北の街から南の街まで③
他の皆も買い物を済ませたところで、レキたちはエルフの店を後にした。
セリナに買ってもらったらしく、リーネは銀色のキレイな髪飾りを嬉しそうに着けている。
レキも昔よく姉から色々とアクセサリーを買ってもらうことがあったが、リーネの喜ぶ顔をを見ているとその気持ちが少しわかるような気がしていた。
「さて、次は武器と防具ね。この街にはドワーフがやってる有名な鍛冶屋があるのよ」
なるほど、エルフときたらやはり次はドワーフか。
ルキアの後について賑やかな通りを進んでいくと、やがて大通りから少し外れたところにある大きく立派な店へとたどり着いた。
そこが目的のドワーフが営んでいるという鍛冶屋――『アンクスの鍛冶工房』だ。
先ほどのエルフの店は、おしゃれな雑貨店と言った内装だった。しかし壁やら棚やらに武器や防具がこれでもかと言った具合に並べられているこのドワーフの鍛冶屋は、いかにも職人の工房といった武骨な雰囲気が感じられる。
「おう、らっしゃい!」
そして店の中にいた中年の店主は、やはりレキのイメージそのままのドワーフだった。
背丈はリーネほどしかないが、その身体には不釣り合いなほどに筋肉がついている。そして胸元まで伸びているモジャモジャの顎髭は、これぞまさしくドワーフであると主張しているかのようだ。
そんな店主にどうやって要望を伝えようかとレキが考えているうちに、ルキアとセリナの二人がズイズイと前に出てくる。
「この子の武器防具一式を揃えたいんだけど――」
どうやら今回も二人が店主との交渉を始めてしまったようだ。
「まあ、任せておけばいいさ」
アリオスは若干呆れた様子でそう言うと、展示されている武器を物色し始める。普段は鍛冶屋に来る機会などないのか、リーネも物珍しそうに店内を眺めている。
さすがにレキはそうやって他人事のようにしているわけにもいかず、少し後ろでルキアたちの会話を聞いていた。しかしどうやら今回は交渉が難航しているようだ。
「なんだよ、これだけの鉱石なら素材は十分だろ?」
「バカ言っちゃいけねえ、ミスリルの加工は難しいんじゃぞ? 全身ミスリルで揃えるなら、鉱石に加えて三百金貨はもらわんと割に合わん」
「三百は取り過ぎじゃなぁい? レキちゃんは剣士としては小柄なんだから、材料だってそんなに使わないでしょ?」
「そうだぞ、百金貨くらいでいけるんじゃないか?」
「おいおい、勘弁してくれ! そんな金額で受けちまってたら店が潰れちまう!」
店主の叫びからは切実なものがひしひしと感じられる。これではさすがに店主が気の毒だ。
レキが二人を宥めようと考えた時、新しい客が店に入ってきた。
「おや、先客がいたか」
現れたのは、見た目三十歳半ばほどの長身の男だった。その身体は一見するとスラリとした細身だが、よくよく見れば無駄のない筋肉が備わっている。さらにただ立っているだけであるにもかかわらず、男にはレキの目から見ても隙がない。
おそらくはレキたちと同じ冒険者か、あるいは国軍の兵士なのかもしれない。いずれにせよ、何らかのかたちで戦いに携わっている者であるということは間違いないだろう。
「ああ、悪いね。今取り込み中で――」
男に気づいたセリナが振り返るが、その顔を見るなり明らかな驚きの表情をみせる。目を丸くするとはまさに今の彼女のような顔を指すのだろう。
「ア、アンタまさか! Aランク冒険者・『剣聖』のアルファウスか!?」
セリナのその言葉に、その場の全員が男に驚きの視線を向けた。
男は微笑みを浮かべながら答える。
「ああ、私がアルファウスだ。よろしく」