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北の街から南の街まで②

 翌朝、予定通りにアリオスと合流するしたレキたちは、まずこの街でも名が知れているという雑貨や装飾品を扱う店に向かうこととなった。


「エルフが作ったものを扱うお店でね、店員さんもみんなエルフなのよ」

「エルフですか!?」


 ゴブリンやオークのいる世界ならばエルフがいるのも不思議ではないのかもしれないが、改めてその存在を耳にするとやはり驚きを禁じ得ない。


 ルキアによると、エルフは魔力の他に手先の器用さに秀でた種族とのことだ。

 魔術士やレンジャーなどのクラスで冒険者として活躍する者もいる一方、高品質なアクセサリーや特殊な効果のあるアイテムの販売を生業とする者も多いそうだ。



 そんな話をしているうちに、レキたちは目的の店へと到着した。周りの店より一回り大きな外観は、この大都市にあってかなりの成功を収めていることがうかがえる。


「いらっしゃいマセ~」


 中に入ったレキたちを迎えたのは、見た目二十歳くらいの二人の女性店員だった。さらに奥のカウンターには、店主であろう三十歳くらいの女性の姿も見える。といっても、エルフというのは人間に比べて遥かに長寿らしい。おそらくは三人とも見た目通りの年齢ではないのだろう。

 そしてそんなことよりも驚くべきは、三人とも目が覚めるほどの美人だということだ。わずかにグリーンがかった金色の髪は宝石のようにキラキラと輝き、白い肌は水晶のように透き通っている。耳の先が少し尖っているのは、やはりエルフのイメージ通りと言ったところか。


 入るなり商品を物色し始めたセリナ姉妹とルキアに、二人の店員がまるで服屋のスタッフのように貼り付いてきた。


「お客サン、そのカッコ、冒険者だネ? 何ランクカ?」

「Cランク! 強い冒険者、お金たくさん持ってるネ! 歓迎するヨ!」


 なんというか、見た目と言葉のギャップがえげつない。


「……えっと、あれがエルフですか?」


 そばに残っていたアリオスにレキがそっと尋ねる。


「エルフの使う共用語はクセが強いからな。ちょっとびっくりするだろ」

「しゃべり方もですが、思ってたより世俗的というかガメついというか……」


 アリオスが少し笑いながら答える。


「種族として基本的に素直なヤツが多いんだよ。ガメついというよりは、思ってることをそのまま口に出しちまってる感じかな」


 なるほど、言われてみれば本当に金に汚なかったならば、こんなにあからさまな態度を取ることなんてないだろう。



「レキちゃん、おいでー」


 やがてルキアがレキに声を掛けてきた。


「レキちゃんが使うアイテムバッグを選びましょ」


 そういえば、この街に来た目的の一つがアイテムバッグだった。とはいえ、選べと言われても何がどう違うのかレキにはサッパリだ。


「うーん、これってどんな違いがある――」


 いい終える前に、二人の店員がレキの前にズイズイと寄ってきた。


「アイテムバッグは王都最新版が入荷してるヨ! 容量が基本モデルの二倍ヨ! 二倍!」

「冷気魔法付与モデルもおすすめネ! ナマモノも腐りにくいヨ!」

「肩掛けタイプは見た目が大きい代わりに容量も――」


 そう一気に来られても、正直レキにはさっぱりだ。そんな様子を見て取ったのか、ルキアが二人に声を掛ける。


「この子はアイテムバッグ買うのが初めてなの。まずは実際にどのくらい入るのか見せてあげてくれるかしら」


 二人の店員はうなずくと、片方が自分の腰にあるポーチを指差す。


「ワタシの着けてるコレ、基本モデルネ。中身イッパイに入ってるヨ」


 そう言って店員はポーチから中身を取り出していった。空のビンや何かの鉱石、武器や防具などが次々と目の前に積まれていく。


「入ってるモノ、これで全部ネ」


 最終的に取り出された荷物は、大きめのスーツケースに匹敵するだけの量があった。この量があんなに小さなポーチに収まるのはなんとも不思議なものだ。しかもどれだけ入れても重さは感じないらしい。

 これだけ入るのなら基本モデルとやらで十分かもしれないとレキが考えていると、もうひとりの店員がポーチから皮製の水筒を取り出した。


「コレは冷気付与モデルに入れてあった水筒ヨ! 試しに飲んでみるネ!」


 店員に勧められるままレキが中の水を飲んでみると、実に良い具合に冷えている。外出先でこれだけ冷えた飲み物が飲めるというだけでも冷気付与のモデルを買う価値があるように思えた。


「あの、その冷気付与モデルってお値段は――」


 レキが言い終わる前に、セリナが割って入る。


「やめとけ、冷たい水が飲みたいだけなら冷気付与の水筒を買ったほうが安い」


 セリナの指摘に店員が反論する。


「飲み物だけじゃないヨ! モンスターの素材も新鮮なまま持ち運びできるネ!」


 そこにさらにルキアも入ってくる。


「でもパンとかだと、入れてるうちにカチカチになっちゃうでしょ? それに素材も物よっては冷気に弱い場合だってあるし」

「そんな時にはこの熱遮断クロスを使うといいネ! 包むと冷気の影響受けなくなるヨ!」

「いや、それなら最初から――」


 そうして肝心のレキ本人をそっちのけにしたままに、商品選びにとどまらず価格交渉までもが勝手に始まってしまった。


(あっ、これはあれだ。孫と一緒に携帯ショップに来たおばあちゃん……)


 完全に蚊帳の外に置かれながらレキがそんなことを考えていると、やがて四人の中で商談がまとまったようだ。


「レキちゃん、一つ前の改良モデルなら在庫品を安く譲ってもらえるって」

「五十金貨のトコロを特別価格で四十金貨ネ! こんな安く売ってるの他にないヨ!」

「今なら冷気魔法付与の皮水筒オマケするヨ! こんなサービスしてくれるの他にないヨ!」

「いいんじゃないか? 容量も基本モデルの一・五倍らしいから、十分だと思うよ」


 この流れで断れるほどレキの心臓は強くない。


「あっはい。じゃあ、それで……」

「まいどアリガトネ~!」


 それからレキはアイテムバッグ以外にも、流されるままに色々な雑貨を購入する羽目になった。しかしセリナとルキアも勧めてくれているのだからきっと良い買い物をしたのだ……とそう思うことにした。

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