ボクは悪くないのに
ご主人様は、あまりボクを大切にしてくれない。
毎日毎日、野菜だ肉だ魚だ、とボクを使って切り刻むのにも関わらず、ろくな手入れもしてくれない。きっとご主人様は料理自体が好きじゃないだろうね。
「どうやったらこんな不味い飯が作れるんだよ、お前は。――なんで、こんな奴と結婚しちまったんだろうな」
そうやって作った料理が美味しいわけはなく、ご主人様の旦那さんにそんなことを言われていたね。
確かに、彼の言いたいことはわかるけど、もう少しご主人様のことを考えて言って欲しいな。
そうすれば――こんなことにならなかったのに。
いくら手入れされてなくて切れ味があまり良くないと言っても、ボクを勢いよく突き刺せば、そりゃ、簡単に刺さるよ。可哀相に。心臓をひと突きじゃ助からないね。
からん。
あ、ご主人様、なんでボクを落とすのさ。びっくりするじゃないか。
「わ、わたし……なんてことを……そんな……そんな……」
ご主人様は、血だらけのボクを蹴飛ばした。それどころか、さらに何度もボクを踏みつけてくる。
「このっ! このっ!」
ははは。ダメだよ、ご主人様。ボクのせいにしようとしちゃ。野菜だろうが肉だろうが魚だろうが――人間だろうが、ボクには関係ないんだから。
ボクはただの道具。使うのは、ご主人様、あなたなのですよ。わかってますか?
こういう人が多いから、ボクら刃物のイメージが悪くなるんだよね。ボクらはまったく悪くないのに。
ぱきん。
ああ、折れちゃった。
今度生まれ変わる時には、ボクを大事にしてくれるご主人様なら……いいなぁ……