「わー……ほんとにお姫さまだな、ハルナ」
「えへへ……!」
照れながらくるりと回るその姿に、祐介は思わずスマホを取り出し、連写。
しかしすぐにハルナが手を伸ばしてきて──
「パパ、写真ばっか撮ってないで、いこー!」
「はいはい、すんませんっ」
今日は、ハルナの通う保育園で“親子遠足”が開催される日だ。
天気は快晴、行き先は近くの大きな公園。祐介は会社を休み、朝から弁当を用意し、水筒にお茶を入れ、リュックを背負って──完全に“父親装備”で臨んでいた。
集合場所には、すでに親子連れが集まっていた。
母親たちのグループに、チラホラ混ざる父親の姿。保育士たちが名簿と人数を確認している。
「あら~笹原さん、おはようございます!」
「おはようございます。今日もお世話になります」
保育士のひとり──園で特に人気のある、ほんわかした雰囲気の若い女性がにっこりと微笑む。
「ハルナちゃん、かわいいお洋服ですね~!」
「えへっ、パパといっしょに選んだの!」
「いいですね~、仲良しなんですね」
その言葉に、周囲の母親たちが「……ふうん」「独身?」「イケメン?」「ちゃんとしてる」など、ささやきを交わしているのが聞こえた。視線が微妙に刺さっている。
「(……なんか、場違い感すごい)」
祐介はひとり、額に汗をかく。
バス移動のあと、大きな公園に到着。
保育士の誘導のもと、親子でのウォークラリーやレクリエーションが始まった。
「さぁ、ハルナ! 地図もらったな! 次はこのポイントだ!」
「うんっ! あっちだよ、パパ!」
地図を広げ、チェックポイントを探す。
途中、ハルナが転びそうになれば手を取り、ベンチで水分補給をすれば頭をなでてやり──まるで、冒険の旅に出ているようだった。
周囲の子どもたちも、祐介のテンションに乗せられ、自然と集まってくる。
「ハルナちゃんのパパ、やさしい~!」
「なんかかっこいい~!」
「うちのパパ、あんなに走らないよー!」
と、いつの間にか“子ども人気”が爆発し──その結果、母親たちからの視線はさらに鋭くなる。
「(……このままじゃ、社会的に死ぬ……!)」
祐介は冷や汗をかきながら、なんとか子どもたちと一緒に遊びきった。
お昼は、シートを広げてのランチタイム。
祐介が作った弁当を、ハルナは嬉しそうに開く。
「パパ、おにぎり、くまさん!」
「がんばったぞー。耳が取れかけたけど」
「たべる!」
もぐもぐと口に入れたハルナが、幸せそうに頷いた。
「おいしいっ」
その一言だけで、徹夜で握ったかいがあった。
午後は自由時間。
公園内のアスレチックや小さな動物園、噴水広場などで、ハルナは思いきりはしゃいでいた。
祐介はその背中を、少し離れたベンチから見守っていた。
「……楽しそうだなぁ、ほんと」
こうして一緒に過ごせる時間が、どれだけ貴重なものか。
祐介の胸の奥に、じんわりと温かい感情が広がっていく。
「パパぁー! みてぇー!」
遠くから、手を振るハルナの声が聞こえる。
「はいはい、ちゃんと見てるぞー!」
それだけで、今日一日が完璧だったと思えた。