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15 星の十字団②

「――っの馬鹿野郎ッ!」


 冒険者たちの打ち合わせにと用意されている個室は、中央に小さなテーブルが置かれているだけの殺風景な部屋だ。その狭い室内に、アリオスの怒声とテーブルに拳を叩きつける音が響く。


「街の外での単独行動は危険だって、いつも言ってるだろうが!」


 アリオスの剣幕にたじろいだ様子のセリナが、しどろもどろになりながら弁明する。


「ご、ごめん。でも、近くの森だったし、わざわざ二人にお願いするのも――」

「お前! そんなこと――」


 なおもセリナに詰め寄ろうとするアリオスの言葉を、ルキアが手ぶりで遮る。


「ねえ、セリナ。聞いてちょうだい」


 セリナの右腕を魔法で治療しながら、ルキアがゆっくりと話し始める。


「私にもアリオスにとっても、あなたはかけがえのない大切な仲間なの。リーネちゃんのことだって実の妹のように思っているわ」

「ルキア……」


 その口調は穏やなものだったが、そこには彼女の強い想いが込められているように感じられた。


「そんな二人にもしも何かあったとしたら、私たちがどれほど悲しいか、どれほど悔しいか――それをわかってほしいの。そんなふうにあなたたちの無事を願ってる人がいるっていうこと、少しでもいいから考えてくれたらなって」


 ルキアはそこまで言うと、アリオスに向かってにっこりと微笑む。


「そうよね? アリオス」

「あ、ああ……。そうだな……」


 照れくさそうに目線を逸らすアリオスを見て、ルキアが悪戯っぽく笑う。

 そんな二人に対して、セリナは深々と頭を下げた。


「――二人とも、本当にすまなかった」



 レキはそんな三人のやり取りを、何も言わずに眺めていた。

 セリナはいい仲間たちに恵まれているようだ。


(――なんか羨ましいな、こういうのって)


 自分のことを本気で心配してくれて、時には本気で叱ってくれる仲間――たった一人で異世界にやってきた自分も、いつかそんな仲間に出会えることがあるのだろうか。

 そんなことを考えていたレキに、アリオスとルキアが背筋を正して向き直った。


「改めて礼を言わせてくれ。セリナとリーネを救ってくれたこと、本当に感謝する」

「私からもお礼を言うわ。ありがとうねぇ、レキちゃん」

「あ、いえ……。私はそんな……」


 レキが戸惑いながら応える。

 正直なところ、レキの行動はセリナたちを助けることよりも相手を轢き殺して愉しむのが目的だった。そんなレキにとっては、アリオスとルキアの純粋な感謝が逆に痛い。

 しかし仲間の無事を喜ぶ彼らの姿を見ていると、二人を助けることができてよかったという心からの気持ちが湧いてくるのも事実だ。

 レキの戸惑いは、きっとそんな自分の心に対してのものなのだろう。

 

「さぁて、それじゃあレキちゃん。あなたのことも色々聞かせてもらおうかしらぁ?」


 そうやってルキアに促されたレキは、これまでの経緯を語って聞かせる。もちろん二人にドン引きされそうな部分は極力省きながらだ。せっかく良好な関係を築けそうなところなのに、異常者扱いされてしまうのは御免被りたい。

 ただし自分が異世界からやって来たということについては正直に伝えた。すでにセリナに話してしまっている以上、それに関しては隠したところで仕方がない。


「なるほどなあ、違う世界から神様に連れてこられたってわけか」

「天使みたいに可愛いと思ってたけど、それなら本当に神様の遣いねぇ」


 二人はレキの話に驚く様子こそ見せたものの、疑ってはいないようだ。セリナの時もそうだったが、この反応にはやはり違和感がある。

 レキはそれについて率直に二人に尋ねてみた。


「あの……、ずいぶんあっさりと信用してくれるんですね。違う世界から来たなんてこと、そうそう信じてはもらえないと思っていたんですけど……」


 レキの言葉を聞くと、ルキアがどこからか一冊の本を取り出す。


「――えっと、それは?」

「大昔にこの世界に現れた『英雄』たちの伝説。この本は色々と脚色されたおとぎ話のようなものだけど、彼らが実際に存在していたことは確かよ。それでね、この『英雄』たちがやって来たのが、レキちゃんの言うようなここではない別の世界だったと言われているの」

「つまり神様に選ばれてこの世界にやって来たやつが、過去にも実際にいたってことさ」


 確かにレキにもそれには心当たりがあった。

 神の言葉によれば、この世界にはこれまで幾人もの『英雄』が送り込まれている。きっとそれは今に限ったことではなく、過去に幾度も行われてきたことなのだろう。


「――といっても、中には人間を殺し回るようなヤバいやつもいたらしいぜ」

「ああ、確かに『英雄』の伝説の中ではそんな連中との戦いも語られているね」


 レキは内心で頭を抱えた。

 やっぱり思ってた通りだ。誰彼構わず力を与えて送り込むなんてことをしてたら、当然そんなことをやらかす輩も少なからず出てくるに決まっている。

 そんな連中と一緒くたにされてはたまらない――レキはこの世界での振る舞いに注意することを改めて肝に銘じた。


「ちなみに俺たちのパーティには『星の十字団』って名前があるんだが、それも過去にいた『英雄』たちの物語からとってるんだぜ。その話、レキも聞きたいだろ?」


 パーティ名の由来とやらについて、話をしたくてたまらないといった様子のアリオス。しかしチラリと横目で窺ってみると、セリナとルキアはあからさまに嫌そうな顔をしている。

 どうやらあまり楽しいことにはならなそうな雰囲気はひしひしと感じられたが、レキにはこの流れで嫌と言えるほどの勇気はない。


「えっと……お願いします……」

「よしっ! それじゃあまずは千年ほど前の話になるんだが、この世界に魔王と呼ばれる存在が現れるということがあってだな――」

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