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報告と反対【傍話】

 王宮に着いた伝令は、そのまま謁見室に通された。


「スタンピードとは、(まこと)なのか?」

「はい、国王陛下」

「規模は?」

「わたくしはダンジョンより魔獣が溢れた時点でオフリーを離れましたので、全体の把握はしておりません」

「では間違いかも知れないのですね」


 国王の隣に座る王妃が口を挟む。


「ですがその後、クワイバーンの群れに追い越されました」

「その群れはダンジョンから現れたのですか?」

「それは、分かりませんが、オフリーの方角から飛来して来たのは確かです」

「その魔獣はどこに行ったのです?」

「それも分かりませんが」

「私や国王に対して、虚偽の報告をしたらどうなるか、分かっているのですよね?」


 伝令は口をきつく閉じると、視線を下げた。

 国王は玉座から立ち上がる。


「直ちに確認を送れ!」

「待ちなさい」


 国王の命令を王妃が止めた。


「嘘だったらどうするのです」

「真であったらどうするのだ!」


 国王は王妃を見下ろしながら睨む。座ったままの王妃も目を細めて国王を見上げた。


「最近は街や街道で、魔獣に襲われる事件があったではありませんか。それと見間違えたのですよ」

「ダンジョンから出て来るところを見間違える筈がなかろう!」

「この国には聖女の私がいます。スタンピードなど、起こる筈がないではありませんか」

「しかし現に!」

「私を貶めようとする誰かの策略ですよ。だって、オフリーだと言うのではありませんか」

「まさか、ハテラズの所為だとでも言いたいのか!」

「まさか。偽聖女を名乗ってる冒険者ですよ。ハテラズは死んだではありませんか」


 国王は歯を食いしばり、拳を握り締め、王妃から視線を外して前を見る。


「最近はダンジョンの外でも魔獣が活性化しておる!」

「それは聖女である私への当て付けで、言ってるんですか?」


 国王は王妃の言葉を無視して、片腕を前に伸ばして命じた。


「問題があってからでは遅い!軍を派遣しろ!」

「お待ち下さい、国王陛下」


 今度は宰相が横から国王を止める。


「軍の兵士を派遣するのは、わたくしの責務としては反対せざるを得ませんな」

「何を言っておる!」

「兵士はこの王都を守る存在。万が一国王陛下の仰る通り、魔獣が活性化しておるのでしたら、なおさら王都を離れさせる訳には参らないと、至極真っ当な意見を述べさせて頂いておるのです」

「ではオフリーを見捨てると言うのか!」

「我が国には聖女様がいらっしゃる。わたくしも聖女様の仰る通り、聖女を騙るオフリーの(なにがし)かの仕業だと判断いたします。そしてもし本当にオフリーにいるのが本物の聖女だとでも言うのなら、その者にスタンピードの対応をさせればよろしいのです。その者達の策にわざわざ乗って、わざわざ王都を危険に曝す必要はございません」

「もしも本当にスタンピードが発生していて、王妃とは別の聖女がもしもオフリーにいなかったらどうするのだ!」

「2つももしもを重ねられても困りますが、もしそうであるのでしたら、既にこれだけ日にちが経っているのです。今更オフリーに兵士を送っても、既に手遅れでしょうな」

「では何もせずに放って置けというのか!」

「魔獣の事は冒険者に任せれば良いのですよ」

「冒険者だと?!」

「ごろつきばかりですが、それでも専門家です。もし本当にオフリーから魔獣が溢れているのでしたら、今頃は嬉々として討伐しているでしょうな」

「冒険者協会が動いていると言う事か?」

「当然です。王都には魔獣などいないのに、あんな一等地でふんぞり返っているのです。なんでしたか?そこの伝令が見たなんとかバンも、冒険者が倒したから見当たらないのでしょうな」


 蹙めた顔の国王に睨まれた宰相は、ふっと息を吐いたが、それは鼻で笑った様にも見えた。


「慌てて兵士を送ったりすれば、相手の思う壺です。直ぐに誤報だとの報告か、あるいは鎮圧したなどとの誇張した報告が来るに違いありません。国を思う一人と致しましては、王妃陛下たる聖女様の御言葉を信じ、泰然と待たれる事を国王陛下にはお勧めいたしましょう」


 そう言うと宰相は、国王に向けて微笑んだ。

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