day3 〜結婚式〜
目が覚めると白い衣装を身に纏った姿が目に入った。
「できました、とてもお綺麗ですね!」
憧れのウェディングドレス、だった。
綺麗にセットされたメイクやヘアセット。
今日は…日付を確認するまでもなかった。
結婚式だ。
昨日のこともあり気が乗らなかった。
ため息をつくと扉のノック音が聞こえた。
振り返るとタキシード姿の彼が立っていた。
「あ、那智…準備お疲れ様。」
彼は少し目線を外して淡々と話す。
彼も準備がいろいろあったのだろう、少し疲れた表情だ。
「そっちこそお疲れ様。なんて、まだ何も始まってないのに、ね?」
その時ノック音なく扉が勢いよく開く。
「たぁーくん!もぉ新郎控え室にいないから探したのよ…まあほんと似合ってるわ!ほんとかっこいい!私の可愛い一人息子が、こーんな何もない女に…色仕掛けよ、このメスネコ。」
いつも言われている言葉なのに今日が特別な日だからか義母の言葉が胸に刺さる。
息を吸ってるはずなのにコルセットのせいか肺が膨らまない感覚により呼吸が苦しい、吐き気がする。何も言い返すことができなかった。
彼はため息をつくとそそくさと部屋から出ていった。
義母は私を睨む。
「ほんとたぁーくんが優しいから…もっといい女なんているのに。あなたとの結婚は私は一度も認めてませんから。あなたみたいな女はいつか捨てられるんですから。」
捨て台詞を吐くと義母は息子を追いかけていく。扉が勢いよく閉まる。
義母がいなくなったのに息は苦しいままだった。その場でうずくまり胸の辺りを押さえる。
「だ、大丈夫ですか?」
スタッフの人が焦った顔でそばに駆け寄る。
「気にしないでください…緊張しただけですから。」
そう苦笑いを浮かべるも冷や汗が止まらなかった。
(私がダメだから?だから浮気されて離婚して…私は何も取り柄がないの?)
幸せな時間なはずなのに憂鬱な時間が過ぎる。義母や彼の親戚からの嫌な視線を感じる。失敗は許さないと言いたげな雰囲気に再び吐き気をもよおす。
誓いを済ませ披露宴と移る。
自分の親戚や職場の人、友達から祝福の言葉が溢れる。その瞬間だけは心が安らいだ。
「なっちゃん」
振り返ると祖父が酸素ボンベを携え、祖母の押す車椅子に乗ってそばによってきた。
「あ、え?おじいちゃん!?来てくれたんだ!」
この頃は確か何度も入退院を繰り返していた。そして…。
涙目になりそうなのを堪える。
祖父はいつものようにお日様のような笑顔で手を差し伸べる。
その手を取ると健常者と変わらないほどの握力で上下に腕を振る。
「披露宴からですまんなぁ。なっちゃんは変わらんなぁ。べっぴんさんじゃ。」
「おじいちゃんこそ!元気で…よかった。」
「当たり前じゃ、お前の幸せな姿を見ずに死ねるものか。」
祖父はニカッと歯を見せる。
その表情を見ると胸の奥が熱くなり目元も熱くなる。
(おじいちゃんは…おじいちゃんは…)
腕を振り返すと祖父は話し始める。
「なっちゃん、辛いことがあったらひとりで抱え込んじゃダメじゃぞ?」
「え?」
腕を止め祖父の顔を見上げると祖父は優しい顔をしていた。全てを見透かすような。
「人生、辛いことの方が多いかもしれん。1人で解決できることは少ないかもしれん。そうなったら周りに頼るんじゃぞ?1人でわからんことは違う人に意見を求めることも大切じゃ。なっちゃんはこれから旦那さんと歩んでいくんじゃから2人で乗り越えていけばええんじゃ。」
「2人…」
祖父は再びニカッとわらう。
「困ったらいつでもじぃやばぁに相談したらええ。わしらは可愛い孫の味方じゃからな。」
「おじいちゃんも……」
ゆっくり息を吸って祖父に伝える。
「おじいちゃんも無理はしないで。おばあちゃんいない時はきちんと看護師さんに頼るんだよ。あとお薬はちゃんと飲むんだよ。」
「ははっ、わかっとるわい。」
セットしてる髪を優しく撫でてくれた。
披露宴は終わり彼を探して2次会に行こうとする。
すると義母と彼の従姉妹と会う。
「あ、えっと、今日は…」
「お礼も言えないわけ?!これだから片親は、はぁ。」
従姉妹の威圧的な声に手を握りしめる。
「ほんっとなんでこんな子がたぁーくんと…」
「まあまあ…いつか目が覚める時が来るよ。」
「そうよね…ほんとそれ以外は完璧な息子なのに…」
「ドレスも似合ってないし食事も冷凍の味がするしほんとどれもクオリティ低いものばっかりよ。」
「どうせたぁーくんが払うのにケチなのよこの女は。」
「そ、そんなことないです!彼と2人で相談して決めて…」
思わず口を挟んだ瞬間、義母の右手が挙がったかと思うと視界が廊下の壁で埋め尽くされる。左頬がジンジンとする。
一瞬のことでビンタされたことに気づかなかった。
「そんなことないでしょ!?たぁーくんがセンス悪いわけないでしょ?」
義母の鼻息は荒い。
「調子に乗るんじゃないわよ。」
従姉妹に一瞥される。
ドスドスと足音が離れていく。
2人がいなくなってもその場から動けずにいた。
家に着くとすぐにベッドに横になった。
「那智…疲れた?」
「あ、うん…やっぱ楽しくても疲れるね。」
ネクタイを外す彼が尋ねる。
「那智…今日母さんや美弥ねぇちゃんが…」
「ごめん眠すぎるから先寝るね。」
これ以上義母や彼の親戚の話は聞きたくなかった。
彼もこれ以上しつこく話すことはなかった。
左頬はいつまでもジンジンと熱を帯び続けていた。
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せっかくの晴れ舞台でも些細なきっかけで残念になることありますよね。特に女性にとっては憧れでもある舞台……皆さんは素敵な式にしてください!後悔のないよう!!




