人としての正しさを②
彼女たちが去ってからも、間を置かずに次々と子どもたちの家族が迎えにやってきた。
そしてレキたちはその再会の度に、たくさんの感謝の言葉をもらう。
やがて最後に残った少年も両親に迎えられ、日が暮れかかる頃にはようやく全ての子どもたちが家族の元へと帰ることができた。
「ふーっ、これでやっと一安心ネ」
三人だけになった厩舎の前で、カモリが大きく背伸びをした。
「そうねぇ、色々あったけど子どもたちがみんな無事に帰れてよかったわ」
「それも二人のおかげヨ! ルキア、レキ、ありがとうネ!」
カモリはニッコリと二人に笑いかける。
もしあの時エルフの店でレキたちに出会えていなければ、きっと子どもたちを救うことはできなかっただろう。
「さて、大仕事も終わったしワタシは酒でも飲みに行くヨ!」
「ええ、それじゃあまたギルドでね」
そうしてカモリも、楽しげな足取りで街の通りへと消えていった。
「どうしたの? レキちゃん。なんだかボーっとしてるみたい」
ルキアがレキの肩を軽く叩く。
彼女の言うように、レキはずっとどこか上の空だった。それはきっと、レキの心のなかに渦巻いている感情を整理する必要があったからだろう。
「ルキアさん……。私、この世界に来る前はずっとやりたいこともないままで生きていたんです。それはここに来て色々な力を手に入れてからも、実はあんまり変わってなくて――」
こんなことを話しても、きっとルキアを困らせてしまうだけだろう。それでもレキは誰かに聞いてもらわずにはいられなかった。
「でも、セリナさんたちを助けたことをルキアさんやアリオスさんに感謝されて、それから病院でもリーネちゃんにも感謝してもらったり……。それにさっきも子どもたちや家族のみなさんから、たくさんありがとうって言ってもらえて――なんか、そういうのって、いいなって」
ルキアは穏やかな表情のまま、黙ってレキの話を聞いている。
「まだ何をどうすればいいかはわからないんですけど……。もしかして、自分のやりたいことってこういうことなのかなって、そう思って……」
まだ整理し切れていない自分の気持ちを、レキは心に浮かぶままに話した。
そんなレキに、ルキアが優しく微笑みかける。
「――レキちゃんがこれから何をしたらいいのかは、私にもわからないわ。でもねぇ、レキちゃんがそんなふうに考えられるのは、きっとレキちゃんが人として正しい心を持っているからじゃないかな。それは間違いなく誇っていいことだと私は思うわぁ」
ルキアの言葉にレキは目を丸くする。
「私が――正しい心を……?」
「だからね、そんなに難しく考えなくてもいいと思うの。これからもレキちゃんが正しいと思えるように行動すれば、それはきっと今みたいにたくさんの人を幸せにしてあげられるから」
己の快楽のためならば、人が死ぬことになっても構わないというような最低な人間。レキは今まで自分のことをそんなふうに考えていた。
そしてレキには自分の中の忌むべき衝動を否定することはどうしてもできない。それに従うならば、この世界で陽の当たる道を歩むことはないのだと覚悟していた。
それでももし本当に自分の中に正しい心と呼べるものがあるならば、あるいはその衝動を正しい方向に導くこともできるのではないだろうか。こうやって人に感謝され、愛されるような生き方もできるのではないだろうか。
レキの歩むべき道が、明るい光で照らされたような気がした。