大丈夫なの?!
「なにあれ?!」
「どうした?」
「知らない反応がある」
リルが指差す方に進むと、魔獣が建物を壊していた。
「リンゴリラ?」
「知っているのか?」
「生きてるのは初めて。建物の中に人がいる」
そう言いながらリルは魔石を撃とうとするが、その魔獣は二人を気にする素振りはなく、建物を壊す事を止めない。
リルは魔獣の背中に向かって魔石を撃つが、撃った魔石は魔獣の体に当たった瞬間に砕け散った。
「弾かれた?!硬いの?!」
魔獣は魔石が当たった事にも気付く素振りがない。
「鈍いの?!もっと近寄って!」
ハルがリルを抱いたまま魔獣に近付くと、その魔獣は不意に振り向いて、間髪を入れずに襲い掛かって来た。
ハルは避け切れずにリルを庇った腕に魔獣の拳を受け、リルを抱いたまま吹き飛ばされる。
ハルはリルを包み込む様に抱きながら転がって勢いを殺すと、リルを抱いたまま立ち上がった。
「大丈夫?!」
「リルこそ大丈夫か?」
「私は大丈夫!いま治すから!」
「いや、痛くない」
「興奮してる時は痛くないのよ!」
リルはハルの腕に抱き抱えられたまま、ハルの腕の魔獣に打たれた箇所を調べようとするが、魔獣はリルが治療するのを待ったりはしない。
魔獣はまたハルに殴り掛かり、リルに腕を取られているハルは魔獣の拳を今度は背中で受けた。
再び飛ばされたハルは、やはりリルを包み込んで転がると建物に打つかり、その壁を突き破って中に入った。
「大丈夫か!」
「ハルこそ大丈夫なの?!」
「私は大丈夫だ!」
「大丈夫な訳ないでしょ!」
「取り敢えず治療は後だ!」
魔獣も建物の中に飛び込んで来た。
リルは土魔法で壁を作るが、魔獣の拳の一撃で壁は壊れる。
壁の破片が2人を襲うが、ハルがリルを庇って破片を背中に受けた。
「ハル!」
「大丈夫!」
ハルは走って建物の奥に進む。
「壁に穴を!」
「うん!」
目の前の壁にリルが土魔法で、リルを抱いたハルがぎりぎり通れる穴を開けた。
その穴を2人で潜るとリルは穴を閉じてゆく。
その壁を魔獣が殴って壊そうとする瞬間を探知魔法で探っていたリルは、壁に大きく穴を開け、魔獣の拳を空振りさせた。
空振った魔獣はバランスを崩し、建物の外に転げ出てると仰向けに倒れる。
その股関節にリルは魔石を打つけ、脚を千切れさせた。
もう一方の脚も千切ると、魔獣の脇の下にも魔石を当てて両腕も千切る。
それでもまだ戦おうとする魔獣の体をリルは土ドームで覆った。
「ハル!怪我は?!」
リルはハルの腕から飛び降りて、ハルの体を調べた。
「あれ?!見付かんない?!」
探知魔法でハルの体を調べたのに、怪我の場所が分からずにリルはパニックを起こす。リルはハルの服を引き千切って、肌を露出させた。
「え?!どこ?!どこ怪我したの?!」
リルがズボンに手を掛けるので、ハルは慌ててリルの両手を掴む。
「落ち着いてくれ」
「落ち着いてなんて!」
「いや、どこも痛くはないし、ほら。最初に殴られたのはここだ」
ハルはリルの手を掴んだまま、腕をリルに見せる様に持ち上げた。
「赤くもなっていないな」
「・・・どうして?」
「私には分からないが、魔力を漏らしていると怪我をし難いなど、ないのだろうか?」
「・・・聞いた事ない」
「まあ、怪我をしないなら、それに越した事はないだろう」
「ダメよ!理由が分かんないんだから、油断しないでよね?!」
「分かっている。さっきだって避けようとしていただろう?自分から当たりに行ったりはしない」
「あぶない!」
別の魔獣がハルに襲い掛かって来たが、リルが魔石を撃ち出して弾けさせた。
そこに魔力が上空から降り注ぐ。
「攻撃か?!」
「ううん。治療魔法っぽいんだけど、誰に撃ったんだろう?」
「どこからか分からないのか?」
「ううん。神殿の」
リルは見上げていた神殿の尖塔を指差した。ハルも尖塔を見上げる。
「あれって神殿なんだけど、あそこの塔から撃ってるけど、怪我人がいないんだけどね?」
「神殿から?」
「さっきから何回も撃ってたけど、兵士を助けてるのかな?治療魔法だけでなく、回復も入ってるから」
「女性が杖を持っているな」
「うん」
「もしかして彼女が、新しい聖女と言われている人物なのだろうか?」
「新しい聖女?」
リルはハルを振り向くが、ハルはまだ尖塔を見上げていた。
「ああ。オフリーに新しい聖女が誕生したとの神託があったそうだ」
尖塔を見上げたままのハルの言葉に、リルの眉尻が上がる。
「へー。どうでも良いから、体を見せて。他も大丈夫なの?」
「ああ。痛みは全くない」
「背中も当たったよね?」
「背中は殴られたし、壁にも打つかったが、どうだろうか?」
「赤くもなってない。全然なんともないね」
リルがハルの回りをひと回りしてハルの体の様子を確認し終えた時、魔獣を閉じ込めていた土ドームが弾け飛んだ。