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33 ゴールドラッシュ③

「はぁい、どうぞ!」


 ルキアが応えると、ドアがカチャリと開く。おずおずと部屋に入ってきたのは、少女と言ってもいいほどに若い見た目をしたギルド職員の女性だった。


「お、お話中失礼しますぅ」


 すると顔見知りらしいルキアが彼女に呼びかける。


「ミアちゃん? どうかしたの?」

「えっと、皆さんに、お届け物がありますぅ」


 ミアと呼ばれた職員がたどたどしく答えると、腰につけたポーチを探り始める。

 するとその小さなポーチから、どういうわけか彼女の胴体ほどもありそうなキラキラと光る石の塊が取り出された。その輝きは宝石というよりは何かの鉱石のように見えた。


「おいっ! まさかそれ!」


 大声で反応したセリナに、少し怯えながらもミアが答える。


「は、はひぃ! ミスリルの鉱石ですぅ! ギルドの鑑定によれば含有率は九十パーセントを超えるとか……」

「そんな貴重なものが、なんで私たちに!?」


 今度はルキアが大声を上げる。


「わ、私にもよくわかんないんですぅ!皆さん宛に持ってきた人がいたみたいでぇ、確か忘れ物だとかそんなこと言って……」


 レキたちは互いに目線を送り合うが、どうやら誰にも心当たりはないようだ。


「ミアちゃんさぁ、その持ってきたってヤツの名前はわかるのかい?」


 アリオスの問いにミアは少し考えこむが、やがて思い出したように答えた。


「あっ! 確かカンナさんって名前でした! カンナさんっていう冒険者です!」

「カンナ……。聞かない名前ねぇ……」


 どうやらこちらについても心当たりのある者はいないらしい。だがしばらくして、アリオスが自信なさげに口を開く。


「遺跡に現れた女、ライセンスの名前がそんなだったような……」


 それを聞いたレキが思わずミアに尋ねた。


「あの! そのカンナさんって、白いローブの女の人だったりしますか?」

「はいっ! そうです! その人ですっ!」


 ミアが手をたたきながら答える。

 やはりあの時居合わせた女で間違いないようだ。


「なるほど。姿を消したかと思ったが、しっかり遺跡の中を確認してたわけか」


 オークの住処には宝物がある、そういえばそんな話だった。

 そしてそこまで貴重な鉱石というのであれば、おそらくはあのエルダーオークのいた建物にでも隠してあったのかもしれない。


「それにしても、わざわざ届けてくれるなんてずいぶんと人がいいな」

「えーっと、それじゃあ特に届けなきゃいけない決まりがあるわけじゃないんですか?」


 レキの疑問に、ルキアは少し考えてから答えた。


「うーん、あの状況だと持っていかれても文句は言えなかったでしょうね。結果的に私たちは確認をしないで帰ってしまったわけだしね」

「レキのことも助けてくれたしな。やっぱりイイ奴だったってことか?」


 アリオスの言うように、敵ということではやはりないのかもしれない。

 とはいえ、彼女は転生者である可能性が非常に高い。神が言っていたことが正しいならば、それはつまりレキと同じく強力な力を持った人でなしということになる。

 今のところ敵意は感じられないとはいえ、やはり警戒はする必要があるだろう。



「では、確かにお渡ししましたのでぇ。しつれいしまぁす!」


 用事の済んだミアが部屋を立ち去り、中はまた四人だけになった。


「とにかく、これでさっきの問題は解決だな」


 セリナが唐突にそんなことを口にする。


「そうね。これを鍛冶屋に持ち込めば、ミスリルで全身の装備を揃えられるかも」


 なるほど、材料を提供すれば安く装備を買い揃えることができるというわけだ。それなら武器か防具かで悩む必要もない。


「――って、なんで当然のように私の物みたくなってるんですか!?」 


 声を上げるレキを、三人がきょとんとした表情で見つめる。


「だって、これって多分エルダーオークの家にあったんだろ? あいつ倒したのレキだし。なあ?」

「ああ、普通に君が持っていっていいと思うぞ」

 レキは思わず頭を抱える。


 なぜこの人たちはこうも無欲なのか。高ランクの冒険者だからそんなにお金に困っていないということなのかもしれないが、もっと自分のことを考えてもいいだろうに。レキからしてみても、こんなに自分ばかりが優遇されるのは本意ではない。


「だからさっきも言ったじゃないですか! 私たちは一緒に――」


 反論しかけたレキを、ルキアが両手で宥める。


「あのね、レキちゃん。クエスト中に手に入った戦利品については、パーティ内でも一番活躍した人に所有権が優先されるのが通例なのよ」

「え? そうなんですか?」


 意外そうに驚くレキに、ルキアが説明を加える。


「武器とかが手に入っちゃったら、お金と違って均等に分けることなんてできないじゃない? そういうわけだから、そのミスリルについては最初からレキちゃんのものと考えて大丈夫よ」


 それを聞いたレキは、渋々ながら納得する。

 腑に落ちないところもあるが、それが冒険者の常識と言われてしまえば反論のしようがない。

 ちなみにだいぶ先になってから、レキはそれがルキアがその場で思いついたデタラメだったことを知ることになるのだが。



「じゃあ、これはレキちゃんに渡しておくわね」


 ルキアが押し付けてきた巨大な鉱石を、やむなくレキが受け取る。しかし見た目に比べてかなり軽いとはいえ、これだけの大きさの物を持ち運ぶのは骨が折れる。


「あの……、できれば袋とかあればありがたいかなと……」


 それを聞いたセリナが口を開いた。


「そうか、レキはアイテムバッグを持ってないんだな」

「そうだったのね。だったらまずはそれを買わないとね」


 なにやらまた買い物が増えてしまったようだ。


「あの、アイテムバッグというのはなんですか……?」


 レキが尋ねると、ルキアは腰にある小さなポーチを指差す。


「これよ」


 そしてレキから再びミスリル鉱石を受け取ると、そのままポーチの中にすっぽりと収めてしまった。


「魔法付与で内容量が拡張されてるの。冒険者にとっては必需品ね」


 まるで未来道具が入った不思議なポケットのようだ。そう言えばミアがミスリル鉱石を持ってきたときも、同じようなポーチから取り出していた。


「ミスリルはこのまま預かっておくから、そろそろ行きましょうか」

「行くって、どこへですか?」


 不思議そうにしているレキの肩を、セリナが叩く。


「決まってるだろ、買い物だよ」

「といっても、この街だとそこまでいいものは揃わないわねぇ」

「それなら、少しばかり遠出をしないとな」


 セリナとルキアが顔を見合わせながら楽しそうに笑う。


「買い物はいいけどさぁ、あんまり夢中になりすぎるんじゃないぞ?」


 一方のアリオスは若干顔をしかめているように見える。二人に長い間買い物に付き合わされるというようなことが、過去に何度かあったのかもしれない。

 そんなアリオスの言葉を気にするでもなく、金貨袋を手にしながらセリナが立ち上がった。


「それじゃあ向かうとしようか、商業都市マイアサウラに」


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