32 ゴールドラッシュ②
エレノアの言葉で報酬の分配を始めた四人だったが、それは意外に難航した。
大きな分け前を要求した者がいたわけではない。むしろそのほうが楽だったかもしれない。
なにしろセリナたち三人ときたら、レキがいくら均等に分けよう言ってもなかなか取り分を受け取ろうとしないのだ。
「いや、だってどう考えてもレキが一番活躍してたじゃないか」
「それに私たちのことも助けてくれたし……、ねえ?」
聞き分けのないセリナとルキアに、レキも声を荒げる。
「そういうのいいですから、パーティなら平等に分けましょうよ! それにさっきは、もう貸し借りはなし的なこと言ってたじゃないですか!」
「いや、でもそれとこれとは話が違くね?」
アリオスまでもがそんなことを言い出す。
そんな三人にレキは歯噛みする。
レキとて別にただ良い子ぶってこんなことを言っているわけではない。お金のことに関しては後腐れないようにきっちりやっておかないと単純に気持ち悪いのだ。
「とにかく! オークとワイバーンの報酬は四等分ですからっ! それは譲れないです!」
そうやってどうにか、レキが半ば押し付けるようなかたちでそれらの報酬に関しては均等配分に持っていくことができた。そもそもオークの殲滅は全員が協力して達成したことだったし、ワイバーンにしても三人が引き付けてくれていなければ倒すことはできなかっただろう。
しかし元冒険者討伐の報酬については、セリナが頑なに受取を拒否した。
「私はレキがクエストを受注できるようにしただけだ。ランクポイントの配分を受けてしまった上に、報酬まで受け取ることは絶対にできない」
「でも、パーティとしてセリナさんにも受け取る権利があるわけですし……」
「そんなことはどうでもいい。これは私の冒険者としてのプライドの問題なんだ。君が受け取らないと言うなら、金はドブにでも捨てるとしよう」
さすがにそこまで言われてしまっては是非もない。今度はレキのほうがしぶしぶ折れるかたちで報酬の全額を受け取ることとなった。
そういうわけで、最終的にレキの取り分は金貨二百十枚となった。金貨一枚がおおよそ日本円の一万円相当と考えれば、なかなかの大金と言えるだろう。
もともと報酬に関しては当面の生活費を稼げれば程度に考えていたので、これだけまとまった金額が手に入ってしまうと逆にどうしたものか困ってしまう。
レキがそのことを相談すると、三人ともが思いのほか食いついてきた。
「やはり武器を買うべきだろうな。それだけあればミスリル製の剣にも手が届くぞ。レキの腕前なら早いうちにランクの高い武器を使っていったほうがいい」
「何を言ってるのよ、まずは防具を整えないと。この前だってもっといい防具を着けてれば怪我も軽かったはずよ。それにレキちゃんなら今のままでも攻撃力は十分じゃない」
「というか、レキはどこにも身寄りはないんだろ? だったら金はなるべく生活のために貯めておいたほうが良くないか……?」
そして皆の言うことは物の見事にバラバラだ。それにしても、アリオスが堅実派であるというのはなかなかに意外だった。
勢いに押されながらも、レキは一応自分の考えも口にしてみる。
「例えば、それなりのランクのもので武器と防具どちらも揃えるというのは……?」
その言葉を聞いたセリナとルキアが、二人で議論を始める。ちなみに貯蓄派のアリオスは見に回るようだ。
「その金額ですべて揃えるなら、素材は……。白靭鉱――は無理ね。黒鋼あたりかしら」
「黒鋼は堅いが重すぎるだろう。レキのスピードが殺されてしまう」
「重量軽減の魔法付与品という手もあるけど、それだと上位品と金額は大差ないものねぇ」
「それにレキならこの先もっと稼いでいける。中途半端な装備を買ってもすぐに買い替えることになるんじゃないかな」
「そうよねぇ、最初から長く使えるものを買ったほうがいいと思うわ」
なるほど、どうやらレキの案は否決されたらしい。
「だからいい武器を買おう!」
「防具だっていってるでしょ!?」
「いや、貯金をだな……」
そして話は結局振り出しに戻った。
このまま議論が平行線をたどることになるかと思われたその時、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。