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遺跡に散る紫①

 翌朝、レキとセリナは冒険者ギルドでアリオスたちと合流した。


「クエストは受注しておいたぜ。オーク集落の掃討任務、クエストランクはCだ」

「オークの集落――ですか」

「そうねぇ。目的地までかなり時間がかかるから、詳細は移動しながらにしましょうか」


 ということで、レキたち四人はギルド所有の馬車で目的の地域へ向かうこととなる。


「さて、こいつが今回使う馬車だな」


 四人の乗る馬車は、一頭引きの小さなものだった。御者台にはアリオスが着くとのことで、レキたちが乗り込むのは簡素な幌のある荷車だ。


「私、馬車って初めて乗るんです! ちょっとワクワクしちゃいますね」


 初めての経験を前に、レキが楽しそうにはしゃぐ。

 しかしセリナたちは、そんなレキを気の毒そうな目で見つめる。


「そうか……。まあ、あんまり期待はしないほうがいいよ」


 首を傾げるレキを乗せて、馬車は目的地に向けて走り出した。



「――あぐっ! ひぐうっ!」 


 生まれて初めての馬車の乗り心地は、レキの想像を絶するものであった。

 木製の車輪は道のちょっとした凹凸ですぐに傾き、その度に車体を大きく揺らす。

 そして座席などない荷車では、その衝撃がダイレクトにお尻に伝わってくる。

 そのせいでレキの身体は、揺れの度に毎回毎回縦方向に激しく揺さぶられてしまう。


「えーっと……。レキちゃん、大丈夫?」

「だいじょうぶ、ひぎっ! では、うぐっ! ないですぅ!」

「ま、要は慣れだよ。慣れてしまえばこんな中でも居眠りくらいは出来るようになるさ」


 セリナがそんな事をいうが、何日乗り続けたとしてもレキには慣れることなどできそうにない。


「あぐうっ! 目的地までどのくらいかかるんですかぁ!?」

「うーん、二時間くらいかしらねぇ……」


 レキは眼の前が真っ黒になったような気がした。



 そうやって馬車に揺られること、かれこれ一時間ほどが過ぎた。


「ほら、実際慣れるもんだろ?」

「……」


 セリナの言う通り、馬車の揺れにはだいぶ慣れてきた。揺れの方向に無理に逆らわずにリラックスさえしていれば、そこまで耐え難いものにはならないようだ。


 しかし一方で、レキは別の問題に直面していた。いわゆる乗り物酔いだ。

 青白くなったレキの顔色を、ルキアが心配そうに見つめる。


「レキちゃん、大丈夫……? ちょっと休憩しようか……?」

「いえ……、大丈夫です。それよりクエストの話を……」


 なんでもいいから、今はどうにかして気分を紛らわせたい。


「そう……? それじゃあ話すわね」


 そうしてルキアが今回のクエストについて、その概要を話し始める。

 なんでも山あいにある小さな遺跡にオークが棲み着き、その数を増やしているそうだ。その殲滅が今回の目的となる。まずはこのまま馬車で近くにある国軍の駐屯所まで進み、そこから徒歩で目的の場所まで向かうということだった。


 オークというモンスターについて尋ねてみると、どうやらレキがイメージしているそれと大きく乖離はしていないようだ。すなわち、人間サイズではあるが棍棒を振り回す程度の知性しか持たない醜い姿をした魔物、というところだ。


 さらにルキアはセリナも交えて、『星の十字団』が集団を相手にする場合の戦い方についての説明なども加えていく。だがその頃になると、レキの頭は何かをインプットできる余裕などすっかりなくなっていた。


「――という感じで私が魔法でのサポートをするから――って、レキちゃん?」

「はい……大丈夫です……」


 レキは小さく息をしながら、か細い声で応える。


「ああ、こりゃダメそうだ……」


 セリナの言う通り、頭がぐらんぐらんするほどに正直酔いは激しい。それでもルキアの言葉を聞いて気になったことをレキは尋ねてみた。


「ところで……。魔法って私にも使えるんでしょうか……?」


 それを聞いたルキアは、少し考える素振りを見せる。


「うーん、それは人それぞれかな……。魔法を使うには適正が必要なんだけど、セリナみたいに全く適正のない人も多いの。それに適性にも色々あるから、覚えられる魔法もそれぞれね」

「えっと、もし適性があるとして、魔法を覚えるにはどうすれば……」

「魔術院というところがあってね、術式が確立されている魔法ならそこで覚えることができるわ。それから適正の検査もそこで出来るの。ケプスにもあるから、戻ったら行ってみましょうか」

「はい、そうですね……」


 もしレキにも魔法が使えれば、この世界でやっていくうえできっと役立つはずだ。適正とやらは一度調べてみたほうがいいだろう。だがしかし今はそれよりも――。


「ちなみに乗り物酔いを治す魔法とかは……」

「――私の知る限りだと、ないわね」

「ですよね」

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