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31 ゴールドラッシュ①

 翌日、無事に退院したレキはその足で冒険者ギルドへと向かった。


「すみません! 遅くなりました」


 駆け寄るレキをセリナが迎える。


「大丈夫、構わないさ」


 見ると他の二人もすでに揃っていた。しかしその中でルキアだけが、なぜか少し曇った表情を浮かべている。レキが不思議に思っていると、その彼女が口を開いた。


「レキちゃん、この前のこと本当に――」

「それはもうやめにしようって言っただろ? 詫びも礼も、過ぎれば逆に気を使わせるってもんだ」


 謝罪の言葉を口にしかけたルキアの背中を、そう言いながら叩くアリオス。

 そしてレキも努めて明るい声で答える。


「そうですよ! 私もうお腹いっぱいで、これ以上は太っちゃいます!」


 それを聞いたルキアが、ようやく僅かに微笑む。


「ふふっ。そうね、わかったわ」


 気がかりがなくなったところで、レキが改めて質問する。


「ところで、今日はどうして集まったんですか?」


 呼び出しを受けてはいたものの、レキはその理由についてまだ聞かされていなかった。


「クエスト絡みでいろいろあっただろ? それが一通り片付いたそうだ」

「ワイバーンの件は突発的な遭遇だったでしょ? だからギルドに確認してもらって、後づけのクエストとして起こしてもらったの。それとレキちゃんがやっつけた元冒険者の件ね。あれもクエストとしての算定と討伐確認が終わったそうよ」


 セリナの大雑把な答えに、いつものようにルキアが付け加える。


 色々あって忘れてしまっていたが、確かにあの男たちの件はギルドでの手続きが少々面倒なことになっていたのだった。それに言われてみればワイバーンの件も、クエストとして処理するのは厄介であるというのも想像には難くない。

 頭を抱えるエレノアの姿が脳裏をよぎり、レキの心が少し痛む。

 そんなレキの気持ちをよそに、アリオスが明るい声でまとめる。


「つまり、お待ちかねの報酬タイムってわけさ!」



 ギルドに入ると、レキたちを待っていたであろう様子のエレノアが立っていた。


「来たわね」

「よう、エレノア! さっそく精算頼むぜ!」


 アリオスの遠慮のない態度にまた気を悪くしてはいないかと、レキはこっそりエレノアの顔色を窺ってみる。しかし表情を見る限りでは、少なくとも機嫌は悪くないようだ。もしかすると面倒な案件が片付いてスッキリしているのかもしれない。


「言われなくてもわかってるわよ。でもその前に――セリナ、少しいい?」

「――ああ」


 エレノアとセレナは、二人だけで二つ三つ言葉を交わす。

 その内容は聞こえてこなかったが、セリナの表情が深刻そうだったのがレキには少し気になった。


 ほどなくセリナとの会話を終えたエレノアの案内で、以前も使用した応接室に通されるレキたち。

 部屋に入るとすぐに、エレノアがテーブルの上に金貨の入った袋を三つ並べた。どの袋にもかなりの枚数が詰まっているようだ。レキたち四人はつい感嘆の声を漏らしてしまう。


「まずこれがオーク殲滅クエストの報酬ね。エルダーオークの討伐が確認されているから、その分の報酬を上乗せしてあるわ。中身は金貨百二十枚」


 エレノアはまず一番右側の袋を指して、その内容を説明した。


「次にワイバーン討伐の報酬よ。ギルドで建て替えた治療費と、討伐確認のための派遣費用についてはここから引かせてもらってるわ。えっと、それから――」


 少し口ごもったエレノアが、咳払いの後話を続ける。


「ちょっと死体がグチャグチャ――もとい、損傷が激しくてね。あまりいい素材が取れなかったの。だからクエストランクは討伐基準に沿ってBランクだけど、報酬は少し減額されてるわ。諸々でこちらも金貨百二十枚ね」


 ここまで説明すると、エレノアはその二つの袋を少しだけ脇に寄せた。


「この二つが貴方たち全員で受けたクエストの報酬になるわ」


 そして残った最後の一つを指さした。


「こっちはセリナとレキちゃんの分、元冒険者の討伐クエストの報酬ね。調査の結果、ターゲットは元Cランク冒険者のザグに加えて、同じく元Cランクのガンドーと元Dランクのジグナスからなる三人であるとわかったわ。そして全員の死亡も確認済。複数のCランク冒険者が討伐対象になったことから、クエストランクはBランクと算定。報酬は金貨百五十枚よ」


 ここまで説明を終えると、エレノアは大きく息をついた。


「――以上、合計で金貨三百九十枚が今回の報酬となります。お疲れ様でした」

「うぃっす! ありがとうございまっす!」


 アリオスが代表して応えると、他の三人からも拍手が湧く。

 そんな様子を見ながら、エレノアはやれやれとばかりに肩をすくめてみせた。


「ようやくこれで肩の荷が下りたわ。まったく、貴方たちがいっぺんに色々やってくれたせいでこっちは大変だったわよ」


 エレノアが悪態をつくが、本気で怒っているわけではなさそうだ。


「――あ、そうそう。レキちゃん」

「はい?」


 突然名を呼ばれて何事かと思っているレキに、エレノアが小さく拍手をする。


「おめでとう、三つのクエストでDランクに昇格できるだけのポイントが貯まったわよ」


 それを聞いたセリナたちもレキに向かって手を叩く。

 早くランクを上げるためにセリナたちのクエストに同行したとはいえ、Eランクを飛ばしてDランクとは思わなかった。ズルをしてしまったようで少し後ろめたい感じがしてしまう。


「えっと、いいんですかね……。なんか私ズルくないですか……?」

「正当なランクアップだから気にすることないわ。むしろ余計にランクポイントをもらっちゃったのは私たちのほうね」


 そう言ってルキアが笑うと、エレノアも続ける。


「レキちゃん、エルダーオークを瞬殺したんでしょ? そんな実力のある冒険者に薬草集めみたいなことさせておくのは、ギルドとしてももったいないのよ。まあ昇格は任意だから、どうしても気が引けるようなら受けなくてもいいけど?」


 そういうことであれば、あえて固辞する必要もないだろう。レキがその旨を伝えると、エレノアがニッコリと笑顔を見せた。


「そう、良かったわ。それじゃあ更新手続きをしておくわね」


 そう言って部屋を出ていこうとたエレノアだったが、去り際にレキたちを振り返った。


「色々あったみたいだし、報酬は貴方たちで好きなように分けなさい。ケンカしないようにね」


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