鮮血の祭壇①
「ワタシが引き受けたクエストは、行方不明になった子どもの捜索だったヨ!」
馬を目的地まで走らせながら、カモリが今起こっている事件について話し始めた。
行方がわからなくなっているのは、マイナサウラに住む七~八歳の少年少女が四人。彼らが消息を絶ったのはいずれも昨日の午後のことで、家族が目を離したわずかの時間に姿を消してしまっていたとのことだ。
ギルドへの捜索依頼は、それぞれの家族から別々に出されていた。しかしギルドはそれらの共通点から同一犯による組織的な犯行を疑い、単一の捜索クエストとして発行したらしい。
そしてクエストを受注したカモリは、捜索を進めるうちに今向かっている遺跡に子どもを連れた不審な集団が向かったとの目撃情報を得たそうだ。
「それ聞いて、ワタシ人身売買の裏取引と思ったヨ。それですぐ一人で遺跡向かったネ。その時は売人ドモを皆殺しにしてクエスト達成思ってたヨ」
カモリもルキアたちと同じCランク冒険者だ。戦闘の専門職ではないとはいえ、一般の人間であれば何人いたところで敵ではないだろう。むしろ今回ように救出対象がいる場合には、隠密に潜入して敵を暗殺できるカモリのようなレンジャーが適任かもしれない。
「でも違ったヨ。遺跡着いたら想像してたよりずっとヤバいことなってたヨ。だから急いで街戻って人手集めることしたネ。一人じゃどうにもできない思ったヨ」
そうして街に戻ったカモリはエルフの店で、レキたちに出くわしたというわけだった。
ちなみにまずあの店に駆け込んだのは、店主が冒険者に対してかなり顔が利くかららしい。
急ぎであればギルドに行くよりも強い冒険者がつかまりやすいと考えたそうだ。
「それで? ヤバい事態って何があったっていうの?」
ルキアの問いにカモリは答えず、そのかわり前方を指差した。
「――もう着くネ。自分の目で見てみるといいヨ」
馬を飛ばしたおかげか、目的の遺跡には十分ほどで到着した。
先日オークの群れと戦った集落遺跡とは異なり、かなり大規模で造りもしっかりしている。
宮殿か、あるいは神殿か、とにかくかつては大勢の人々が集まる場所だったのだろう。
しかし現在その遺跡には、人ならぬモンスターが跋扈していた。
「スケルトン……。なるほど、かなりの大群ね」
レキたち三人は遺跡入口から少し離れた場所で様子を窺っていたが、そこからでも十数体の歩く骸骨――スケルトンが確認できる。
「この遺跡、普段モンスターは出ないんですか?」
レキの問いに、カモリとルキアがそれぞれ答える。
「ここは国軍が定期的に見回ってるヨ。モンスターが出たら倒してるはずネ」
「そうね、こんなに数が増えるまで放置されることはありえないわ」
「ということはつまり……?」
「……何者かが人為的にモンスターを召喚した、ってことかしら」
モンスターの召喚などということができるのはレキにとって初耳であった。しかし考えてみれば、召喚魔法が存在するのであればモンスターの召喚ができてもさほど不思議ではない。
そしてそのような大掛かりなことを行ってまでやりたいことが、ただの人身売買ということはさすがにないように思える。
「だからヤバいこと起こってる言ったヨ。周りをモンスターに守らせて、中ではきっととんでもないことやってるに違いないヨ」
「とんでもないこと、って……」
「考えられるとしたら、何かの召喚儀式かしら……。ただのモンスターなんかじゃなく、もっと強大な何か……。子どもたちはその生贄……?」
確かにルキアの推測どおりであれば、辻褄が合いそうな気がする。それが確かならば、こんな真似をする連中が召喚しようとするものがロクなものであるはずがない。そしてなによりそれ以前に、急がなければ子どもたちの命が危ないということだ。
「ルキアさん、だったら急がないと……!」
「わかってるわ。――<真なる眼光>!」
ルキアは探索魔法を発動すると、それによって建物内部を含めた敵戦力を確認する。
「入口付近は見えているもの含めて二十五体。種類まではわからないけど、おそらく全部スケルトンだと思うわ」
「この遺跡、全部見通せるんですか?」
「いえ、広すぎてそれは無理ね。遺跡の奥にはまだ他にいると思ったほうがいいわ」
そうして敵戦力の分析が済んだところで、カモリがルキアに問いかける。
「それで、何か作戦はあるカ?」
「そうねぇ……。レキちゃん、この前みたいに召喚魔法で先制はできる?」
レキは少し考えてから答える。
「――今回はやめておいたほうがいいかもしれないです。私の召喚魔法だと、どうしても音が目立ってしまうので」
電車にしろトラックにしろ、敵を轢き殺せば周囲にかなりの音が響いてしまう。それで敵に察知されてしまえば、子どもたちの身に危険が及びかねない。
「なるほどね、わかったわ」
ルキアもそのことは理解しているようで、あっさりと納得する。
ただレキとしては正直なところ、骨だけの連中をバラ撒いてもあんまり面白くなさそうだという気持ちも実は少しあった。
「フム。それじゃあ正面から突撃するカ?」
「時間もないみたいだし、仕方ないわね。幸い相手はスケルトンだから、そう騒がれることもないわ」
そう言うとルキアは、全員に攻撃・防御・素早さの支援魔法をかける。
「それじゃあ、行きましょう!」