遺跡に散る紫④
作戦が始まり、四人はそれぞれの配置についた。
アリオスとルキアが正面、セリナが左、そしてルキは右側にある木に登って遺跡を見下ろしていた。ここからであれば先ほどの入口広場の様子もよく見える。
作戦の開始に先立って、ルキアが全員に攻撃・防御・素早さを強化する補助魔法それぞれを掛けてくれていた。攻撃や防御のほうに実感はないが、素早さ強化の方は確かに身体が軽くなったように感じられる。重い荷物を下ろした直後のような感覚だ。効果時間は術者の技量によるとのことだが、ルキアの場合は一時間程度は持続させられるそうだ。
やがてそのルキアが、こちらに向かって手を振っているのが見えた。作戦開始の合図だ。
(せっかくだから、大きいのいっちゃいますか!)
レキは遺跡より少し手前、入口へ向かっていくあぜ道に意識を集中させる。
「〈ツキモリ 3XG メガライナー〉!」
低い唸り声のような音が、地響きとともにだんだんと近づいてくる。
広場のオークたちはそれがなにかもわからずただ困惑したように辺りを見回していたが、やがてそのうちの一体が叫び声を上げた。
「ブギッ!? ブゲアアア!」
オークたちの前に猛スピードで突っ込んできたのは、十トンを超える大型のトラックだった。
見たことも聞いたこともない巨大な鉄の怪物を前にして、四体のオークたち腰を抜かしてしまったように身動きを取ることができなくなる。それはまさしく蛇に睨まれた蛙と言った様相だ。
「――ブギャア!」
そして二体は撥ね飛ばされ、一体はタイヤの下敷きとなり、残る一体は車体の前面に貼り付いたまま石壁に突っ込んでミンチとなった。
そんな様子を上から眺めていたレキは、心のなかで大いに歓声を上げる。
(ああぁっ! やっぱり轢死はいいわぁ! いつ見ても最高ぉ……!)
そして壁にトラックが衝突した轟音でパニックになっているオークたちをよそに、ズタズタになった死体をアクセサリーショップのウインドウでも観るようにまじまじと眺める。
(オークって、血も内臓もちょっと紫っぽい感じなんだぁ……! 情熱的な赤もいいけど、紫もなんだか神秘的で素敵だなぁ……)
そうやって普通であれば間違いなく目を背けるであろう光景にうっとりしているうちに、アリオスたちが集落に切り込んでいくのが目に入った。
レキは慌てて木から下りると、とりあえず手近なオークに切りかかっていった。
ルキアはアリオスとともに集落の正面から突入すると、すぐさま探索魔法を発動した。
「――<真なる眼光>!」
<真なる眼光>は一定範囲を俯瞰視できる<鷲の眼>効果に加えて、通常は見えない建物の中などにいる生命体の反応までもキャッチできるという効果を持つ。
探索魔法の中でも上位に属する魔法であり、扱える者が魔術士の中でも数少ないこの魔法があることによって、『星の十字団』は三人という比較的少ない人数で活動できているといっていい。
その魔法効果を使って、ルキアはすぐさま敵戦力の把握にかかる。レキの召喚魔法で蹴散らされた四体は即死だったようで、すでに生命反応は無い。
「残敵は――十九体よ!」
ルキアが大声を出して他の三人に伝えた。
「レキちゃん、右前方に二体! セリナ、左側の壁後ろに一体!」
さらに正確な敵位置が共有されることで、遊撃の二人は眼前の敵だけに集中することができる。
これこそが『星の十字団』の集団戦における基本戦術であり、それによってオークたちは次々と数を減らしていった。
「――すげぇな」
接近してきた一体を斬り捨てたアリオスが、ルキアに声を掛ける。
オークを倒しているのは、主に遊撃にあたっているセリナとレキの二人だった。
しかしどちらもほぼ一撃で敵を倒しているのは同じとはいえ、剣士ではないルキアから見てもレキの動きは格段に上だ。
しかもセリナとアリオスに対しては先ほどから魔法によるサポートをしていたのだが、レキにはそれが必要ないどころかサポート自体が間に合わない有り様だ。
「ほんと。お礼のつもりが完全に助けられちゃってるわね」
ルキアが肩をすくめながら応えたとき、ちょうど敵に動きが見られた。