15話 親、祖父母、高知へ帰る/初めての外食
第15話:親、祖父母、高知へ帰る/初めての外食
朝の陽ざしがやわらかく部屋に差し込み、目を覚ました祐介は隣を見ると、すやすやと眠るハルナの小さな寝顔があった。茶色の髪が枕元にふんわりと広がり、まるで小さな妖精のようだ。
「今日はみんなが帰る日か……」
ふと思いながら、祐介は静かに布団を抜け出した。久々の休日、家族と過ごした時間があまりにも濃密で、まだ夢の中の出来事のように感じていた。
リビングに向かうと、すでに母と祖父母が荷物の整理を始めていた。祖父は新聞を片手に、祖母は手際よくお茶を淹れている。母はハルナの着替えやおもちゃをまとめている。
「祐介、朝ごはんはみんなで外に食べに行こうかと思ってるの。久しぶりにゆっくりできるから」
母の言葉に祐介は軽く頷いた。ハルナもまだ眠そうな目をこすりながら、期待を隠せない様子だ。
その日は近くのファミリーレストランに足を運んだ。ハルナにとっては初めての外食体験であり、普段とは違う雰囲気に少し緊張した面持ちだった。
「メニューは何にする?」祐介が優しく尋ねると、ハルナは目を輝かせて「パンケーキ!」と答えた。
テーブルに運ばれてきたふわふわのパンケーキに、ハルナは目を丸くしながらフォークを手に取る。
「おいしい?」
「うん!」
家族みんなの笑顔がそこにあった。
しかし、祐介の心の中にはこれから始まる日常の変化が少しだけ不安として芽生え始めていた。
朝食を終え、祖父母や母は帰り支度を始めていた。
ハルナはまだパンケーキの甘さが口に残っているのか、ふわふわのまどろみの中にいた。
「ハルナ、またすぐ遊びにおいでね」と祖母が優しく頭を撫でると、ハルナは小さく頷いた。
「うん。また来るね」
祐介は母に目配せをすると、母も微笑みながら「今回はゆっくり高知で休んでね」と言った。
「ありがとうございます。お世話になりました」と祐介。
祖父は満面の笑みで「またな、高知で会おうや」と背中を叩いた。
車が見えなくなるまで見送った後、祐介は窓辺で深呼吸をした。
静かな部屋に、ハルナの笑顔がまだ残っているように感じていた。
「……さあ、また頑張ろうな、ハルナ」
彼の心に、父としての覚悟がじわりと広がっていった。