12話 遊園地ー水族館1
第12話:遊園地―水族館1
朝から快晴だった。
数日前に急遽決まったこの計画は、祐介の母・美津代の「せっかく家族が揃ったんやき、みんなでどっか行こ!」という一言で動き出したものだった。
家族会議の結果、行き先は都内の大型遊園地と水族館の複合施設に決定。祖父母も張り切って宿をとり、父は休暇を申請し、姉・真希は誰にも相談せずに有給を使っていた。完全武装で。
「ハルナ、準備できた?」
「うんっ! くまさんもいっしょだよ!」
ハルナはぬいぐるみが詰まったリュックを背負い、帽子をかぶって、全力の笑顔で玄関に現れた。お気に入りの白いワンピースには、小さな花柄の刺繍が施されている。
「……かわいすぎるな」
「デレデレしてないで、ほら、早く靴履かせてあげなさいよ、パパさん」
「はいはい……って、誰が“パパさん”だ」
姉の突っ込みに苦笑しながら、祐介はハルナの靴を履かせる。こうして一行は、ワゴン車に分乗して出発した。
到着したのは、某有名テーマパークではないが、都内最大級のファミリー向け遊園地。小さな子ども向けのエリアも多く、ハルナの年齢でも楽しめるアトラクションが充実していた。
「まずは観覧車じゃな!」
祖母の一声で、女性陣(祖母・母・姉・ハルナ)が最初に観覧車へ向かい、男性陣(祖父・父・祐介)はその間、ベンチで休憩することになった。
ベンチの影に座ると、祐介は汗をぬぐいながら飲み物を一口飲んだ。
「……しかし、お父さん。急に思い立って家族旅行って、なかなかできるもんじゃないよな」
「孫パワーってのはすごいもんやで」
父がそう言って笑ったとき、ふと何か思い出したように祐介を見た。
「なぁ祐介。もし……ハルナに、将来彼氏とかできたら、どうすんの?」
唐突な問いに、祐介は口をつぐみ、観覧車の方を見つめた。
そこには、くるくる笑いながら窓を指差すハルナの姿があった。
「…………殺す」
即答だった。
「即答!? 笑顔で言うことか!? いや気持ちは分かるけど!」
「いやもう、本能レベルで拒絶するっていうか……あんな小さい手で恋人とか、想像できん」
「まあな……でもその時が来るかもしれんぞ?」
「だから、来る前に抹殺するんだってば……合法の範囲内で」
「範囲内、か……(信用できん)」
その時、祖父がジュースのストローをくるくる回しながら、ふっと呟いた。
「そういや……おまんのときは、わしが殴ったなぁ」
「え、何の話?」
「おまんが『結婚したい』っち言うたときの話や。わしが『男として責任とれるんか』っち詰めて、取っ組み合いになったんじゃ」
「取っ組み合い!? リアル親子喧嘩かよ!」
「ばあさんが止めに入らんかったら、今頃わしら片方は義眼やったかもしれんな……ははは」
「やめてくれ、そのテンションで語る話じゃない……」
祐介が頭を抱えると、父がニヤッと笑いながら返した。
「じゃあ逆に、真希に彼氏ができたらどうする?」
「ん? ……湾に沈める」
また即答だった。
「え、怖っ!?」
「真希が男に騙されるとか、ありえそうやろ。絶対許さん。生きて帰れんようにしたる。それにあの性格を理解できるやつはおかしい奴だからの」
「親ってこえぇ……」
「いっそ男なら、祐介、おまえが守ってやれ」
「なんで俺が!?」
そこへ、観覧車から降りてきた一行が戻ってきた。
ハルナは顔を真っ赤にしながら、
「う、うごいたー……たかかったぁ……でも、きれいだったぁ」
と感想を述べ、祖母は「はるなちゃんはえらかったねぇ!」と抱きしめた。母と姉はニコニコと笑顔。
「ん? 何の話してたの?」
真希が尋ねる。
「いや……家族の将来設計について」
「ふーん? まあ、私にも素敵な人が現れるかもしれないわよ?」
「湾に沈める」
「即答すぎるわバカ親!!!」
と、全力で殴りに来た姉を、祐介は素早くかわした。
ハルナは「けんかー?」と小首を傾げたが、すぐに笑顔になって姉の手を取った。
「つぎは、あれ、のりたい!」
そう言って指差したのは、小さな汽車のアトラクションだった。
結局、その後もメリーゴーランドやパレード、キャラクターグリーティングなどを巡りながら、ハルナの笑顔が絶え間なく続いた。
そして、午後の後半――
次なる目的地、水族館エリアへと家族は移動を開始する。