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3話 襲撃

 

 翌朝からはちゃんと通常運転のドレン工房。ドモンが鍛冶をし、レインが帳簿と接客。ヒイロは二人の手伝いと変わらぬ日々を過ごしていた。

 そして数日後、いよいよセツナの助手としてヒイロが私塾の手伝いに行く日がやって来る。


「緊張するなぁ~」


「最初だけよ。頑張りなさい」


「やれることをやればいいんじゃよ」


「はい、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


「気を付けてな。ブレスレットは?」


「ちゃんとつけてますよ」


「よし、行って来い」


 セツナからの助言を受け、護身用にと結界魔法が施された魔道具を皆からのお礼に渡されたヒイロ。彼が見えなくなると優しかった二人の表情が一変する。


「見張られとるのう」


「ヒイロもつけられてるわね」


「どうする?」


「セツナには、まだ手出ししないように言われてるでしょ」


「うむ……しかし……」


「そうね、私達は大丈夫だけど、ヒイロは心配よね」


「ああ……」


「でも人が多い昼間に、道端で襲われることもないでしょう。それにいざとなったら、この前渡した結界の魔道具が発動するわよ」


「うむ……でもな……」


「もう、ドモンは心配性ね」


「いや、ヒイロは戦闘が、からっきしじゃからのう」 


「そうね…… でも考えだしたら切りが無いわ。とりあえず中に入ってお茶にでもしましょう」


「ああ…… そうじゃの…… 」



「フーン♪フフフフフンフーン♪フフーン♪フーン♪」 

(今日から先生の助手かぁ。緊張するし不安だけど楽しみだなぁ)


 何故か毎回、前世の怪獣映画のテーマをチョイスして鼻歌を歌いながらご機嫌で歩くヒイロ。


(このブレスレット。凄い魔道具をお礼もらっちゃったなぁ。結界魔法かぁ。後で先生に仕組みを教えてもらおうっと)


「あら、ヒイロお出かけ?」

「あっ、女将さんこんにちは。教会まで」

「行ってらっしゃい、セツナ様によろしくね」


「おう、ヒイロじゃねぇか。どこ行くんだ?」

「親父さんお世話になってます。先生の手伝いで教会に」

「そうか、頑張れよ」


 道すがら、いつも買い物をする馴染の八百屋の女将や、肉屋の店主と挨拶を交わしながら教会へと歩く。しかし物陰から彼を品定めするような視線には気づけないヒイロだった。



 到着し教会の中に入ると、祭壇の前では神聖な雰囲気を纏った男性のエルフが祈りを捧げていた。ドアを開けた音に気づきふり返るとヒイロと目が合う。


「司教様、お久しぶりです」


 司教の前まで近づき、両膝で膝まづいて頭を下げて先に挨拶をするヒイロ。 


「顔をお上げ。久しいなヒイロ。セツナから色々と聞いている。弟を救ってくれて本当に感謝する」


 微笑みながら優しく語りかける司教。彼はセツナの兄である。


「いえ、僕なんか……」

(司教様って無表情で苦手なんだよなぁ……)


「私の顔になにか?」


「いえ、何でもありません。先生はどちらに?」

(なんかいつも心を見透かされてる感じがして怖いし……)


「もう外で授業の準備をしているはずだ」


「なら、僕も手伝ってきます」


「よろしく頼む」


「はい、失礼します」


 直ぐにその場を離れるヒイロ。


(私はそんなに無表情にみえるのか…… )


 ヒイロが去った後、自分の顔をさすりながら一人思う司教だった。



「先生、こんにちは。何から手伝えばいいですか?」


「ヒイロ、よく来てくれました。大丈夫ですよ、準備は終わりましたから」


 外の広場に出てセツナを見つけ挨拶する。自ら手伝いを申し出るも準備は終わっていた。


「僕は何を教えればいいんですか?」


「小さい子へお金の価値や簡単な買い物の仕方。主に足し算と引き算をお願いします」


「わかりました。わかりやすく、わかりやすく……」


「ははは、そう気負わなくていいですよ。リラックスしていつも通りに。後、話し方も固くなく友達のように接して上げてください」


「ふう~~~、わかりました。頑張ります!」


 ヒイロとセツナが話していると、教会裏にある孤児院から子供達がワラワラと出てくる。また教会からも孤児達よりも小綺麗な子供達が少しオドオドしながら現れた。


 このセツナの開いている私塾は、孤児から平民の子供まで分け隔てなくその門を開いている。基本無料だが、余裕のある者からの寄付を貰い賄っていた。


「さぁ、始めましょうか」


「「「はい、セツナ先生」」」


「今日は皆さんの先輩、私の教え子が助手として授業をしますので、よろしくお願いしますね。自己紹介を」


「はい、ヒイロです。よろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします、ヒイロ先生」」」


(ヒイロ先生!?)


「それでは、先ず歴史のお話から始めましょうか」


 先生と呼ばれ照れくさいながらも感動しているヒイロをスルーし、セツナの授業はスムーズに進んでいった。歴史を物語風に語り終わり、そこから単語を取り出し読み書きに入る。もちろん筆記用具などはなく、地面に木の枝で書き取りを行う生徒たち。

 途中で分かれたヒイロの授業も問題なく、通貨の単位や利用方法を、演劇風に買い物を模してわかりやすく教えた。


「今日はこれで授業は終わりです。みんな寄り道せずに帰るんですよ」


「「「セツナ先生、ヒイロ先生ありがとうございました」」」


 授業が終わり、教会から出てきた子達は帰っていく。孤児達は片付けを手伝いながら、何故かソワソワしていた。ヒイロもセツナと片付けをしながら授業の感想を話始める。


「ヒイロもお疲れ様でした。初授業はどうでしたか?」


「はい、最初は緊張しましたけど……どうにか……」


「初の授業としては及第点です。改善点としては、もう少しゆっくり話すといいと思いますよ」


「わかりました」


「さて、それではモツの処理をヒイロに習ってみんなでやりましょうか」


「「「イェ~~~イ」」」


 孤児達がソワソワしていた理由はこれだった。

 セツナにお土産に持たせたモツは、孤児達に大人気だった。勿論少数だが食感などが苦手な子もいたが、自分達でも役立つ仕事がある。お金が稼げる。という別視点での期待値が高かった。


「それでは始めましょうか」


「「「ヒュゥ~~~」」」


 セツナが魔法袋から四体の魔猪(ボア)を取り出した。首と胸に傷があり、既に血抜きがされている。


「先生、これって?凄い、全部眉間に小さな穴が!綺麗に血抜きもされてる」


「この前ちょっと一人で狩りにいってきましてね。たまたま群れに出くわしたので、丁度いいかと思って。もうこの義眼の性能は素晴らしいですよ」


「喜んでもらえて何よりです」


 先日よりも小ぶりな魔猪。それでも大人一人分の大きさはある。


(これを一人で討伐するなんて。でも先生なら余裕なんだろうなぁ…… )



 ヒイロが魔猪を一体、セツナに手伝って貰いながら解体し手本を見せて、残り三体を孤児達が処理していく。


「うわ~くさっ~」


「ベトベト~」


「なんだこれ~」


 なんともスプラッターな景色だが、楽しそうなのは良い事なのだろう。

 数人の年長の孤児は、皮剥や肉の解体がヒイロより手慣れていた。経験者らしい。


 セツナが桶と水を出し魔法での洗浄も終わり、ここで一度ヒイロが作業止めて孤児達に言う。


「新鮮で洗浄しても、魔法で浄化しないと絶対に食べちゃ駄目だよ。下手すれば死んじゃうからね。痛いし苦しいのがずっと続くんだよ。だから絶対駄目だからね」


「「「はい…………」」」


 少し浮かれ気分だった孤児達に釘を刺すヒイロ。本当に食中毒は怖いのだ。


「皆、わかりましたか?それでは浄化(ピュフィリケーション)


「「「おお~~~これで食べれる~~~」」」


「まだだよ、これからタレを作るから」


「「「早く作ろうよ」」」


「ははははは」


 まずは簡単に安価で材料が手に入る塩ダレを教えることにした。東方からの輸入品である醤油や味噌は値段が高いし扱ってる店も少ない。それに砂糖も高価だ。流石に教会で作るとなると金銭的な負担が多く、モツでの儲けが減ってしまう。


 手早く塩だれを作り終わり、工程は全て終了した。


「それじゃまたね、よく火を通して食べるんだよ」


「「「は~い、ヒイロ先生ありがとう」」」


 孤児達は力を合わせて孤児院のキッチンに魔猪を運び込み、皆で調理を始める。


「ヒイロ、少し話があります。お時間いいですか?」


「はい、大丈夫です」

(なんだろう?)


 一方ヒイロはセツナに案内され、教会の一室に入ると既に司教が座って待っていてた。


「えっ、司教様?」


「ヒイロ、今日はご苦労だった」


「いえ、僕も貴重な経験でした」


 司教が労いヒイロが返事をする。話が弾む前にセツナが司教がいる理由を話した。


「今後、あなたの発明した魔道具の扱いを兄にも協力してもらうので呼びました。早速本題に入りましょう。どうぞ座ってください」


 セツナは真剣な表情で話し始める。


「先ずは私の話を最後まで聞いてください。質問は最後にお願いします」


「はい……」

(なんか先生が少し怖い気がする)


「ヒイロが作った私達の義手、義足、義眼は恐ろしいほどの影響をこの世界に及ぼす可能性があります。それはありとあらゆる事にです」


「えっ!」


「先ずは労働力。腕や足がない人々が、しばらく訓練すれば元の体のように自由に動かせる。これはとても素晴らしいことです。すると働ける人、つまりは労働力が高まり様々な人々が仕事ができる。すると生産力が高まります」


「はい」


「次に経済です。それに伴って経済も世界規模で変動するでしょう。欠損部位を戻すほどの超高位回復魔法や伝説級のアイテムより、かなりの安価で元の生活を取り戻せる。その需要は計り知れません。それに、王国には無いですが奴隷制度を有する国では、奴隷価格が変動するでしょう。商人や貴族、おそらく王族までも喉から手が出るほどほしい技術だと思います」


「そんな……」


「となると、ヒイロ、貴方はこのままでは狙われてしまいます。今でも貴方の周りを嗅ぎ回る者達が既にいますが、これからは直接ちょっかいをかけに来るでしょう。最初はお金で、次に脅迫、そして最後には実力行使に出て、貴方が攫われてしまうかもしれない」


「…………」


「なので、その技術と権利を教会に預けませんか?一応、他のギルドも考えてはみましたが、やはり教会が一番あなたを守ってくれると、私の結論は達しました」


 ずいぶんとスケールがデカい話になってしまってヒイロは呆けてしまった。途中まではなんとか理解しようと努力したが、ここまで規模が大きいと何も実感がわかない。ただ恩返しのために、感謝の気持ちを込めて作った魔道具が、こんなことになるとは夢にも思っていなかったのだから。


「そこで私は出番というわけだ」


 セツナの話が終わり、司教が口を開く。


「この魔道具の知識と技術の管理運営を、ヒイロから教会が委託されるという形をとる。もちろんヒイロ個人は好きに依頼を受けて作っても構わん。しかし、この魔道具を望む者は圧倒的に多すぎる。どんなに頑張っても一人では捌ききれないだろう。それにこの技術を悪用すれば、性根の悪い者達も再び犯罪を起こすかもしれん。なので教会が認可をした鍛冶師に知識と技術を提供し、使用者は教会が認めた者しか魔道具を下賜しないとすれば、問題はかなり減らせるだろう。誓約魔法で縛りさえすれば問題を起こすこともない」


「…………」

(こんなに司教様が喋るの初めて見た)


「何より君を守る後ろ盾になる組織は、大きければ大きいほど安全だ。正直一国でも力は弱いが、教会ならば、どの国が君に害をなそうとしても、直ぐに抑止力として動ける」


「わかりました。先生と司教様がそうお考えなら僕はそれに従います」


「いいんですか?もっと時間をかけてよく考えてもいいんですよ?」


「セツナ、お前が何を言い出す?」


「う~ん、正直僕の頭では、そこまで色んなことを考えられません。でも先生が考えて司教様が協力してくれる。ならそれが一番だと思います。僕はお二人を信用してますから」


「ヒイロ……あなたって子は……」


「なるほど……セツナ、お前が可愛がるわけだ」


「正直、お二人に丸投げな感じですけど、ははは……」

 

 今日の話は纏まり、後日ドモンとレインも交えて五人で深く話し合うこととなった。



「ヒイロ、これを」


「これはなんですか?」


 帰り際、司教が指輪をヒイロに渡した。


「教会が守護した者の証だ。小指にはめなさい。そしていつも離ずさぬように」


「わかりました。ありがとうございます司教様」


「さぁ、ヒイロ帰りましょう。送っていきます」


「はい、先生」


 二人を見送る司教はいつも見慣れた景色の物陰を蔑んだ目で数か所視線を移し思った。


(ふむ、もうこんなに虫が湧いていたとは……少し事を急ぐか)


 司教が見送りをやめ中へと戻り、教会の扉は固く閉められた。


 夜道を光魔法で照らしながら、ドレン工房に向う二人。


「こんなに大変なことになるなんて……」


「ヒイロが気にすることでは無いですよ、と言っても気にするでしょうね。ははは」


「先生、笑い事じゃ無いですよ~」


 先ほどの話を振り返り、落ち込むヒイロをセツナは慰めながら歩いていたが、急に立ち止まりヒイロを庇うように一歩前に出る。


「先生、どうしたんですか?」


「ふむ、早速行動に移しましたか」


「え、どういう、うわ! 」


 突如、路地の暗闇から火球が数発放たれ、二人を襲うがセツナが咄嗟に魔法障壁を発動しそれに当たると火球は掻き消える。


「二流ですね。これが本当の火球(ファイアーボール)ですよ」


 そう言ってセツナが放った魔法は、攻撃された火球よりとても小さいが、速度は倍以上で路地へと向かっていく。


「えっ!なんで!狙われ……」


ヒイロはまだ状況についていけず慌てふためいている。


「ぐあぁぁぁ」


「も、燃えてる。なんで!あっ、えっと!」


 命中した証拠に火柱が上がり叫び声が聞こえる。そしてセツナは動揺しているヒイロに活を入れた。


「ヒイロ、しっかりしなさい!」


 突如襲われパニックになるヒイロに、大声で名前を呼ぶセツナ。


「は、はい、先生!」


「ヒイロは後ろの警戒をお願いします。急いでドレン工房に向かいますよ」


「わ、わかりました」


「いきますよ」


 ヒイロに指示を出し二人で走り出す。すると他の路地裏や木の陰や屋根の上から、数々の魔法が二人を襲った。


「ヒイロは、ずいぶんとモテモテですね、くっ」


「そ、そんな!トラブルにはモテたくありません」


 魔法障壁で防御するセツナ。手数が多すぎて攻撃する隙がない。それでも軽口を言ってヒイロの恐怖心が薄れるよう気を配るも、走る速度は攻撃のせいで遅くなっている。相手から狙いやすくなってしまうが致し方ないと、全力で魔法障壁に魔力を注ぐセツナ。


(このままでは不味いですね……)


「ぐはっ」「ぐふっ」「ぎゃっ」


(ふぅ~来てくれましたか)


 うめき声が聞こえる度に、二人を襲う攻撃魔法が減っていく。しばらくして魔法が止むと、黒尽くめの暗殺者のような人物が二人の前に現れた。仮面をつけ顔もわからないが、シルエットから獣人の女性だとわかる。


「助かりました。迎えに来てくれたんですね」


「遅かったからね。ヒイロ、大丈夫?」


「えっ、レインさん!」


 セツナが礼を言うと仮面を外す暗殺者。その顔はヒイロもよく知る人物だった。


「その姿を見るのも久々ですね」


「本当よ。まさか、また装備して戦うなんて思ってもみなかったわ」


「レインさんって忍者なんですか?」


「「ニンジャ?」」


「あっ、いえ、何でもありません。でも凄く格好いいです。それに凄く強かったんですね」


「ま、まぁね」


「レイン、照れてないでさっさとこの場を離れますよ」


「そうね。帰りましょうヒイロ」


「はい」


 ◆


 ヒイロが教会でセツナと司教と話し合っていた頃、閉店と掲げられている看板を無視して三人の冒険者風の男達がドレン工房の中に無言で入ってきた。


「気配を消して黙って入ってくるとは客では無いじゃろ?」


 工房から短斧を両手に持って現れ話しかけるドモン。その目は鋭く彼らを睨んでいる。

 

「少年はどこだ?」


「ふむ、ヒイロの友達には見えんがのう。何の用じゃ?」


「とある御方が彼を屋敷に招きたいそうだ」


「ほう、ずいぶんと物騒なお誘いみたいじゃのう?」


「いいから居場所を教えろ」


「嫌じゃ」


「なに!ならば力尽くで聞き出すまで」


 ドモンが断ると、剣を抜き構える男達。その剣は冒険者が扱う物より綺麗で上質な素材が使われているのがわかる。そして柄には家紋らしき装飾が施されていた。それを鍛冶師のドモンが見過ごすはずも無い。


「何処のお抱えの騎士かは知らんが、こういう仕事で、その剣を使うのは頭が足りんのう」


「くそっ、ならばその口を封じるまで」


「お主らに出来るかのう?」


 そして、戦闘が始まった。一人目がドモンに斬りかかるが、右の短斧で受けられ左の短斧で足を切り裂かれる。


「ぐぁ~~~」


 二人目が魔法を発動しようと手をかざすが、ドモンは、その前に右手の短斧を投げ腕を切り裂きながら肩へと刺さった。


「ぎゃ~~~」


 三人目は外へ逃げようとドアを開けるが、そこにはレインが立っており、義手の左手で首筋に素早く手刀を打ち込み意識を刈り取る。


「がっ」


「こ奴らはわしが見張っておく。レイン、装備を整えてヒイロを迎えに行ってくれ」


「わかったわ」


 三人の暴漢を工房にあった鎖で縛り上げるドモン。


「色々と聞かせてもらうぞ。話せばポーションで回復してやるわい。早く治療しないと血が足りなくなって死ぬかもしれんがのう」  



「ドモンさん、ただいま……」


「おう、おかえりヒイロ」


「えっと……何をやって……」


 見慣れぬ光景に驚くヒイロ。店には見知らぬ冒険者達が鎖で縛られ、顔色が青く意識を失いぐったりとしていた。そいつ等を椅子に座って酒を飲みながら見下ろしているドモン。普通に挨拶が返ってくる事に戸惑いながらも問いかけると、


「強盗じゃよ。返り討ちにしたから締め上げて話を聞いておる。もう、終わったがな。レイン、すまんが衛兵を呼んできてくれ」


「わかったわ」


 いつの間にか、いつもの服に着替え終えたレインにドモンが頼むと、直ぐに工房から出ていった。


「強盗!」


「それとヒイロ、お主を訪ねてきた奴らでもある」


「そ、そうなんですか?」


「そうじゃよ。衛兵に突き出したら飯にするぞい」

 

「なら、僕が作りますね。でもお肉を焼くだけですけど」


「良いのう。肉を食べると元気が出るからのう」


「ドモン、私もお呼ばれしても?お話もありますし」


「もちろんじゃ、セツナ。レインが帰ってきたら皆で情報の擦り合せをするぞい」


 レインが衛兵を連れてきて、暴漢達を引き渡した後、皆で食事を済まし四人で話し合いが始まった。


「なるほどのう。司教様が…… 」


「はい、兄が教会に掛け合ってくれます。ただ少し時間がかかるかと…… 」


 教会で話した内容をドモンとレインに伝えるセツナ。


「どれぐらいだ? 」


「最低でも一ヶ月は…… 」


「なら、しばらく身を隠すのはどう?素材採取も兼ねて久々に遠出でもするのもいいわね」


 そうレインが提案すると、


「いいですね。二人の身体も自由に動くようになりましたし、ヒイロの戦闘訓練も兼ねて」


「えっ!?」


「まだ夜営もしたことがないから丁度いいわね」


「そうじゃのう。それにもう少し戦闘が出来ないと今後が心配じゃ。対人戦闘も教えておきたいしのう」


「魔法の発動速度の訓練もしたいですね」


「そんな~~~」


 身を隠すより、ヒイロの訓練が目的になりつつあるが、今後彼の命を守るには必要なことである。


「レイン、いつから工房を休める?」


「今後の依頼を受けなければ、早くて三日後からね」


「わかりました。私の私塾のほうも代理をお願いしておきます。それと教会へ頼めばヒイロに聖騎士の護衛がつきますがどうします?」


「いや、いい。彼らは融通がきかん……」


「そうね……でも後一人ぐらいは欲しいわね」


「なら、ガロードさんはどうですか?」


「「「おお、ガロードか! 」」」


「なら明日、私がアルゴに依頼を出しにいきますよ。三人は工房から出ないでください」


「でもそれじゃ先生が危ないんじゃ…… 」


「「はははははは」」


「二人共なんで笑って?」


「大丈夫よ。セツナは手加減しなければ一番強いんだから」


「そうじゃぞ。その代わり戦闘した場所は地形が変わるがのう」


「もう、そこまでの魔法を街中で放つつもりはありませんよ。いったい、いつの話をしてるんですか!ドモン、そんな昔の話をしないでください」


「事実じゃろう? 」


「……地形……が変わる……」


「はいはい、二人共この話は終わりよ。だからヒイロ、心配しなくても大丈夫よ」


「ヒイロ、遠出したら道中でドモンとレインの昔話をしてあげますからね」


「セツナ、やめろ! 」


「やめてよ、なんで私まで! 」


「先生、聞きたいです。冒険者時代の話は全然聞いたことがないから楽しみだなぁ」


「「………… 」」



 そして三日後の早朝、ヒイロ達四人は冒険者ギルドの以前通されたギルドマスターの執務室に来てある人物を待っている間、何故か先日のバーベキューの話題からいつの間にかアルゴとターシャの話題へとなっていた。


「アルゴはどうなんじゃ? 」


 ドモンが尋ねると、


「その…… ターシャと付き合うことになった」


 照れくさそうな表情で答えるアルゴ。


「おお、ようやくか!」


「おめでとうございます。ターシャ」


「ターシャおめでとう。頑張ったわね」


「ありがとうレイン。アドバイスのおかげよ」


 突然の報告に喜ぶドモンとセツナ。アルゴの隣で立っていたターシャに抱きつくレイン。

 どうやらバーベキューの帰りに作戦は成功したようだ。  

 そんな会話をしていると、ドアがノックされ返事待たずに壮年の大男が入ってくる。

 革鎧をベースとし、急所を守るようにプレートで補強された鎧に身を包み、背中には大剣と大盾を担いでいる。そして右手を上げて軽い感じで挨拶をしてきた。


「よっ、ひさしぶり」


「「「ガロード」」」


「ガロードさん、見てください。完成しましたよ」


「おお、これらか!ヒイロ、頑張ったな」


「えへへ」


 三人が装備する魔道具を見て喜ぶガロード。嬉しそうに報告するヒイロの頭をくしゃくしゃと撫でる。本人は加減しているが、頭は大きく揺れていた。


「すまんな、ガロード。ヒイロの我儘に付き合わせて」


 そう申し訳無さそうにドモンが話しかけると、


「ドモン兄、俺以外の奴に依頼を出してたら落ち込んでたぞ。仲間外れはやめてくれ」


「言うようになったのう」


 そんなやり取りの後握手を交わす二人。


「ガロード、随分と強くなったみたいね」


「レイン姐、久しぶり。そりゃ俺だって成長してるさ」


 ガロードの成長を褒めるレインに照れながら苦笑いで答える。


「さて、私達に内緒でヒイロに協力していたそうじゃないですか。色々と聞かせて頂いても?」


「師匠、そ、そこは道中追々話しますよ」


 魔法の師であるセツナに問い詰められ、ガロードは未来の自分に丸投げした。


 ドモンとレインを兄や姐と慕い、セツナを師と仰ぐ壮年のヒューマン。久しぶりの再会で話も弾む。しばらくして日の出の時間が迫るとドモンが皆に言った。


「ドモン、何処まで行く予定なんだ? 」


 アルゴがドモンに尋ねると、答える前にガロードが話しに割って入った。


「それなんだが、皆に頼みがある」


 そう言いながら頭を下げるガロード。


「ガロード、どうした?」


 代表してドモンが問うと、


「俺がヒイロに協力したのには色々と理由があるんだ。出来れば俺の実家に皆を招待したい。そしてヒイロにある人の義手を作ってもらいたい。頼む」


 頭を下げたまま答えるガロード。


「ふむ…… ヒイロどうする?」


 少し考えヒイロへ話を振るドモン。


「もし、三人が了承してくれるならガロードさんの頼みを受けたいです。みんなの魔道具を作るのに協力してくれる時に約束していたことだし」


「そうなのか…… レイン、セツナ、二人はどう思う?」


「いいんじゃない?ガロードの実家なんて始めて行く訳だし楽しみよ」


「弟子の頼みを断るなんてありえませんよ。ドモンだって協力するつもりのくせに、そう勿体つけなくても」


「ああ〜まぁ〜その〜なんた。頭を上げろガロード」


「それじゃ?」


「別に行く宛もない時間潰しの旅の予定だったんじゃ。お主の実家に行こうではないか」


「ありがとう。恩に着る」


「道中色々と詳しく話してもらうぞ」


「ああ、もちろんだ」


 ガロードの頼みで時間潰しから目的のある旅へとなった一同。


「私達も道中ヒイロを鍛えるのが楽しみです」


「えっ? ………… 」


「頑張りなさい。身を守る技術は大切よ」


「は、はい、レインさん。頑張ります…… 」


 セツナの言葉に今後を考え落ち込むヒイロ。励ますレインの言葉に答えるも笑顔は引きつっていた。


「そう言えばあの日以降、害虫がわかなくなったけどセツナ、なにかしたでしょ? 」


「もちろんしましたけど、私ではなく兄がいろいろと……珍しく激怒していまして。やりすぎないよう必死に止めたのですが…… 」


「「「………… 」」」


 当然の如くセツナが言うも司教である兄が動いたと伝える。ヒイロ以外の皆が息を飲んだ。思い当たることがあるアルゴが、恐る恐るセツナに尋ねる。


「セツナ、それって最近お取り潰しになった男爵家と代替わりした大商会と関係あるよな?」


「私からは何も言えません。詳しく知りたかったらアルゴが直接兄に聞いてください」


「わかった…… 自ら望んで闇を覗く気はない…… 」


「懸命な判断です。ターシャに心配かけてはいけませんよ」


「もう、セツナさんたら」


「もうそろそろ出発するか」


「ギルドの裏に馬車を一台用意しました。それではアルゴ、ギルド経由で教会との連絡は頼みますよ」


「おう」


「ターシャ、アルゴをお願いね。彼、抜けてるところがあるから」


「任せて。そこも可愛いけど仕事は厳しく管理するわ」


「ターシャ、そこは優しく頼む」


「「「ははははは」」」


「では出発するかのう」


 ヒイロ達一行は住み慣れた城下町を後にした。



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