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オフリーの状況【傍話】

 窓も扉も閉め切った神殿の祈祷の間に、大勢の人々がしゃがみ込んでいる。


「祈りなさい!」


 神官の大きな声がした。


「今も聖女様はあなた達の為に祈っています!あなた達を救う為に!聖女様は祈っているのです!」


 扉を叩く音が聞こえる。数人が反射的に振り向くが、残りは祈りの姿勢を崩さず、多くが目を強く瞑った。


「祈りを聖女様に届けるのです!聖女様に適えて頂くために!あなた達自身を救う為に!そしてあなた達の大切な人を救う為に!」


 扉の外から助けを喚ぶ声が聞こえる。


「あなた達の大切な人を救えるのは!あなた達の祈りだけなのです!あなた達の祈りが聖女様に届いた時!あなた達の大切な人は救われるのです!」


 扉の外の声は叫び声になった。


「惑わされてはなりません!タヤの二の舞を演じてはなりません!扉を開けても大切な人は守れません!ただ聖女様に祈るのです!それだけがあなた達の大切な人を救える(すべ)なのです!」


 神官のとうに枯れている筈の声も、人々のとうに尽きている筈の体力も、間欠的に降り注ぐ回復魔法の効果に拠って、未だ保たれていた。



 オフリーのダンジョンは城壁に囲まれていて、もしダンジョンから魔獣が出て来ても、城壁に阻まれて街には出て来ない筈だった。

 しかしその日、次々とダンジョンから出て来た魔獣は、城壁に阻まれて折り重なり、やがて他の魔獣を足場として城壁を乗り越えるものが現れた。

 オフリーの街自体もまた城壁に囲まれていて、その城壁でダンジョンの外に棲息する魔獣からの侵入を防いでいた。しかしダンジョンから溢れ出た魔獣が街に広がり出すと、オフリーの街から逃げ出す人々が城門から外に出て、それを追い掛けた魔獣が城門を破壊してしまった。

 オフリーのダンジョンを囲む城壁内には魔獣が文字通り溢れ、オフリーの街中にも魔獣が跋扈し、オフリーの外にも魔獣が増えて行く。

 誰もそれを止められないでいると、空を飛べる魔獣もダンジョンから出て来た。飛べる魔獣はオフリーの上空を旋回したかと思うと直ぐに、1つの方向を目指して飛んで行った。そしてその方向の遙か先には、王都があった。



 神殿の尖塔の頂上近くに、尖塔の周囲をぐるりとひと回り出来るバルコニーが付いている。

 そのバルコニーに立つ1人の女性が、杖を捧げて回復魔法を撃っていた。

 その周りには何人もの人間が、バルコニーにぐるりと並んで下を見て、街の人々の様子を報告する。

 そしてその尖塔の直下には何人もの兵士が武器を構え、魔獣が尖塔を登る事を防いでいる。しかし兵士の槍も剣も刃毀れがしており矢も尽きていて、どの武器も鈍器としての使われ方をしていた。


 バルコニーの上の人々が声を上げる。


「聖女様!こちらをお願いします!」

「どこです?!」

「あそこです!あそこで親子が魔獣に襲われています!」

「あれですね!」


 女の持つ杖から回復魔法が撃たれ、襲われている親子に当たった。怪我の治った親は子を抱えて、魔獣の爪から逃げ延びる。


「聖女様!こちらへ!」

「どこです?!」

「あそこにいる私の恋人を助けて下さい!」

「またですか?!」

「お願いします!」


 血だらけの人間に回復魔法が当たると、血だらけのまま魔獣から逃げ延びた。


「ありがとうございます!」

「先程から血だらけで!怪我をしているのかどうか分からないではありませんか!」

「聖女様!次はこちらに!」

「いいえ聖女様!こちらを!」

「その前に私の親が!」

「あちらの兵士が囓られています!」

「こちらの方が危なそうです!」

「早くしないと死んでしまいます!」

「もう!1度に言わないで!!」


 女の杖から撃たれた回復魔法が、広い範囲を覆い尽くす。

 その漏れた光は、女自身や女の周囲の人々の疲れと乾きと飢えを癒し、祈祷の間の人々を癒し、疲弊した兵士を癒し、傷付いた領民を癒やした。

 淡く周囲を包む光に、人々は思わず逃げる足を止めて、光を放つ神殿の尖塔を見上げた。

 そして足を止めた人々に、また魔獣が襲い掛かる。


「聖女様!また恋人が!」

「何回目ですか!」


 既に何日にもなるこの膠着状態は、女の撃つ回復魔法が支えていた。

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